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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
現代戦を取り入れてみたら?
19/46

晴嵐騎士団結成

 翌朝、日が昇ると同時に起きだした俺は、土間を覗くとまだ朝食を作っている最中っぽかったので、庭に出て素振りをすることにした。

 朝の新鮮な空気を吸いながら素振りと少しの鍛練をしていると、四朗さんが勝手口から入って来た。


「おはようございます。朝早いですね。」

「これでもつい先日までは農村暮らしでね。太陽と共に目覚めてしまうのですよ。で、一応日課の鍛練を。と言っても今日からですが。」


 と少し笑ってみせる。


「ところで四朗さん、朝食は?」

「私はもう済ませてきました。今から馬の世話をして、将軍様の出勤に間に合うようにします。」

「そうですか。よろしくお願いします。」


 そう言って四朗さんと分かれる。

 居間に戻ると、朝食が出来ていたので、軽く身支度を整えて朝食を取る事にした。

 さすがに3人で食べるには机が狭かったので、小次郎さんと梅さんは畳の上にお盆を置いてそこでの食事となった。

 朝食はリクエスト通りの物で、ご飯とみそ汁。そして、鮭の様な魚の切り身の焼いた物とお浸しだった。もちろん、大変美味しくいただいて、礼を述べた。

 梅さんはかなり恐縮していたが、食事は小次郎さんと共同で作ってくれているそうだ。

 2人とも元は料理人だったとか。どうりで赤穂様の別宅でいただいたような料理が出る訳である。

 その関係で、再度家の清掃などに奴隷を使わせてほしいと懇願された。

 それは奴隷部屋の改装が終わってからと言っておいたが、本当に奴隷を買いに行かなければならないみたいだ。



 朝食後、四朗さんに送って貰って城に出勤した。

 執務室にはすでに小枝子さんが来ていて、朝の挨拶をした後、机にむかう。

 またもや机の上には書類が数枚置かれていた。

 読んでいくと結構どうでも良いような物まで含まれていた。

 たぶん、これらは本来なら俺ではなく俺の下の副将軍辺りが処理するようなものだろうが、俺はまだ副将軍がいないからここにまわって来たのだろう。

 そういえば、副将軍はどうなったのかな。と思いながら書類を裁定していく。

 重要そうなのは、俺の部隊の駐屯場が、皇都の西門近くにある旧教育訓練場に決まったそうだ。

 けっこうな広さのグラウンドと2階建ての兵舎兼教室棟がある。

 本来なら一個騎士団すべての収容は無理なのだが、俺の騎士団は人数不足で定員の1000名ではなく、今回初期訓練終了予定者の486名しかいない。

 俺と副将軍を合わせても490名だ。

 これ位の数なら収容できるそうである。因みに前回の作戦に参加してくれた兵達は元の配置に戻っている。


 書類の裁定が終わると、やっと念願の「高級職における特権」という題の本を読み始める。もちろん初めに読むのは将軍の項目だ。

 なるほど、確かに将軍の特権として、奴隷3人の所有とある。

 このほかにも、執務棟内に執務室を有する事や馬車の支給。皇都に別邸を用意する事やその使用人も支給されるとあった。

 まあ、もう知ってしまった事ばっかりだったけどね。

 知らなかったことは、給金が月金貨100枚支給される事と、それとは別に部隊費用として月1000枚支給される事だ。

 兵士の基本給は副将軍も含めて別に支給されるから、このお金は兵士への恩賞や支給品以外の武器や防具の購入、その他将軍が必要と認めた品に使用可能なのだとか。

 いやはや、金銭感覚がおかしくなりそうだ。

 その後、小枝子さんに奴隷について書かれた法律書を借りて来てくれる様に頼んだ後、貴族の特権についても読んでみた。

 ……覚えきれない位に沢山あった。

 さすがは貴族様だ。法律を決めるのが貴族なので当然自分に有利なものにしますって感じだ。

 しかしこれ、一応貴族と将軍が別々の地域はまだいいが、貴族将軍が居る地域など、ほんと好き勝手してそうで怖い。

 赤穂様の説明にもあったが、国東部は結構大変な状況になってそうだ。

 まあ、俺の担当は西北部だから、東部には近づかない様にしよう。

 『君子危うきに近づかず』だったかな。

 まあ、この先を考えるにどうしても係わりに合わないといけない様な気がするが。


 それからは、少し脱線して今後どうしようかと考えてしまう。

 とりあえず、現状までは周りに流されるままに来たしまった感が否めない。

 初めはヅルカ村の人達に信用を得たいがために色々やってみたりしたが、自発的にどうしようと考えたことがなかった。

 だが、これからは少し考えないといけないと思う。

 赤穂様にも言われたが、将軍になったというのは結構な責任が付くのだから。

 とりあえず、昼食まであれこれ考えて結局たどり着いたのは、前の世界で入隊する時に考えさせられた愛国心についてだ。

 『愛国心』なかなか難しい課題だった。

 「国の為に命を捨てるなど到底できない」それが当時の俺の考え方だった。

 でも、「他国に攻められたらどうしますか?」という質問に当然の様に「逃げる」と答える人々が大半を占める状況で、誰かが国を守らないといけないと考えたのは事実だ。

 ではなぜそう思ったのか。

 当時色々考えさせられた挙句出した答えが、「愛国心とは、自分の知っている人々を守りたいと考える心だ。」という物だった。

 自分の家族を、親兄弟を守りたいと思う心の集まりが愛国心。それが当時の俺が出した答えだ。

 それが今も考え付く。

 こちらに来てよくしてくれた人々。彼らを守りたい。今の自分にはそれが出来る力を与えられた。なら、そのために行動しよう。

 そう考える事にした。

 前の世界ほどには豊かに出来ないかもしれないが、それに少しでも近づける事。それを目標にすることにした。

 誰でもない。俺の知っている人々の為に。


 なんか、こちらの世界に来てから初めて心がスッとした気分になった。

 そんな中昼食を食べたのだから美味しくないはずがなかった。

 なんか満足な気分のまま午後からは小枝子さんが持って来てくれた奴隷について書かれた法律書を読んでいく。

 当初は奴隷と聞いただけで心が沈みそうだったが、今はどうすべきかと考えられる自分に少し驚いた。

 感情的にならずに読めた結果だろうか、この奴隷法は良くできていると思った。

 この法は貧民救済と奴隷の権利の両立を目指していた。

 まあ、ある程度ではあるが。でも、俺が考えていた奴隷とは少し趣が違っていた。

 犯罪奴隷の方はまだ読んでないから分からないが、一般奴隷については「貧民の娘を上流階級が面倒をみろ。」的な考えから始まったみたいだ。

 まあ、現状は上流階級の玩具として扱われる様な事が起きているらしいが、当初は妾として迎えて将来的には子供を産んだらそのまま家族に等という考え方だったらしい。

 法が整備される前は、一部の金持ちの歪んだ性欲の犠牲になったり、娼館に売られて不特定多数の人に無理やり……。等の事があったのを考えるとよくなったと言えるだろう。もちろんまだまだだが。

