異世界と言えば魔法チート
異世界に来て2日目、物音で目覚めた俺はご飯の炊けるにおいに誘われて居間へと出て行った。
そこでは、弥々子さんが朝食を並べているところであった。
「あら、早いのね。昨日遅くまで起きていたからもっと寝ているのかと思ったけど。」
「おいしそうなご飯のにおいにつられて起きてしまいました。」
「おやそうかい、たいした物はできないけど、朝食までにはまだ少し時間があるから少し朝の空気を吸ってきたらどうだい。」
そう言われて窓の外を見ると、ちょうど太陽が山の頂から離れたところであった。
山々が少し高いのでそれほど早朝と言う訳ではないが、空気が澄んでいて気持ち良さそうだ。
「そうですね、少し散歩してきます。」
「そうしな。もう少ししたら、ねぼすけの旦那も起きてくるから朝食にするよ。家を出て直ぐ左の樽で顔を洗うといいよ。」
「では、顔を洗って少しその辺を1回りしてきます。」
そう言って、家を出た。玄関は昔の家よろしく、かまどのある土間と一緒になっていて、出て直ぐの所に樽があった。
樽の横にあった桶で水をすくって顔を洗う。
洗い終わって、村長さんの家の周りを少し歩いてみる。
村長さんの家より、右側に藁ぶきや瓦の家がポツポツと立っていて、裏は少し高い土塁の上に細い木で作った柵がしてある塀?がずっと続いていて、その裏は山になっていた。
正面は、水田や畑が広がっていて、左に行くと畑を回る道と小さな門があって門の先は山に向かう道になっているみたいだ。
とりあえず、村長さんの家を出て左へ、畑を回っている道の方に歩いて行ってみる。
門とのわかれ道を曲がってしばらく行くと、さっきまで、道と平行に横を走っていた塀が、土塁の高さがだんだんなくなり、ついには柵もなくなってしまった。まだ道の左側は山で反対側は畑というのは変わらないのに。
これなら、作物を狙う動物よけの柵としては文字道理穴だらけで、意味はないのではないかと思う。
柵が、なくなってしばらく行くと、小さな小屋の近くに材木が沢山置いてある所にでた。
道はそのまま山へと向かっていることから、山から切り出した木を材木に加工している所らしい。よく見ると、加工するときに出た木切れや、木屑がそこらじゅうにあった。
良い時間になったので、ここで折り返して、村長さんの家に引き返す。
帰りは、畑を見ながら歩いていると、ある事に気がついた。
畑の山側には水田が少しあるのに、田畑の大部分では麦が作られている。
まだ、初夏なのか、麦も稲も青い葉をおい茂らせているが、水が張ってある田んぼと、水のない畑では一目瞭然である。
家が立ち並んでいる所まで来ると、野菜を栽培している畑となったが、中心は麦のようだ。
なんで、水田があるのに麦も作っているのだろう。同じ大きさなら、麦よりも田んぼの方が収穫量が多いのに。
そんな事を考えながら、村長さんの家に戻る。
居間では寝起きがっつりの村長さんと鍋からお味噌汁をよそっている。弥々子さんが待っていてくれた。
「ほんと、丁度いい時に戻ってきてくれたね。今用意ができたとこだよ。」
そういって、俺の前に味噌汁の入ったお椀を置いてくれる。
「村を見て回っていたのかい。山間の小さな村だから何もないだろう。まあ、空気は澄んでてきれいだがね。」
「あなた、話は朝食を食べながらで、さあ、冷めないうちにどうぞ。」
「では、頂くとしよう。颯太さんも遠慮なく。まあ、たいした物はないがね。」
「ありがとうございます。いただきます。」
朝ご飯は麦ご飯にお味噌汁、大根の様な物のお漬物だった。
シンプルで結構おいしい。かなりの薄味で少し塩味がたらないが、それでもいい感じだ。
「今日は、午前中に弥々子に魔法を教えてもらうのかい?」
「ええ、弥々子さんが良いのであれば、お願いしたいのですが。」
「午前中だけなら、問題ないよ。今日は特にする事ないからね。家事が一通り終わったら、教えてあげるよ。」
「ありがとうございます。お願いします。」
