表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
現代戦を取り入れてみたら?
23/46

卑怯?いいえ作戦です。『鷹ヶ城攻略戦』

挿絵(By みてみん)


 鷹ヶ城占領が言い渡された3日後に騎士団は皇都を出発した。

 もちろん私も同行したが、奴隷少女3人はお留守番だ。

 皇都を出発して5日後に騎士団は古鷹砦に入った。

 元々古鷹砦には2千名位収容するスペースがあったので、私の騎士団が入っても特に狭くは感じなかった。


 一通り砦の指揮官達と交流し、指揮系統を確立。翌日にはいくつかの小隊を偵察に派遣した。


 騎士団が砦に入ったのを確認したためだろう、予定より早いので驚いた様子だったが、事前に依頼していた侍たちが砦に集まって来た。

 元々砦の守備に就いていた赤穂将軍の大隊長は、侍が砦に訪ねて来たことを不審に思っていたが、その数が10人を超えたあたりでないも言わなくなった。

 私は彼らの報告を副将軍達と聞く。

 聞きながら手元にある地図に必要事項を記入していく。

 この地図は元々皇都のある大店が持っていた地図の写しだ。

 元々皇国の北西部で接していた河南公国とは貿易が出来る関係であり、商人が行き来していた。

 この地図はその時に作られた物で、本屋や皇城の図書室に置いてある地図よりも精密だった。

 その地図が侍たちの報告でさらに精密になって行く。新しい情報も書き加えられて、この世界で一番精密な地図になる。


 この地図を作る作業と、敵の動向の報告などを聞き取る作業を3日続けて行った。

 3日後には雇っていた侍全員の報告をまとめ終わり、先行させていた小隊からの伝令で、予定地点に障害なしが報告された。



 砦に移動してから4日目の晩。ひそかに部隊を出発させる。

 出発させた部隊は全部で4つ、便宜上睦月隊、如月隊、弥生隊と本隊という呼び方にした。

 と言っても、本隊以外は工兵隊3個小隊で編成されている。


 睦月隊は危険を承知で夜間、街道沿いの山林の中を帝国領内に侵入。

 そのまま、古鷹川を上流へ少し行った渓流地帯で作業させる。

 タイミングが必要な作戦に使う予定なので指揮官として鉄次さんに指揮してもらっている。


 如月隊は古鷹砦を造った時と同じ位置、白鷹川上流に展開する。もちろん、作戦の布石だ。


 そして、弥生隊は古鷹砦から街道とは反対側の森に入って貰っている。

 彼らには砦から古鷹川に出るまでの森の中で下草を刈って、地面の凸凹を大きな木槌でならす作業をしてもらっている。


 そして本隊。

 本隊は俺とガルガラが率いている。今回は槍兵を2小隊30名連れている。残りは待機だ。

 夜明けの少し前、まだ暗い中、砦に残っている部隊が少し騒ぐ。

 と言っても見張りの兵を頻繁に交代したり、意味もなく兵達を建物から建物へ移動したりさせるだけだ。

 移動する兵達には松明を持たせてあった。

 もちろん、これはけん制だ。

 鷹ヶ城の敵を、古鷹砦のこの状況を見せて砦に注目させ、他の部隊の存在に気付きにくさせるのが狙いだ。

