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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
現代戦を取り入れてみたら?
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罠にみずから飛び込むの?

 晴嵐騎士団が結成されてから、2週間がたった。

 この間俺は、部隊の戦力化、とりわけこれまで個人力が求められていた戦闘に集団戦という新しい概念を取り入れての訓練を実施した。

 その結果、戦闘に特化した騎士団に仕上げる事に成功した。

 もちろん期間が短すぎて何とか様になったって程度ではあるが。


 また、侍所や大店を回っての情報収集に余念がなかった。

『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』

 この時代でも情報戦は大事だ。特に、相手がその重要性に気付いていないのであればなおさらだ。

 そして現代戦では最も重要な戦い、『補給戦』を実行する事によってこの世界では負けなしになるだろう。

 もっとも相手がその事に気付くまでだが、その間の知識の差は絶対に有利である。



 兵達の訓練が及第点まで仕上がったので、一日の休養日を設定した日、俺は王城に呼ばれた。

 王城といっても執務棟ではなく、本丸だ。

 初めて国王様に会ったのと同じ本丸の3階の部屋。此処で国王様に会うことになった。

 今回は加賀将軍と赤穂様以外の将軍は参加しないようだ。

 加賀将軍は一番左奥の座布団の上でふんぞり返っていた。

 赤穂将軍はその次の席で少し心配そうにしている。

 俺は右側の一番末席で姿勢を正している。

 その他の場所は座布団が置いてあるだけで空席だ。

 後にこの部屋が軍議を行う作戦室みたいな部屋だと聞かされた。


 いつもの様に太鼓がなって国王様の前の襖が開けられる。国王様の声で一同が顔を上げた。


「加賀将軍、赤穂将軍、それに五十嵐将軍。登城ご苦労。

 さて、今回、皆に集まって貰ったのは、五十嵐将軍の晴嵐騎士団についてだが、将軍、騎士団の状況はどうだね?」

「はい、訓練は順調に進んでいます。」

「そうか、さて、今回は加賀将軍から何か提案があるとの事だが?」


 元々渋い顔だった赤穂将軍の顔がさらに険しくなった。

 そういうことかと俺も納得がいく。そして、その後の展開もほぼ俺の予想通りだった。

 コホンっとわざとらしく咳をして加賀将軍が話し始める。


「はっ、五十嵐将軍の騎士団も結成され訓練も順調との事ですので、さしあたって脅威である鷹ヶ城をそろそろ攻略していただこうかと。」

「異議あり、五十嵐将軍の騎士団はまだ結成して2週間だ。それに団員も初期訓練を終了したばかりの者たちがほとんどで、人数も定員割れの500名ほどですぞ。攻略にはまだ早いです。」

「赤穂将軍。我が国は困窮はしておりませんが、五百名もの人数を遊ばせておく程の余裕はありません。

 それに鷹ヶ城は今、前回の戦いの損害を回復できていないに違いありません。今が好機なのです。急がないと好機を逃しますぞ。」

「むむ……。」


 赤穂様は反論できずに唸ってしまう。

 俺に言わせれば、鷹ヶ城の『前回の戦いの損害を回復できていない』っていう情報がどこから出たのか知りたい。

 たぶん何の根拠もない憶測だろう。そんな憶測を基にどこが『今が好機』なのか知りたい。

 俺が雇った侍の情報では、鷹ヶ城には相変わらず二千名の兵が詰めているはずだ。


「国王様、今が好機です。五十嵐将軍に鷹ヶ城を攻略させましょう。そうすれば帝国の脅威を回避できます。国王様は帝国の侵略から国を守った名君として名を残せます。」


 加賀将軍がそう国王様に提案する。


「早まってはいけません。さすがに五十嵐将軍とて、あの堅城を五百の兵で攻略するのは無理です。時期尚早です。」

「赤穂将軍。時期尚早と言うが、一体いつまで待てばいいのかね?」

「せめて私の部隊が回復するまでは。私の部隊の準備が整ったら共同で攻略できます。」

「では、それは何時だね赤穂将軍。1年後か2年後かね。そんなに待っていたら、帝国の援軍が国境を突破して皇国内に侵入してくるぞ。」

「そうならない為に、五十嵐将軍が古鷹砦を建設してくれたのではないですか。当初の予定通り、砦で防衛すべきです。」

「まあまあ、二人とも、少し落ち着きたまえ。」


 自分をよそに言い争いを始める加賀、赤穂両将軍を国王様が仲裁する。


「とりあえず、五十嵐将軍の意見も聞こうではないか。五十嵐将軍。将軍はどう思うね。」

「そうですね。確かに、結成して半月の騎士団を投入するには時期尚早だと思います。しかし、冬の間に鷹ヶ城を攻略しておく必要はあるでしょう。春になると帝国本土から援軍が来るというのは考えられる話です。」