「私は今日も、あちこち回らなくてはいけないので、お昼は帰ってくるが、まあゆっくりなさい。まだ起きて1日も経っていないのだから。
あと、あまり村から出ないようにな。この辺はあまり多くはないが、魔物もでるからね。」
「魔物って、襲って来るのですか?」
「まあ、いきなり襲ってくるような奴は、この辺ではあまり出ないがね。」
「村の外と言うとあの柵の外ですか?でも、柵、途中でなくなってましたけど。」
「魔物とかは、村にはあまり近寄らないが一応住居の周りだけ柵を作ってあるのさ。裏はすぐ山だしね。
まあ、魔物と言わず、動物から作物を守ることが主な目的ではあるけどね。」
「そうだったんですか。だから、水田の方には柵がなかったんですか。そういえば、魔物って普通の動物とどう違うんですか?」
「魔物は魔法を使ってくるんだよ。だから、今日颯太さんに教える魔法も初めは身を守る物を教えるつもりだよ。そろそろ、食べ終わったみたいだね。では片付けるとしようかね。」
「あ、手伝います。」
「颯太さんは良いよ。少しそこで待っててちょうだいな。すぐに片付けと洗濯を終わらせて来るから。」
「弥々子は青魔法が使えるから、直ぐに終わるよ。じゃあ私は出掛けてくるよ。」
「あ、行ってらっしゃいませ。」
そういって、村長さんは家を出て行った。
土間では弥々子さんが大きな桶の中に向かって手をかざしていた。
すると、桶の中の水が泡立ちながら渦を巻き始めた。まるで洗濯機だ。
しばらくそうした後。今度は中に入っていた着物を取りだしてこれにも手をかざす。すると着物の下から水がぼとぼとと落ちて、着物があっという間に乾いていく。
ものの数分で洗濯完了だ。さすが魔法。現代科学より、便利だ。
「あら、見てたのかい?恥ずかしいね。」
「すごいですね。私もそんな風に魔法を使えるようになりますかね。」
「あなたは、黄色の魔法だから、私みたいに水は操れないわね。でも土なら私が水を操る以上に操れるはずよ。じゃあ、そっちに行きましょうか。」
そう言って、弥々子さんはコップに水を入れてもってきた。
コップ?そう、ガラスのコップだ。江戸時代じゃ到底無理な。やっぱり、昭和初期か。
そんな事を考えていると、弥々子さんはちゃぶ台の真ん中に紙を引いてその上にコップをおいた。
この紙も和紙っぽい。何かの図形(魔法陣?)が書いてある。その中央に置かれたガラスのコップには水が半分ほど入っていた。
「じゃあ、この紙に向かって魔力を送ってくれるかい?この紙に書かれているのは水を増加させる魔法陣でね、これで魔力の総量が図れるんだよ。」
「わかりました。じゃあやってみます。」
そう言って、コップの下の魔法陣に向かって手をかざす。
イメージすると直ぐに昨日のように両腕をざわざわした感覚が下りていく感じがして、手から何か、魔力が放出する感じがした。
すると、コップの水面がゆらりと震えたかと思うと、一気に水かさが増え始め、あふれ出してしまった。
「おやまあ、あふれ出すとは…。とんでもない魔力量だね。水の量を倍以上にしちまうなんて、いまどき宮廷魔術師でも倍にはできないよ。」
「水があふれ出すってすごい事なんですか?」
「そりゃあねぇ、私なんか水かさが少し増える程度さね、こりゃとんでもない魔法を見せてもらえそうだね。」
弥々子さんが、ちゃぶ台を布巾で拭きながら答えてくれる。
「じゃあ、外に出ようか。」
そう言って、玄関に向かう弥々子さんについて家の前に出た。
「魔法はね、こうしたいって想像を乗せた魔力を対象に送り込むことによって想像通りに物を動かす事を言うのさ。
今からこの樽の中の水に渦を起こしたいと想像しながら魔力を送ってみるよ、見てな。」
そう言って、弥々子さんは樽の水に手をかざす。すると、樽の中の水が少しずつ回り始め、小さな渦ができた。
「こんな感じさね。青魔法の場合は水を操る能力だから私はこんな風に水を操る事ができる。