 狙いが当たったのかは解らないが、他の部隊が見つかる事はなかった。




 夜が明け始めた早朝。鷹ヶ城下の街道や川、そして古鷹砦も薄い霧に覆われる。

 朝もやだ。冬のこの時期常に発生する。鷹ヶ城からは雲海が見えるだろう。

 俺達は鷹ヶ城につながる唯一の道と街道とがつながっている場所の街道とは反対側の森の茂みの中に隠れている。

 目の前には、古鷹川に沿って北上する街道とその向こうに浅い古鷹川を挟んで山道が山上へと延びている。

 古鷹山は結構な急峻の山だ。あちこち岩がむき出しで、代わりに木がまばらだ。

 せまい山道はこの岩場に張り付いて何度も折り返しながら山上へとつながっている。

 そんな山道を20頭位の馬を連れて敵兵が下りて来る。

朝もやの中慎重に歩を進めているようだ。

 そして、川に到着すると、馬に背負わせていた大きな樽を2つ降ろし、川で馬を洗い始めた。

 古鷹川のこの部分は浅くなっており、水深が膝辺りしかない。

 もう少し下って大鷹川と合流すると水深は一気に深くなり人の背丈の倍くらいになる。なのでこの辺りは馬を洗うには最適だ。


 敵兵、と言っても農民みたいな雑兵だが、彼らは丁寧に馬を洗い終わると、持って来ていた樽に水を入れ始める。

 そして、水を入れた樽を数人がかりで馬に背負わせた。


 今がチャンスだ!素早く突撃の号令を出す。

 一斉に兵達が藪の影から飛び出して、低い崖を駆け下り敵に殺到する。

 敵兵は馬の轡を取って急いで山道を引き返そうとするが、重い樽を括り付けられた馬が急げるはずもなく、次々に討ち取られていく。

 馬を捨てて逃げようとした兵も間に合わず、全員討ち取られた。


 戦闘後直ぐに馬から樽を外してその場に落とし、馬を引き連れて古鷹砦に向かう。

 落とした樽は川底に当たって壊れ、バラバラの木片となって川下に流れていった。

 俺達は街道を通って古鷹砦に帰還したが、敵兵に追われることはなかった。

 昼前に砦から何人もの敵兵が城と川とを行き来していたので、その頃に初めて気が付いたのだろう。



 次の日も昨日と同じ場所に潜伏する。

 しかし、昨日と同じ時間には誰も現れなかった。

 ここ1月同じ日課だったのだが、さすがに警戒されたみたいだ。


 霧が晴れた昼前にようやく昨日と同じように20頭の馬を連れて敵兵が現れた。

 山道から川に下りながら、周囲を警戒している。

 5人ほど槍を持った兵が先行して街道までやって来た。まだ俺達は息を殺して潜む。

 槍兵は街道で警戒をするらしい。街道の先、砦の方を警戒している。

 すぐ目の前の崖の上の藪に俺たちが潜んでいることに気が付いていない。


 昨日と同じタイミングで攻撃を開始する。

 違うのは弓矢による先制攻撃を加えて槍兵を無力化した事だ。

 今度の敵兵は素早く馬を捨てて撤退に入ったが、矢の雨に行く手を阻まれ槍で始末された。

 今回は俺達も素早く馬を捕えて何人かは騎乗して撤退する。

 山上から敵兵が追撃の姿勢を見せたが、俺たちが砦に撤退したのを確認したのか大部分の兵が途中で下山をやめて城に戻って行った。


