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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
現代戦を取り入れてみたら?
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素敵な勘違い?

本来ならここは奴隷少女達の視点からの話を載せるべきなのでしょうが、作者が主人公以外の視点からの話を書くのは嫌いな主義ですのであしからずお願いします。

 桜香達の1日は早い。朝早くから起きて仕事をする。

 午前中いっぱいは家事の仕事をする。

 昼食後は空いた時間で自分達の部屋の掃除や勉強をして、俺が帰ってくる少し前に風呂を済ませるようだ。

 夜は夕食の片付けが終われば自由だが、明日に備えて早めに寝ているみたいだ。


 そして、最近の俺の生活だが、午前中は皇城の執務室で書類の裁定をした後、昼までは買ったり、借りて来て貰ったりした本で勉強している。

 昼食は駐屯地に移動して兵達と一緒の食事を一緒にとっている。

 いわゆる『同じ釜の飯を食べた仲』というのを実践して親密な関係を取ろうと努力しているのだ。

 昼食後は、兵達の訓練を見ながら俺は乗馬の練習をする。騎乗ではなく乗馬の練習だ。

 その結果が今の状態である。



 ああ、今日も空は青くて綺麗だ…


 柔らかく掘り返したような土に魔法で変換した、グラウンドに大の字で寝ころびながらそう現実逃避する。

 しばらく空と雲を眺めていると、愛馬が顔を覗き込んできた。

 くつわを持っている俺の従者というか伝令に任命された健三郎も心配そうに一緒になって覗き込んでくる。

 仕方なく起き上がって背中と尻に付いた土を払う。

 そう、別に好きでグラウンドに寝転がっていた訳ではないのだ。

 ただ、落馬しただけだ。

 仕方がないじゃないか。乗馬など前の世界では一部の上流階級の遊び位しか残ってないのに、いきなり馬に乗れとか、一般市民が出来るか。

 俺は初めて馬に乗せられて、簡単に馬を走らせられるほど運動神経が良くないんだ。

 まあ、そんなこと言っても始まらないので再度馬に乗って練習する。

 何度も落ちているので馬に乗るのは簡単に出来るようになった。

 馬を歩かすのも問題ない。

 ただ、早足になると、途端に難しくなる。

 足を踏ん張るタイミングが合わないのだ。

 一度などは踏ん張った足がたまたま両足一緒に馬の腹に当たり、「走れ」という命令と勘違いした愛馬が突然駆けはじめたので、綺麗な放物線を描いて吹っ飛ばされた。


 初めに落馬した時、土の上に落とされて呼吸困難になる位背中を強打して息も絶え絶えになったので、すぐさまグラウンドの一部を黄色魔法で耕して柔らかくした。

 その結果その後の落馬では痛みを感じなくなったが、それでも落馬は精神的に落ち込む。

 まあ、戦国時代の大将が自転車で参戦なんて絵は考えられない。

 というか、森の中など自転車なんかじゃ走れないので、何とか騎乗できるようにならないといけないのだが。

 馬上で戦う以前に、馬に乗れないじゃ話にならない。


 と、頑張って練習するのだが、またもや今日何度目かの浮遊感を味わった後に背中から衝撃を感じて、またもや青い空を眺める事になった。



 乗馬の練習を開始してから早3日が経ったが、まだまだ空を眺める機会が多い。

 才能がないのは初日で分かったが、それでも少しずつ落ちる回数が減って行っているので、もう少しで何とかなりそうだ。

 そう空を見上げながら考えていると影が俺の顔を覗き込んでくる。

 いつもの様に愛馬と健三郎かと思ったが、彼らにしてはいやに影が細い。


「どんな素敵な殿方かと思っていたのに、とんだ期待外れですわ。」


 その声に慌てて飛び起きる。服についた土を払いながら姿勢を正して声を掛けて来た人物に向き合った。

 駐屯場のグラウンドにいるというのに、場違いなきらびやかな着物を着こみ、侍女を従えて立っている声の主。

 綺麗に結った長い黒髪は前と後ろの両方に流しており、細く整えた眉と細い鼻筋、大きい目に小さな唇、10人に聞けば10人共綺麗だと答える美人である。

 そんな美人はビシッと扇子でこちらを指しながら大きい目を細めてこちらを睨んできている。

 顔はともかく、このきつい性格は俺には無理だ。

 まあ、この国の王女様というだけでほとんどの人間が無理だが。


「これはこれは八重様。このような場所までご足労いただけるとは誠に感激です。」