ただし、さっきみたいに水を増やしたり、何もない所から水を取り出したりはできないからね。
だから、あんたも土を増やしたりはできないはずさ。あくまでも、土を操る想像を考えるんだよ。やってみな。」
そう言われて、目の前の地面に手をかざしてみる。
そして、操るイメージで…ってどんなふうに操るんだ?とりあえず、土塁みたいな土の壁でも作ってみるか、できるだけ詳細なイメージが良いんだよな。
じゃあ、大きさは腰位までかな。んで、幅は30センチ、長さは1mくらいでいいかな。んじゃそんな感じで。
そう考えながら、また、胴体から腕に、腕から手に、手の平から地面にとざわざわした感覚が移動していく。
そしてその感覚(魔力)が、地面に吸収されたその時、突然足元の魔力が吸収された辺りから土の壁がせり出した。
「おやまぁ、こりゃまたとんでもない能力だね…こんなに巨大なものを作っちまうなんて…」
「これ、かなり小さめで想像したんですが。」
「じゃあ、これが想像通りって事かい。ならもっと大したもんだ。
さっき樽に渦を作って見せたけど、私の魔力じゃあどんなに大きな渦を想像してもあの位が精いっぱいなのさ、つまり、操れる水の量があの程度って事さ。
だがあんたは、これ程の土を操っちまった。しかもまだ限界じゃないって。これはとんでもない事さ。」
「そうですか…」
なんか、すごい事らしい。
そう思いながら、土壁に触れようと一歩踏み出すと…足場がなくなった?落ちた?そうまるで落とし穴に見事に嵌った様に腰まで地面に埋まってしまった。
「おやまぁ、大丈夫かい?」
弥々子さんが慌てて手を差し出してくる。
少し混乱しながらもとりあえず弥々子さんに助けられながら穴から這い出る。
穴は大きさが縦1m横30㎝高さ1m位で丁度目の前に作った壁がそっくりそのまま入る大きさだった。
「どうやら、壁を作るのに使った土の穴に落ちちまったようだね。」
「ええ、そうですね。壁を作ることは考えてましたが、作るのに必要な土をどこから持って来るのかは考えていませんでした。
どうやら、必要な土は手前の地面の下から供給されたようですね。」
「さっき、説明で土を増やすことはできないといったが、そのことを身を以て経験したような感じだね。」
「はい。学ばせて頂きました。では、今度はこの壁の土を材料にしてこの穴を埋めてみますね。」
「そうしてくれるかい。玄関先にこんな大きな穴があったら、邪魔だからね。」
そう弥々子さんに言われながら壁に手をかざしてイメージを乗せた魔力を送り込んでいく。
するとさっきとは逆に見る間に壁が小さくなっていき、穴が埋まっていった。
「すごいねぇ。それだけの量を上手く操るねえ。」
「まあ、初めてにしては確かに上手くいっていると思います。」
「上出来だよ。じゃあ、もう私は必要ないようだし、後はしばらく一人で練習でもしてな。お昼が出来たら呼んであげるからさ。
あまり遠くへは行かないでおくれよ。」
「わかりました。では、ここでしばらくどんな事が出来るのかやってみたいと思います。」
そう言うと弥々子さんは軽くうなずいてから家に帰っていった。
それからは一人でどんなことができるのか色々と確認していった。
まず、土から石はできるのかやってみた。そして、いとも簡単に出来た。
形も正方形から球体までイメージだけできれいに出来た。
ぶっちゃけきれいな球体がイメージだけで出来たのには驚きである。
その後、石の他に鉄やガラスといった物ができるか試してみたが、鉄は砂に埋もれて小さな塊ができて、ガラスも砂まみれのが出来たが、金や銀は出来なかった。
その事から、物質の変更は出来ないが、土の中から対象物だけを取り出すことは出来るらしい事がわかった。
因みに、出来た鉄やガラスを掌大になるまで集めて、形を変えてみたが、あんなに綺麗な球体は作れたのに、ナイフやフォークといった簡単な形でも作れなかった。