 砦に戻った俺はすぐさま全兵を臨戦態勢で待機させる。

 しばらくして櫓の上の物見兵が待っていた報告をする。

 俺も櫓の上に上がって確認する。

 鷹ヶ城から何人もの兵が皮袋を持って川に向かっていた。

 敵兵の先頭が川に到着した時点で全隊に出撃命令を出す。

 ガルガラを先頭に第1大隊が全員飛び出して行く。俺も愛馬に乗って出撃した。

 まだ全力で走る事は出来ないが、槍隊の先頭で槍隊に合わせた駆け足での騎乗は出来るようになったのだ。


 川に着くと敵兵は皮袋を捨てて壁になる兵と、何とか皮袋を城に運ぼうとする兵がいたが、狭い山道はまだ降りようとしている兵もいて大混乱に陥っている。

 そのタイミングで突っ込んだ。

 俺とガルガラは壁役の敵兵を強行突破して山道を登ろうとする兵の先頭集団に斬りかかる。

 敵兵は重い皮袋を背負っているので避ける間もなく無力化される。

 山道を塞いで後ろを見るとちょうど槍衾が壁役の敵兵に当たるところだった。

 綺麗にそろえられた槍の壁が敵兵を襲う。

 敵兵による壁はなすすべなく破壊された。それを見た残りの敵兵は皮袋を捨てて森に逃げて行く。

 俺達は深追いせず、直ぐに撤退に移る。

 撤退に入った俺の後ろでは、皮袋を捨てて山上に逃げていた敵兵が転がり落ちて来る。

 比喩でなく本当に山肌を転がり落ちて来るのだ。

 俺たちが敵兵を襲ったのを確認した敵は城から主力を出撃させたようだ。

 味方の兵を弾き飛ばしながら騎兵と軽装備の足軽が山を駆け下りて来る。

 騎兵の数は少ししかいない。

 城の守備隊という事を考えても少ないが、俺たちが40頭奪ったのを考えると妥当かもしれない。

 足軽の後ろから指揮官らしき人物が4騎の騎兵を連れて出陣したので、指揮官用の馬がまだ残っているみたいだが。


 さすがに味方を蹴落としてまでも急いできたかいがあったのか、砦に逃げ込む前に騎兵に追いつかれそうだ。

 騎兵は全力を出してこちらに迫ってくるが、追撃に夢中で足軽隊とかなり距離が開いた事に気が付いていないようだ。

 追撃なら自分たちで十分と考えているのだろうか。


 だが甘い。


 俺は槍兵達に号令をかける。槍兵は一斉に方向転換をした。

 そう、俺は撤退する際も陣形を保ったまま撤退していた。

 そして、槍兵達は訓練通りに、一糸乱れず綺麗な方向転換を実施、進行方向を前後入れ替えたのだ。

 今まで追いかけられていた兵が一斉に向きを変えた事で、突然敵騎兵の前に槍の壁が出現する。

 しかも、整えられた陣形の槍兵は敵騎兵の3倍以上の数だ。


 この瞬間でいうなら、こちらは数の優位を確保している。負けるはずがない。

 事実、敵騎兵は、突然の出来事に対応できずにバラバラのまま槍の壁に突っ込む事になり、瞬く間に全騎討ち取られてしまった。

 目の前で騎兵が壊滅したのを見せつけられた敵足軽隊はこのまま槍隊に突っ込む事に躊躇ちゅうちょしたみたいだが、俺たちが再び方向転換をして砦に撤退し始めたので、追撃を再開する。