 それに、身売りの娘を国が管理する事によって、家族に入る収入も正当なものになったり、奴隷を国が管理する為にその死亡率が激減した事は良い事だろう。

 機会があれば、この奴隷法も何とかしたい。奴隷の身分向上に向けて。

 その為には、まず、自分の所に来る奴隷の対応からだと思う。

結局昨日とった行動は自分の善意だけでなく、国全体にも良い影響を与えると信じたい。と、一般奴隷に関する法律書を読み終えた時点でそう思った。



 続いて犯罪奴隷に関する法律書を読もうとした時、ドアがノックされた。ドアのノック自体は珍しい事ではない。

 時々俺が裁定し終わった書類を取りに来たり、裁定の必要のある書類を届けてくれたりするからだ。

 だが、そのドアをノックした人物が室内に入って来て驚いた。

 俺の執務室に入って来たのはガルガラだったからだ。そう、加賀将軍の副将軍で、俺を殺そうとしたあのガルガラだ。

 少し身構えてしまったのはしょうがないと思う。

 面会を求めたガルガラに対して許可を与える。

 ガルガラは俺の机の前に立って申し訳なさそうに話し始めた。


「将軍お久しぶりです。自分の顔が怖いのは分かっていますが、別に将軍に害を与えるつもりなど毛頭ありませんので、どうかそう身構えないでください。」


 そう言われてようやく自分が座りながらであるが両手を突き出してファイティングポーズをとっていることに気が付いた。

 コホン。と咳をついて両手ひじを机の上に置き指を組む。話を聞くと言うポーズのつもりだ。

 ガルガラは机の前で直立している。


「じつは、将軍が副将軍を募集中と聞きまして、ぜひ私を雇ってくれないかと。いえ、副将軍じゃなくても、一平卒でも良いのでどうか末席に迎えてくれないでしょうか?」

「???えっと、つまり、私の騎士団に入りたいと?」

「はいそうです。お願いします。」

「加賀将軍の騎士団員ではないのかね?」

「将軍と戦った日の夕方に解雇されました。お前みたいな弱いやつは必要ないと……。」


 弱いって、戦う前は皇国最強とかって言ってたくせに、単なる八つ当たりだな。まあ、俺的には棚ボタかな。けっこう性格よさそうだし。


「では、私の騎士団に入っても問題ないと?」

「はいそうです。ぜひお願いします。」

「わかった。だが、私の副将軍については赤穂様に一任していてね、今から赤穂様の所に行って聞いて来よう。ガルガラも一緒に来ると良い。」


 そう言ってガルガラと一緒に赤穂様の執務室に向かった。



 赤穂様の執務室にノックをして返事が来たので中に入る。いつもの執事さんが迎えてくれた。

 部屋の中には赤穂様と執事さんの他にもう一人、髪の長い軽装の革鎧姿の人物が赤穂様の前に立っていた。

 俺に気付いた赤穂様が声を掛けてくださる。


「おお、五十嵐将軍ちょうど良い所に来た。後ろに居るのはガルガラか?何か問題が起こったみたいだな。まず、そちらの話を聞こうか。」

「ええ、まあ、問題と言うよりも提案ですが。」


 と答えながら赤穂将軍の机の横の椅子に座る。

 さっき赤穂様が声を掛けてくださっている間に、執事さんが素早く準備してくれて、さもここに座れとばかりに側で控えていたからだ。

 椅子に座って初めて赤穂様の前に居る人物の顔を見る。そして、驚いた。

 その人物は女性だったのだ。鎧姿だったのでてっきり男性だと思っていたのだ。

 なんとか驚きを隠そうとしながら、赤穂様に話しかける。


「実は、先ほどガルガラが私の執務室に訪ねて来まして、自分を私の副将軍にしてほしいと。加賀将軍に暇を出されたとかで。

 私にとってはガルガラ程の勇将が副将軍になってくれるとありがたいのですが、いかがでしょうか。」

「奇遇じゃな、私もその件で将軍に用があったのだ。

 ガルガラが加賀将軍の騎士団をやめさせられたとは聞いていたが、まさか、五十嵐将軍の所に行くとわな。私の騎士団に欲しいぐらいだが、本人が希望するならそうしよう。」

「本当ですか。ありがとうございます。五十嵐将軍。これからよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしく。」