理由はよくわからないが、単純な形でも図形と違ってきっちりとイメージできないからからかもしれない。
その後はしばらく土や石で壁を作ってみたり円柱を作ってみたりと、今度は、形ではなくいかに早く正確に作れるのかをやってみた。
そうして気が付いたのは、一度作ったものは、次からはより速く正確に作れるという事である。
そんなこんなで、村長さんの家の前は荒地よろしくボコボコになってしまったが、最後に地面に手をついて念じてみると、あっさりと整地されてきれいな(多分今朝よりもきれいな)広場に戻ってしまった。
さすがに、ここまで来ると、魔法すげえと思わずにはいられなかった。
整地して一息ついていると、村長さんが戻って来た。どうやらもうお昼時らしい。
「さっき、左衛門のやつが家の前がえらいことになっているって言ってたが、どうしてどうしてきれいじゃないか。何かしてたのかい?」
「ええ、ちょっと魔法の練習を。だいぶうまくできるようになりました。」
「ほう。ちょっと見せてくれな。」
「ええいいですよ。」
村長さんに見せるために、地面に手をかざしてイメージした魔力を送り込む。
地面からは長さ1m程の細い円柱が伸びた。因みに、初めに失敗したような穴が出来ないように、広範囲から材料となる土や石を集めていた。
「ほう、こりゃすごいな。君を見た者がえらい魔法使いを拾ってきたなって言ってた意味が分かった気がするよ。」
どうやら、練習に夢中で気が付かなかったが、結構たくさんの人に見られていたようだ。
まあ、こんな見晴らしの良い所でやっていたら当然か。
「なんだい、帰って来てたのかい、そろそろ颯太さんに呼びに行ってもらおうかと思ってたよ。
お昼が出来てるからさっさと入んな。颯太さんもお昼だから練習はその辺にして入んな。」
いつの間にか家から出てきた弥々子さんにそう言われて、村長さんは慌てて中に入っていった。
俺も直ぐに円柱を砂にしてから、側の樽で手を洗って、中に入っていった。
食卓ではすでに昼食の用意が出来ていて、村長さんが待っていた。
俺が席に着くと弥々子さんがお椀を持って来てくれて、昼食が始まった。
昼食が終わりかけた頃、村長さんが思い出したという風に、俺にドクトルさんの鍛冶場に行くように言ってきた。
どうやら昨日のお詫びがしたいのだとか。
昨日のというか俺がこちらに来た件は別にドクトルさんが悪いわけではないのだが、とりあえず俺の方からも驚かしたお詫びをしなければいけないし、昼食が終わったら訪ねる事にした。
ドクトルさんの鍛冶場は朝散歩した材木加工場のさらに先を山のへ上がって行った先、途中で左に曲がった先にあるらしいので、昼食をとった後ぼちぼちと歩いて行った。
ドクトルさんの鍛冶場は直ぐに分かった。
山への道を登って直ぐの分かれ道を左折すると直ぐにそれらしい小屋があったからだ。
ちょうど木材加工場の直ぐ上にあたり、見晴らしが良いそこからは、村の全景が見えた。
小屋自体は石の壁に木の屋根のいかにも作業場といった感じで、中からはリズムカル槌を打つ金属音が鳴り響いていた。
「すいません、失礼します。」
そう言って中に入ると中には炉の傍で大きな金槌で金属を打つ髭もじゃの小さいおじさんと炉のそばの小さな椅子に腰かけている女の子がいた。
たぶん、髭もじゃのおじさんがドクトルさんで間違いないだろう。
たしかにおとぎ話に出て来るドワーフの姿そのままである。身長は思ってたよりも少し高いが。
という事は、炉の前で座っているのがリンさんだろう。
確かに、顔立ちはなるほどモデルのように綺麗だが、耳はよく見ても尖っている様な気がする程度だ。
もしかして人間とのハーフなのかな、エルフは森から出ないと言うし。
「おお、あんちゃんか、ちょっくら待ってくれな。」
俺の事に気が付いたドクトルさんはそう言ってしばらく金槌をふるった後、金槌と打っていた金属を脇に置いて汗を拭きながらやってきた。
リンさんも同じように汗を拭きながら前まで来てくれた。