 この時、目測だが、敵足軽は500名程いた。さすがに戦うにはこちらの歩が悪い。


 俺達は陣形を保ったまま砦の近くまで撤退し、大鷹川の浮遊橋前まで来た時、突然敵部隊のど真ん中で爆発が起こった。

 爆発に続いて山から大量の矢が襲いかかる。所々に炎の固まりも着弾し爆炎をあげていた。

 第2大隊の待ち伏せ攻撃である。


 俺たちが砦を出撃した際に、第2大隊も全力出撃していたのだ。

 楓率いる第2大隊は街道に入って直ぐの山に潜伏。待ち伏せを指示しておいた。

 そして、俺たちが撤退に移り、敵の追撃部隊が目の前を通った時に全力攻撃を開始したのだ。


 第2大隊はわずか百名ちょっとだが、敵の追撃部隊は指揮官以外全員足軽隊である。

 魔法兵や弓兵は同伴していない。

 しかも横手からの不意打ちで大混乱に陥ってなすすべなくその数を減らしていく。

 そこに再び方向転換をした槍部隊を突入させる。

 これがきっかけとなって敵部隊は総崩れとなった。


 敵指揮官が潔く全力で撤退を開始したのを見て足軽たちも我先にと逃げ出す。

 鷹ヶ城に向かう山道の入り口まで追撃したのち、反転して砦に戻った。

 砦から確認すると、敵は城門を固めているようだった。

 俺たちが城まで追撃するのを恐れたみたいだ。

 さすがに、わずか130名程の部隊で城に正面攻撃するほど俺は無謀じゃない。

 砦に帰るとすでに日が落ち始めていたので、今日の合戦はここまでだろう。

 一応警戒はしておくが、敵が夜間に狭い山道を下りて来るとは思わない。

 たぶん明日の朝出撃してくるはずだ。たぶん全力で。



 その晩は警戒と偵察の意味で弓隊を交代で、山道出口の川辺の崖の上に配置する。

 彼らは俺のもくろみ通り、夜間少人数でこっそりと皮袋を持って水を汲みに来た敵兵を始末してくれた。

 何人かの敵兵は下りて来るとそのまま森に逃げ出したり、時には小隊全員が森に逃げて行ったりしたが、弓隊は彼らを標的にすることはなかった。

 矢がもったいないのと、森の方に逃げられると直ぐに射程外になるし、木が邪魔になるからだ。

 しかし、皮袋にいれた水を持って山道をあがろうとする敵兵はすべて始末してくれた。



 俺が攻撃を開始してから3日目、もう敵城内には水が残っていないだろう。

 そう、俺の作戦は敵の水をつ作戦だ。

 数ある補給物資の中でも水はもっとも重要な物の一つだ。

 籠城するならまず水の確保は重要である。

 にもかかわらず、なぜか鷹ヶ城はこの点がおろそかだった。

 急峻な山の上に城を構えた結果だろうが、井戸が使えないみたいだ。

 その結果、彼らは毎朝川まで下りてきて馬を洗い、その馬で水を城まで運ぶという事をしていた。


 この報告を聞いたとき、俺はまず驚いた。自らの生命線を敵の前にさらしているのだから。

 明らかな認識不足。

 いや、まだこの世界では補給の大切さを理解していないので仕方がないのかもしれない。

 しかし、これはつけいる隙がある。

 そこで俺はこの隙を利用する作戦を立てたのだ。



 朝もやが晴れるとついに敵の主力が下山し始めた。

 全身を鎧で固め大きな盾を持った重装兵だ。

 ゆっくりとだが、確実に下山していく。その数は千名にも届きそうだ。

 文字通り全力出撃だろう。

 彼らは川に来ると警戒しながら水を飲み始める。中には直接川に口を付けて飲む者もいる。

 さすがに千名ともなると広範囲に散らばるが、全員川に入って行く。


 最後の一人が川に入った時、古鷹川の上流から轟音が聞こえ始めた。

 不安な顔で上流を見つめる敵兵彼らが見たのは川どころか街道いっぱいまで広がって迫ってくる濁流だった。

 彼らはなすすべなく濁流に呑まれていく。

 濁流は古鷹川を抜け大鷹川に合流。そのまま河口に向かってものすごい速さで流れていく。

 古鷹砦にも余波が押し寄せたが、堀と土壁が仕事をしてくれて損害は軽微だ。

 もっとも、浮遊橋は流されたが。


 そう、この濁流も俺の作戦の1つだ。敵が追いつめられるとがっちりと防備を固めて給水に来るのはたやすく予想できる。

 その時をねらった渾身の一撃。

 それがさっきの濁流だ。

