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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
現代戦を取り入れてみたら?
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風雲急を告げる

 ココリアの町から帰って来ると思いがけない人物が待っていた。

 偵察隊の小隊の1つが帰還していたのだ。そして、その小隊長が面会を希望して来た。

 まあ、何かあったから帰ってきたのだから、報告は必須だろう。

 やって来たのはガルガラには敵わないが、がっしりとした筋肉で覆われたダンディな男性だ。なんか最近こういうキャラと縁がある。


 彼の名前は秀男。元々今の小隊のメンバーを引き連れた侍で、かなりの優秀な侍であった。

 人数の関係で彼の小隊だけ6人制だ。

 隊員は、彼とドワーフの近接戦闘派2名と斥候役のナイフ使い。弓使い、魔法使いに回復役のエルフまでいる。

 彼自身は前線で大剣を振るいながら指揮をとれる猛者だ。

 そんな偵察隊でもとび抜けている彼の小隊が任務半ばで帰って来たのだ。 何かあるに違いない。

 実際、その通りだった。


「将軍殿。指定された場所に行って来たが、目標を発見できなかった。どうするか迷ったが、とりあえず帰還して報告しに来た。」


 秀男さんはそう報告して来た。


「指定場所に目標がなかった?本当か?あの場所に敵がいないと言うのは?」

「ああ、間違いない。実際に指定場所まで行って来たが、敵には遭わなかった。

 一応周辺も捜索したが、敵が潜んではいなかったぞ。

 それどころか、道中一度も敵に遭わなかった。将軍が雇った侍達も、帝国兵には一度も遭わなかったそうだぞ。」

「まさか、あそこに敵がいないとは思わなかった。

 ありがとう。君たちは明日一日休養して、明後日、朝一であそこに行ってくれ。

 そして、そこから敵兵を監視して、人数の割り出しを頼む。」

「解った。何日ぐらいみとけばいい?」

「そうだな。とりあえず、2週間はみといてくれ。」

「解った。では、明後日朝一に立つ。」

「よろしく頼むよ。」


 秀男さんは一礼して出て行った。



 しかし、困った。作戦のかなめである敵のおびき寄せが難しくなった。

 今回俺が立てていた作戦は山道での待ち伏せである。

 重京へ向かう街道は細い1本道。周りは険しい山で、待ち伏せを警戒しながらの行軍になる。

 つまり、もの凄く待ち伏せしやすい環境なのだ。

 だから俺は、事前に偵察隊で偵察して、それから行軍するつもりだった。

 そして、準備が整った時点でわざと敵に見つかり、1戦。すぐに敗走し、追って来た敵軍を罠で殲滅。

 その後進軍を再開し、要塞に籠る少数の兵を撃破して占領。という、大筋では鷹ヶ城と同じような作戦だった。


 罠を警戒しなければならないという事は、罠に掛けやすいと気付いたからの作戦だった。

 しかし、敵は全兵が要塞に籠っているようだ。

 まあ、確かに考えれば当然か。頑丈な要塞の中からわざわざ出て来て戦う兵はいないわな。

 それに要塞には塔もある事だし、他の場所に兵を配置する必要もないか。


 しかし、それだと兵数でも多い敵の要塞を少数で攻略しなければならない。それは難しいだろう。てか、無理である。

 何とか敵をおびき寄せないと。

 でもこの状況じゃあ、要塞から打って出て来ることはないだろうな。

 何とか敵をおびき出す方法は……


 頭の後ろに手をやり、木の椅子の背もたれにもたれかかる。そのまま伸びをしようとして後ろに倒れてしまった。

 チートな体のせいかあまり痛くはなかったが、音に驚いて部屋の前にいた兵が駆け込んできた。

 それを横目で見ながら、そうだよ、こんな風に何とか敵を誘き出せないかな。と倒れた姿勢のままで考え込む。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


 様子を見に来てくれた兵が心配そうに声を掛ける。


「驚かせてすまないね。考え事中でね。」

「はあ、大丈夫なご様子で良かったです。」


 兵は怪訝そうな顔でそう答える。

 敵を驚かせて誘き出す?どうやって?大きな音でも立てるか?いや無理だな。

 なおも考えにふけていると兵をさらに心配させてしまったようだ。


「将軍本当に大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だよ。見に来てくれてありがとう。」


 少し心配させ過ぎたので、立ち上がって椅子を戻しながら答える。


「ええ、将軍の部屋からでしたので驚いて。他の部屋ならわざわざ見に入ったりはしないのですが。」


 そう言って頭をかく兵。

 まあ、そうだろな。大きな音がしたぐらいじゃわざわざ見に来ない……

 そう、わざわざ見に来たりしないだろう。見に来たりは!!