 そう言って手を出すと、ガルガラは自然にその手を握り返してくれた。


「で、こちらの要件なんだが、3人目の副将軍を彼女にしようと思ってな。

 彼女は今川楓。ヅルカの今川男爵の娘さんだ。こう見えて弓の腕前は皇国の十指に入る。」

「え、領主様の娘さんですか?そんな方を部下に等。それに、皇国で十指に入る弓の名手なんですか。」

「正当に評価されれば一二を争う腕前とは思うのだが、女性であるため正当に評価されずに万年小隊長の座に居るのだよ。

 佐々木将軍の重鋼騎士団に居たのだが引き抜いた。佐々木将軍は『欲しけりゃくれてやる。』って言いていたから問題ない。後は君次第だ。

 そうそう、確かに君からしたら領主の娘さんだが、将軍は準侯爵の位と同等とされているから、部下にするには別に問題ないぞ。

 まあ、軍内では一部の上級貴族以外は爵位を気にしないから問題ないがね。

 で、どうする。彼女が副将軍で良いか?」

「私は願ったり叶ったりですが、彼女は良いのですか。」

「だそうだが。どうかね?」

「私は五十嵐将軍の下で働けるのなら大変光栄に思います。

 父からヅルカの大桟橋についても聞いていますし、ジジカ村の水路も見に行きましたが、あれをたった1週間で造ったとはとても思えませんでした。特に水道橋は見事でした。

 極めつけはあの古鷹砦です。少人数であれほどの物を1日で作ってしまうとは。そんな将軍の下で働けるなど、これほど名誉なことはないと思っています。」

「だそうだが、どうだね。」

「分かりました。では今川男爵令嬢。よろしくお願いします。」

「そんな堅苦しい。私は将軍の部下ですし、楓とお呼びください。」

「わかりました。では楓さん。今後よろしくお願いします。」

「…さん付けですか。呼び捨てでよろしいです。こちらこそよろしくお願いします。」


 そうして、楓さんとも握手をした。温かく柔らかい手だったというのは内緒でお願いします。


「これで、ようやく副将軍3人が決まったな。いやはや思ったより早く決まって良かった。

 そうそう。そっちにも連絡が行っていると思うが明日の朝、君の騎士団が学校から駐屯所に移動する。昼前に一度行って顔見せの訓示でもして来ると良い。

 丹葉殿も物品搬入で朝からそちらにいるはずだしな。」

「分かりました、ではそうさせていただきます。」

「じゃあ、国王様には私から副将軍3名が決まった旨報告しておくからな。」

「分かりましたありがとうございます。」


 このやり取りを最後に俺は椅子を立って、赤穂様の執務室を退室する。

 2人も俺に続いて退室してきた。

 廊下で明日、昼前に駐屯所で会う事にしてその日は2人とも別れた。きっと2人も準備があるだろうし。

 その後自分の執務室に戻った俺は今度は犯罪奴隷について書かれている法律書を読んでから帰宅した。



 次の日の朝、王城の執務室に出勤した俺は、恒例の書類の裁定を終わらせると訓示の内容について悩む。

 昔、学校の朝礼などでやたらと長い訓示を聞かされて辛かった事を思いだして、訓示の内容自体は少しにして、連絡事項を言う事によって時間調整をすることにした。

 さすがに、訓示で「よろしく」だけで終わるのもどうかと思うので。

 昼前に馬車で駐屯場に移動する。

 駐屯場は事前情報通り、西門の目と鼻の先にあり、西門から延びる大通りから専用の大きな道路を通った先にあった。

 田舎の小学校の様なグラウンドと木造二階建ての建物であった。