 種明かしをすると、何の事はない。古鷹川上流で堰を作って水を溜め、タイミングよくその堰を壊す事によって人工的に鉄砲水を起こしただけだ。

 そのために、鉄次さん指揮のもと睦月隊を上流に派遣したのだ。

 街道にも被害をあたえ、少し地形も変えてしまったが、敵の戦力に大打撃を与えたのは間違いない。

 川の水が少なくなる事で見破られるかと思ったが、最高にハマってしまった。

 二撃目を恐れたのか、この機会に俺が攻めて来ると思ったのか、その日はもう敵兵が川に下りて来る事はなかった。



 その夜。鉄次さんと睦月隊、そして弥生隊が合流すると俺は再び出撃した。

 第2大隊は砦の守備に残したが、昼間にケガをした者以外の第一大隊全員も一緒だ。

 向かう先は街道とは逆の森の中。

 真っ暗な森の中を駆け足で進む。

 松明の明かりなどを一切持たずこんなことをしたら、普通ならたちまちドミノ倒しになって行軍不能になるが、ここは弥生隊が下草を刈って地ならししてくれた秘密の道である。

 真っ暗でも平らな道ならこけることなく走り抜けられる。


 実際に、一人の負傷者、脱落者もなく森を抜けて大鷹川にでる。

 この川を超えると鷹ヶ城がある古鷹山の山道とは反対側に出る事が出来る。

 しかし、目の前には川幅50mしかも両岸が少しえぐれた崖になっている大鷹川がある。


 少しその場で待機して息を整えていると、上流から黒い塊が流れて来る。

 真っ暗な中目を凝らすと、それは正方形の形に組まれた筏だ。その筏の上では人影が動く。

 その人影に向かって、部下が竹の筒にいれた白魔晶石で合図をする。

 その人影は目の前に来ると筏から何かを落とした。

 ザブンと音を立てて何かが落ちると筏はその場に止まった。

 続いていくつもの筏が同じ様に目の前で突然停止する。それらは次々に集まってつながって行き橋になった。


 筏の上に乗っていた如月隊と合流して、川を渡る。

 そう、この筏は白鷹川上流で伐採した木で作った物だ。

 如月隊はこの筏に縄で括り付けた大きな石と共に流れて来たのだ。

 そして、光の合図があった場所で石を落とす。石は縄で筏に固定されていたので、川底に落ちると筏を止めたのだ。

 後は、後続の筏とつながって行けば橋の完成だ。

 よくは覚えていないが、この方法は三国志の呉の将軍、周瑜が得意とした架橋方法だった気がする。

 そんな事を思い出しながら渡河に成功した。


 次は、最大の難関である、山登りだ。

 古鷹山の急な斜面は所々岩がむき出しでとてもではないが登るのは困難だ。

 唯一登れるのが、城正面の山道だが、奇襲の為、裏手から登山しているのでかなりレベルが高い。

 途中までは何とか皆しがみつきながら登って行ったが、ここからはほぼ垂直な崖の為登れなくなる。


 そう、普通なら。

 でも、俺は普通じゃない。そう、俺にはチートな魔法が使えるのだ。

 登れなくなったところで、魔力を練って崖に手を着く。

 鉄壁の防御力を発揮していた山肌に急な物だが階段が出現してその防御力を無効化した。

 その後も3回、魔法で階段を作って登って行ってついに、城壁に到達した。



 後ろを振り返り息を整える。

 ガルガラを先頭に皆準備が出来たようだ。

 魔法で一気に壁に穴を開ける。綺麗な白い土壁は一瞬で砂になり大穴を開けた。

 出来た大穴に飛び込む。踏み込んだ先は広場だった。

 まずい。見通しが良すぎる。さすがに城内の配置までは情報が得られていなかった。

 幸い門は一段低い所にある為門にいる守備兵は気付かないだろうが、敵兵が通りかかったら見つかるのも時間の問題だ。

 俺は急いで本丸を目指す。幸い夜遅い為か人影は見えない。

 本丸の入り口はどうやら角を曲がった先のようだ。

 如月隊が短剣を持って俺の後に続く。睦月隊は弩で櫓の上の敵兵を背後から奇襲していた。残りはガルガラが率いて門に向かう。


 睦月隊の使っている弩は大店で頼んだ材料を基に工兵達に自作させた物だ。

 まだ数が少なく、睦月隊の3小隊のみが納得のいく練度になったが、弥生隊の3小隊に至っては弩は1つも配備できなかった。