 もちろん、社交辞令だ。一応この国の王女様。臣下なので無下には出来ない。


「して、このような場所に一体どの様なご用件で。」


 そう、何しに来たのだ。普段は城の最上階でお茶するしかない王女が。


「もちろん、あなたを見に来たのよ五十嵐将軍。でも、とぉーーーても期待外れだわ。」


 かなり怒ったような口調で王女様が答える。分からないというのが顔に出たのか、王女様は怒りながらも説明してくれる。


「私、五十嵐将軍はわずかな兵で敵の大軍の目の前に砦を築き、国一番の乱暴者のガルガラとの一対一の試合にも勝ったという武者だと聞いていましたの。

 なのに……。

 どんな方かと来てみれば、彼の部下の騎士達は、広場の土を掘り返し続けたり、ただ行進しているだけ。

 当の本人は馬から落馬するじゃあないですか。

 ほんっとうに期待外れ。とんだ無駄足でしたわ。」


 言いたい事を言えたのか、王女様は踵を返して帰って行った。



 横で健三郎がクスクスと笑っている。目で笑うなと睨むとあからさまに姿勢を正して無表情になった。


 まあ、確かに、事情を知らずにこの光景を見ると怒りたくもなるか……。

 俺は目の前で訓練している部下たちを眺めた。

 工兵たちが汗水たらして塹壕を掘っている。

 俺がこの世界の戦いに持ち込んだ戦術の一つだ。


 戦車や航空機が登場するまで、戦争は塹壕を掘るのが当たり前だった。

 銃がなくても塹壕内から騎馬隊に槍を突き立てたり、たこつぼの中から弓を放つだけで生存率は一気に跳ね上がる。

 特に開戦直後に行われる弓の応酬にはかなり効果的だ。

 だから俺はこの世界の戦いにもたこつぼと塹壕を取り入れ、そして今工兵達にその実技訓練として、塹壕堀りをさせているのだ。


 一口に塹壕といっても隠し通路や横穴、単に塹壕の深さなど、実際に経験してみてわかる事は多い。

 それに、実際に沢山の穴を掘る事で穴を効率よく掘れるようにもなる。

 だから当分の間、工兵にはグラウンドを掘り返して貰っていたのだが、確かに、何も知らなければグラウンドを掘り返している光景は変だよな。



 それと、もう一組の行進している部隊だが、これは槍隊だ。

 俺がこの世界で色々聞いたり、本で勉強したところによると、槍隊はただ単に敵の部隊に走って行って槍を突き立てて終わりだった。

 その後は乱戦だ。

 走って行く際にもただ全力で走るだけで、足の速い者から順に攻撃していくバラバラな物だ。

 よく言えば五月雨式だが、これだとあまり効果的ではない。


 槍衾やりぶすまは敵部隊前面に逃げ場のない様な高密度の槍を面で当てる事により効果的な攻撃が出来る。

 その為には行軍速度は左右の兵と足並みが合っていないといけない。

 槍を上下に立体的に並べるには前後の間隔も重要だ。


 また、行軍中に方向転換をしなければならない場面ももちろん出て来るだろう。

 その為には隊形を維持したままの左右回頭や場合によっては左右に方向転換しなければならない。

 当然だが隊形を維持したまま回頭すると、外側は早く移動し、内側はゆっくりと移動しなければならない。

 また、方向転換は隊形そのままで進行方向を変える。つまり、カニ歩きみたいな状態だ。

 もちろん人は進行方向を向くが、この際、長い槍を持っていれば回頭すると周囲の兵を薙ぎ払ってしまう。

 そのため、槍を一度立てるという事が必要になる。

 それらは、机上では覚えにくい。

 その為の訓練が今やっている行進訓練だ。


 始めは槍を持たずに、歩いて隊形を維持する。

 もちろん回頭や方向転換を行っても初めは直ぐにバラバラになってしまう。

 ようやく何とか隊形は維持できるレベルになって来たところだ。

 この後は槍を持たせての訓練の後、早足や駆け足といった風に少しずつ速度をあげていく予定だったのだが……。

 今はまだ槍も持たず歩いているだけだ。


 王女様から見たらお世辞にも訓練には見えなかっただろう。

 分かっている人にはおかしくなる位の勘違いだが。そう、横でついに笑いを堪えられなくなった健三郎みたいに。

 まあ、俺が落馬するのには反論できないが……。


 因みにこの日は、弓隊は近くの山で狩りをおこなう実地訓練をしていて不在だった。


フラグっぽいですが、フラグは立てていません。

ハーレムフラグとかではありませんのでご了承ください。

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