「ちょっと待った!!」


 一礼して退室しようとする兵を呼び止める。


「直ぐに部隊長達に来るように伝えてくれ。急ぎだ!!」

「は、はい。解りました。直ぐに呼んできます!」


 兵は慌てて部屋を飛び出して行った。


 なぜ気が付かなかったのか?もっと早くに気付くべきであった。

 これまで、どの偵察小隊からも、どの侍のグループからも敵兵に遭遇したと言う報告はなかった。

 つまり、敵は索敵していない。要塞に籠っていれば勝てると思っているのだろうか。

 まあ、事実あの要塞は正攻法じゃ攻略は無理だろう。だから油断している。

 こちらが動いているのは侍所を通じて知っているはずだ。

 それでも動かない。動けないのか?いいや、やっぱり要塞の能力に絶対の自信があるからだろう。

 じゃあ、敵はこちらを見つけた場合どうするか?

 たぶん、何もしない。攻撃してくるのを待っているだろう。戦闘準備位はするだろうが。

 そこを最大限に利用しよう。

 敵の油断を利用して、地の利を得るのだ!!


 となると、後は時間との闘いになってくる。

 敵が増援される前に攻略しなければ。

 敵に増援があるとは限らない。でもあると考える方が良いだろう。

 侍所や下手したら伊勢侯爵の所からも、皇国の帝国侵攻は漏れているだろうから。それに対して、帝国は増援、もしくは反撃してくる可能性が高い。

 鷹ヶ城を攻略した時点で敵の奪還作戦があると思って、1カ月待ったのだが、それもない。

 もし、奪還作戦が行われば、赤穂様の部隊と共同して撃退後、追撃しながら山間部の危険地帯を越える事も考えていたのだが、帝国は攻撃してこなかった。

 では、増援が行われたのかといえば、そういった情報は偵察隊からはもたらされなかった。

 重京の要塞も、捕虜たちの話と、偵察隊の報告に特に差異は見当たらなかった。

 たとえば、要塞内に多数天幕が張られているとか、訓練が盛んだとかそういった報告がない。

 ある報告では、夕方になると多数の兵が街に消えていく等というものがあるくらいだ。


 重京の要塞はまだ、平常通りなのだろう。つまり、増援また皇国攻略部隊はこれから到着するという事かもしれない。

 ならば、これらが到着する前に敵を叩かなければならない。敵が少しでも少ないうちに。


 状況が一変したな。今回も電撃作戦になりそうだ。

 時間との闘いか。たった1つの報告が状況を一変させた。

 俺の読みの甘さか。だが、まだ大丈夫だ。一気に攻め落とそう。


 そこからは、今回の作戦について、細かい点が次々と思い浮かぶ。

大筋が決まれば後は、筋道を立てていくだけだ。

 部隊長達が到着するまでに、すでに俺の頭の中では戦術が多数組合っていた。



 小さい応接室に部隊長達全員が集まった。

 副将軍の3人は俺の前のソファーに座っている。ガルガラがソファーの半分を占領しているので、後の2人は窮屈そうだが、文句は言わず真剣な顔つきだ。

 まあ、当然だろう。これから緊急の作戦会議が行われるのだから。

 副将軍以外の4人の部隊長はガルガラ達が掛けているソファーの後ろに並んで立っている。

 偵察隊に部隊長はいないが、秀男さんが呼ばれていた。


「急な呼び出し、すまない。秀男さんが持って帰って来た情報で、状況が変わった。可及的速やかに、重京に侵攻する。」


 言い終わって部隊長達を見るが、全員微動だにしない。予期していたのか、続きを待っているのか。


「いつ出発できるか報告してくれ。」


 そう言ってまず、ガルガラを見やる。


「後3日は欲しい所です。新旧の兵間の連携にもう少し調整が必要だ。」

「3日か。分かった。では、3日後の早朝には出発できるな。」

「!いや、3日調整に掛かると……。解った。3日後の早朝には出発できるようにしよう。」

「たのむ。」


「次、第2大隊。」

「私の所は何時でも大丈夫です。武器の整備と魔力の回復があるので、明日朝一でなら出発できます。」

「わかった。」


「次、第3大隊。」

「装備次第です。何を用意すればいいのかまだ聞いていませんので。当初の予定通りで良いでしょうか?」

「いや、通常装備で頼む。大型兵器は補給部隊に運搬させてくれ。」