「な、五十嵐将軍。」


 赤穂将軍が少し狼狽する。


「では、将軍は5百の兵で鷹ヶ城を落とせると。」

「1週間とかでは無理でしょうが、春までには何とか出来るでしょう。晴嵐騎士団の兵達も最低限の訓練は終了しましたし、前線に移動すべきかと。

 さしあたって、騎士団を古鷹砦まで進めようと思います。確かに、皇都にいるよりは前線の砦にいる方が我々の意義がありますので。いかがでしょう。」

「うむ、将軍がそう言うなら是非もない。やってくれるか。要望があれば聞き入れよう。」


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて幾つかお願い事が。

 まず、古鷹砦の守備兵も含めて一時砦の全権を私にいただきたい。

 もちろん守備兵は砦の外で使用する事はありません。あくまで指揮系統の混乱を避けたいからです。」

「今古鷹砦に詰めているのは赤穂将軍の兵だったかな。」

「はいそうです。一部私兵ですが、五十嵐将軍に指揮権を一時譲渡しましょう。」

「うむ、では赤穂将軍そのように頼む。他は?」

「はい、次は兵糧についてです。春までの分を古鷹砦に備蓄したく思います。」

「それは加賀将軍、誰か適任者はおらんか?」

「は、では、伊達将軍はいかがでしょうか。」

「うむ、伊達将軍が適任か。では、伊達将軍に必ず届けさせよう。」


「ありがとうございます。

 では、最後に、鷹ヶ城を占領した後の事ですが、私の騎士団は損害を受けていることが考えられます。可及的速やかに、他の騎士団と交代して兵を休ませたいのですが、占領後、どなたかの騎士団の応援をお願いしたいのです。」

「?占領後、城に留まらないのか?」

「はい。出来れば交代をお願いしたいです。」

「わかった。では赤穂将軍。その件も頼めるか。」

「はい。現在カーラシア村に待機させている兵1千名を前進させましょう。鷹ヶ城が攻略出来れば不要ですので。

 しかし、鷹ヶ城の所有権は五十嵐将軍にお渡ししたい。占領すれば功績は五十嵐将軍のものですから。」

「確かにその通りだ。五十嵐将軍。もし占領すれば鷹ヶ城は将軍に与える。」

「ありがたい申し出なのですが、辞退させていただきます。」

「なんと、城はいらないと申すのか。」

「はい。申しにくいのですが、今の兵力では城を占領しても防衛できません。まして、占領時の損害があればなおさらです。」

「うむ、確かにそうなるか。では、占領後は直ちに赤穂将軍の兵を向かわせよう。しかし、防衛は出来ないのに占領は出来るのかね?」

「はい、たぶん大丈夫です。」

「うむ、その言葉信じようぞ。期待しておるからな。」

「はい、ありがたき幸せに。」


「うむ、では、城の代わりにもし鷹ヶ城を占領できれば、褒美を用意せねばな。何か欲しい物はあるか。」

「僭越ながら、兵力の増強をお願いしたく存じます。」

「なるほど当然の事だな。では、私の直轄部隊から引き抜くことを約束しよう。」

「な、近衛から兵を分け与えるのですか。」

「そのつもりだ加賀将軍。それともどこかに余剰兵が居るのか?」

「いえ、ですが近衛など。新しく農民どもから徴兵すれば。」

「それでは騎士の練度が落ちるではないか。」

「しかし、五十嵐将軍の騎士団に近衛騎士団の様な有能な者は不必要です。」

「国王様。折角の御言葉ですが、近衛騎士団は国王様を守っていただいている方が良いかと。私の騎士団には市井の者の希望者で十分です。後は他の騎士団からの転属希望者が居ればその者達を頂きたいかと。」

「うむ、五十嵐将軍がそういうのならそうしよう。では、別に何か褒美を考えておくとするか。」

「ありがとうございます。」


「うむ、では、将軍。鷹ヶ城攻略を任命する期待しているぞ。」


 その言葉を最後に国王様は退室された。

 直ぐに加賀将軍も立ち上がり、やけにニヤついた表情で足早に部屋を出て行った。



 私はその後、赤穂将軍に赤穂将軍の執務室に連れて行かれた。

 もちろん、こんな早い時期に出陣させるのは、加賀将軍の罠でそこまでする必要はなかったのにとお叱りを受ける。

 私も、加賀将軍の嫌がらせな事は解っている。

 きっと、失敗させて責任を取らせて失脚、あわよくば死刑にしてやろうという魂胆だろう。見え見えだ。

 だが、今回はあえてそれに乗ってやった。俺の実力を示してやるつもりだ。

 今後もっと致命的な嫌がらせをされる前に、そんなことをしても無駄だと証明してやるのだ。

 もっとも、春までの期限を取ったので結構余裕がある。まだ冬半ば、春までは2ヶ月以上ある。


 赤穂将軍も初めは本当に鷹ヶ城を占領できるのかとかなり詰問されたが、最後には「貴殿の事だから何か思いもよらない作戦があるのだろう。」と折れてくれた。


 その後は、主に占領後の細かい打ち合わせをして別れた。

 最後に「貴殿は本当に占領できる事を確信している様だな。」と言われたのが印象的だった。

 別に、絶対占領できるとは思っていないが、春まであるのなら何とかなるだろう。

 一応、色々な報告から攻略のめどは立っている。作戦がはまれば問題なく占領できるだろう。


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