 因みに、一番危険な場所に睦月隊を配置したのもこれが理由だ。弩を持っていれば多少の敵は撃退できると踏んだためだ。



 本丸の正面に回り込むとさすがに歩哨が居た。入り口を挟むように2人がかがり火の側に立っていた。

 歩哨は突然裏手から現れた俺達に驚いて槍を突き出そうとしたが、圧倒的にタイミングが遅かった。槍がこちらを向く前に手前の1人を斬り倒す。

 俺が一人目を倒している間に、後続の兵がもう一人の敵兵に殺到し3人に剣で串刺しにされて絶命していた。

 突然の奇襲で声もあげられなかったみたいだ。


 それを確認すると、俺は部下たちを引き連れて本丸に突入した。

 入って直ぐの所は玄関のようで、靴箱が並び、その先の廊下が一段高くなっていた。もちろん、靴など脱がずにそのまま侵入する。

 俺自体は途中の部屋に寄り道せず、廊下を突き進む。

 どうやら廊下は外壁に沿ってコの字型を描いている様だ。所々に白魔晶石が輝いているので問題なく全力疾走できる。

 初めの角を曲がった時後ろから襖を蹴り倒す音が聞こえた。作戦通り、第3小隊が1階の制圧を始めたみたいだ。

 すばやく、2つ目の角を曲がってその先にある階段を駆け上がる。

 2階も1階と同じ構造みたいだ。そのまま廊下を突き進む。

 第2小隊は2階の制圧を任務としていた為3階に上がるのは第一小隊の20名のみだ。

 3階に上がる階段の中ほどで上から人影が見下ろして来たのでそのまま斬り上げた。

 俺に斬られて廊下に転がったのは豪華な着物を着た中年男性で、立派な刀を腰に下げていたが、その刀は抜かれる事はなかった。


 この男が大将かと思ったがとりあえず最上階を目指す。この城は外見から確認する限り、4階建てだ。

 一応前後から挟撃されてはたまらないので3階は廊下を通らずに目の前の部屋に侵入する。

 中は先ほどの男性の物と思われる布団が1つ敷いてあるだけだった。素早く通過して隣の部屋に襖を蹴り倒して侵入する。

 突然足元付近から銀閃が迫って来た。

 素早くジャンプしてその攻撃を躱す。

 目の前には片膝を縦ながら抜刀した姿勢の寝間着姿の男。もちろん着地のついでに上段から袈裟斬りにする。

 その男の状態を確認せず次の部屋に移る。


 この部屋は無駄に豪華で、金の屏風の前に一段高い畳の間があった。

 敵大将の部屋だろうか。先ほど斬り倒した敵兵2人の寝ていた部屋の4倍位の大きさがある。

 しかし、そこに敵大将らしき人物も布団もなかった。たぶん、ラスボスは予定通り最上階だろう。


 先ほどの部屋を突き抜けると、廊下に出だ。すぐ目の前が階段だ。

 素早く階段を駆け上がる。

 階段の先は廊下ではなく、部屋の入り口の襖があるだけだった。

 この襖は蹴破らずに両手で勢いよく開ける。

 スパン!といい音が部屋に響いく。


 部屋の中はなぜかピンク色の光で満ちていた。白魔晶石の上に赤い布を被せているようだ。部屋の中央に大きなベッドがある。

 そのベッドの上には裸の美女3人と金髪のおデブがいた。

 この世界に来て金髪は初めて見たが、そんなことを考える暇もなくこいつに接近する。

 突然の乱入者に金髪デブは上半身を起こして「うるさいぞ」とほざいたが、問答無用で首を跳ね飛ばしてやった。


 さっき3階で斬った敵兵や歩哨は少し罪悪感を感じだが、なぜかこいつだけは首を斬り落としたのにまったく罪悪感を感じなかった。

 明らかなって感じだからだろうか。

 隣で美女たちがキャーキャー言っているが無視してデブの首を取って外につながっているらしき障子を開ける。

 障子と雨戸を開けると、空がうっすらと白み出していた。まだ、薄暗いが城門付近で戦闘が行われているのが見えた。

 俺はデブの首を前に着きだして城門に向かって叫んだ。


「敵大将討ち取ったり。」


 後ろでは騎士団旗を持っていた兵が大きく左右に振っていた。

 城門の兵がこちらを注目するのが見える。見る間に戦闘は沈静化していった。

 何人かの敵兵は城門を開いて逃げ出したみたいだが、追撃はしなかった。


春までに占領のはずが…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