「それなら、こっちも明日朝一で出発可能だ。」


「では、補給部隊。」


 ガルガラの後ろに立っている細身の男性がビクッとして話始める。

 彼の名前はまさ。ゼノンと皇都の中間の街、カカオリアスの近くの男爵領の村出身で村長の3男だ。

 すでに村長を継いだ長男と体格のいい次男に追い出される形で俺の騎士団に志願して来た。

 体力はあまりないが、学があるので補給部隊長に抜擢した。


「は、はい。私の…いえ、その、補給部隊ですが。物資の積み込みに1日掛かります。鉄次様の兵器の受取に半日ほど、明後日の朝には出発できると、その、思います。たぶん…」


 部隊長の重圧か元々気弱なのか、声がだんだん小さくなっていく報告を聞く。


「わかった。頼むぞ。」


「次は司厨部隊。」


 今度は肥満気味の男性だ。

 彼はかず。元皇都の大衆食堂のおやじだ。

 酒の入った騎士が隣の客の料理を奪ったのに腹を立てて殴り飛ばし捕まった。

 店は取り潰され、罰金で借金も負うはめに。妻子を守るために俺の騎士団に志願して来た。

 料理はうまいし、人身把握が得意だ。計算もできるので重宝する事になった。

 因みに、この時かばった客も一緒に俺の騎士団に来た。 

 彼は魔法使い見習いで当時は金もなく、良く和さんにお世話になっていたそうだ。

 若干15歳とかなり若いが、将来有望らしい。現在は第2大隊で鍛えられている。


「オレじゃなかった。私の部隊は何時でもいいぞ。

 将軍がくれた馬車なら行軍中にも料理ができるからいつでも食事を出せるしな。いや出せますし。

 3日分の食糧は既に積み込んである。なぁに、腐らない物を先に積み込んでいただけだ、です。

 えっと、今からでも、出発でき、ま、す。」

「……わかりました。司厨部隊を先行させることはないので。一応……。次は、製造設備大隊。」


 ソファーから頭が出ているだけの髭もじゃのドワーフが少し驚いた。

 彼はセンドウ。志願して来たドワーフ達の推挙で決まった大隊長だ。

 最年長者というわけではなく。一番技術力が高いから、らしい。ドワーフらしい決め方だ。


「!?オレらも出るのか?」

「いや、今回は留守番です。ですが、作戦が終了するまで捕虜の監視をお願いします。

 第1大隊から引き継ぐのにどれ位掛かりますか?第1大隊の兵も少し残しますが。」

「捕虜って、河南の奴らだろう。奴ら反抗どころか協力的だし、半日あれば大丈夫だと思うぞ。

 人数もオレらだけで大丈夫だ。見張るくらいなら訳ない。この会議が終わったらすぐに引き継ぐよ。」

「そうしてもらえると助かります。留守をよろしくお願いします。詳しくは後程命令書を出しますので。」

「ああ、そうしてくれ。」


「最後に、偵察大隊だが、秀男さんは予定通り、明後日出発してください。

 目的地に着くまでに、道すがら他の偵察小隊に本隊が動くことを知らせて行って下さい。後は先ほど言った通りでお願いします。」

「うむ、わかった。」


「では、皆さん。作戦は3日後に開始します。

 3日後の早朝、第1、第2、本部、第3、司厨、補給の順番で出撃。予定通り乙地点で野営した後、重京の要塞攻略に取り掛かります。」


 全員が息をのむ。分かっているだけで、今要塞には3千人程の兵がいる模様だ。そんな大人数がこもる要塞を半数以下の兵で攻める。まともではない。

 全員を代表してガルガラが質問した。


「勝てる見込みは?」

「敵が現状のままなら確実に。不測事態を含めて七割かな。」

「詳しい作戦は?」

「明日にでも命令書を各部に配布する。」

「分かった。準備がある。もういいか。」

「ええ、では皆さん。よろしくお願いします。では解散で。」


 ガルガラが勢いよく立ち上がり部屋を出て行く。楓さんと鉄次さんは普通に退室したが、残りの四人は足取りが重そうだ。特に雅さんは。

 まあ、命令書を読んだら少しはましになるだろう。

 作戦は口で説明するよりも、読んだ方が納得がいく。文字なら何回も読み返せるし、覚えやすい。

 その為に、その後すぐに命令書の作成に取り掛かった。

 侵攻作戦は急展開の末、ついに動き始めたのだ。


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