「村長さんがもう大丈夫だって言ってたが、もう普通に歩けるみたいだな。」
「ええ、ご心配をおかけしました。」
「ごめんなさい、私が失敗したばかりに巻き込んでしまって。」
「いえいえ、その件なんですが、別にリンさん達が悪いのではないので、そのことを説明させて貰おうと思いまして。」
「そうかいそうかい、じゃあ長くなりそうなんでこっちに来て座りながら話すかい。何もないが茶くらい出すぞ。」
「すいません。」
そうして作業場の隅にある机へと移動して、俺がこちらの世界に来た経緯を説明した。かなり渋いお茶を頂きながら…
「信じがたい話だな。だが、あの村長もそういう見解ならそれが正解なんだろうな。」
「本当に、私には魔法のない世界なんて考えられませんが…」
そう言って、一様に驚くドクトルさんとリンさん。
いえいえ、俺だって魔法のある世界なんて信じていませんでしたから、実際に自分で使ってみるまでは。
それと、村長さん。結構信頼厚いのですね。そんなこと微塵も感じさせてませんでしたが、すいませんと心の中で少し謝っておく。
「私も自分の事ながらかなり驚いています。」
「なるほどな、だが、異世界から来たと言う話はあまりしない方がいいな。
村長も君は遠い所から来たと言っていた。多分、そういうことにしていた方が良いのではないかな。」
「その方が良いですよ。私も颯太さんが異世界から来たなんて信じられませんもん。」
「たしかに、こんな事信じる人なんかいませんよね。
分かりました。では、異世界から来たという事は、ここだけの話でおねがいします。
そうですね、じゃあ私は魔法の実験中に暴発してここまで飛ばされたみたいなことにしときます。」
「ああ、それが良いだろう。そういえば、魔法が使えるんだっけ。なんか、すごい魔法だって噂だけど。」
「らしいですね、私も魔法なんて自分で使うまで信じてませんでしたけど。」
「黄色魔法が使える奴はめずらしいから、さっきの話に信憑性がでるな。どれ、黄色魔法を少し見せてもらえんか。」
「私も興味があります。私も黄色魔法なんてまだ見たことないので。」
「ええ、良いですよ。こちらに来てからできるようになった魔法、ってか今朝できるようになったばかりでまだ完全に把握できてないですが。
ここでは少し狭いので、装填所って所に案内してもらっていいですか?」
「装填所かい、別にかまわないがまだ片付けが終わってないから散らかってるぞ。」
「ええ、だから良いんです。」
すこし、ハテナマークを付けつつドクトルさんに鍛冶場の少し先の山陰にある装填所に連れて行ってもらった。
装填所は山の窪みのような所に作られていて、周りをいくつかの壁で覆われていたらしい残骸と直ぐ側に避難所らしい横穴があった。
「こんな散らかっている所で良いのかい。」
「きっと、大規模な魔法だから広い所じゃないと行けないんですよね。」
困惑気味のドクトルさんと、なぜか目を輝かせているリンさんに、魔法を見てもらうのとついでに、お詫びもしたいのでと返して、イメージを乗せた魔力を集める。
今回は広範囲の魔法の為か魔力を集めるのに時間が掛かった。そして、散らばっている残骸を材料に壁を再構築する。
魔力が地面に吸い込まれると同時に、散らばっていた残骸も地面に吸収され、代わりに石の壁が地面からせり出してくる。
しばらくすると装填場は元通りの姿を取り戻していた。
もっとも、俺は元を見たことがないので、それが本当に元通りなのかは分からないが、ドクトルさん曰く前よりも頑丈な壁で前以上に良くなったらしい。
リンさんについては、「凄い魔法ですね、あんなに広範囲にそれもかなりの短時間で魔法を成立させるなんて、すごい魔法力です。」と、尊敬の眼差しで終始見つめられっぱなしで、それは、ドクトルさんの鍛冶場に戻るまで続いた。
俺としては、それがどれ位凄いのか分かっておらず、多分異世界から来たからだよという説明になってない説明を繰り返すしかなかったが。