 建物の前に馬車が止まったので、外に出る。

 地面はグラウンドの様な踏み固められた砂の地面ではなく。ただ、整地されていない地面で歩くと少し足跡が付くような土だったが、これからの訓練内容を考えると好都合だった。

 馬車から下りると、3人の副将軍が全員で出迎えてくれた。

 そのまま兵舎の中に入って、入って直ぐの所にある応接室で軽く今後の打ち合わせをした。

 その後、ガルガラが兵達を並ばせると出て行ったので、他の2人を連れて外に出る。


 しばらくすると指揮官に指示されて兵達がグラウンドに整列し始める。

 この、指揮官だが、実は『古鷹砦建造作戦』(最近この名前が付けられた。)の時に参加してくれた兵達で皆『配置転換願』を出してまで俺の部隊に来てくれた人たちだ。

 もっともその数は6人と少ないが…。

 このほかにも、赤穂様が手配してくださった。治療魔法の使える魔法兵が3名派遣された。

 白魔法の使い手で全員エルフだ。これにより、晴嵐騎士団は俺を含めて全員で499名となった。

 全員が並び終わった所で用意されていた台に上って訓示をする。


「まず、初めての者が多いと思うが、私が五十嵐将軍だ。今後、君たちの指揮をとる。

 こんな新米将軍の下で大丈夫かと思う者も多いだろう。

 しかし、信じてほしい。そしてついて来てほしい。私はこの騎士団を皇国最強と言われるようにするつもりである。

 それには君たちの力が必要なのだから。」


 我ながらしゃべっていて恥ずかしくなる。

 しかし、こういった事が大事だと自分の中の何かが訴えかけている。

 なのでそのまましゃべる事にした。少し顔を赤らめながら。


「君たちも知っての通り、この騎士団はこれまでの騎士団とは大きく目的が異なる。

 私たちは目下、皇国を侵略してきている帝国に対応する為に設立された。

 また、私は敵と対するにあたって従来の戦法はとらない。

 よって、私の訓練は従来の物とは大きく異なる。が、この訓練が終了した時。君たちは確実に強くなっているはずである。

 この私の言葉を信じて訓練に励んでくれたまえ。

 まず、明日。明日は朝から指揮官の選抜と兵科の振り分けを行う。

 心して準備に励んでくれ。今日これからは、兵舎の整備と各人の身の回りの整理が出来た者から自由とする。

 しかし、羽目を外さず、明日の朝は集合時間に遅れる事のない様に。

 では解散。」


 なんとか最後まで言いたいことを言って台を下りた。

 背後で指揮官たちが兵に指示を与えている声が聞こえる中、応接室に戻った。



 その後、兵達と一緒に食堂で食事をとった後、副将軍3人に分ける兵科の事とその兵科に求められる能力を説明し、選抜選定方法を決めたり、今後の訓練について話し合って家に帰った。

 因みに、ガルガラや鉄次さん、皇都に家のある指揮官は、訓練中は家に帰る許可をだした。

 また、実家が皇都にある新兵も帰宅を許した。

 その他の物は兵舎に泊まる。兵と言っても騎士団の騎士だからこの辺は元の世界の兵隊とは違う。

 変わり種としては、楓さんは男爵の皇都別邸から通うそうだ。


 次の朝、兵達の選抜選定が始まった。

 どの兵もどんな兵科があるのか知らされていないにも関わらず、少しでもかっこいい兵科に行きたいと全力が出せる体調で臨み、事実かなりの好成績をあげてくれた。

 そして、午前中に行った試験結果を基に、午後には選定作業を行い、夕方前には各兵科、小隊ごとにグラウンドに整列させることができた。

 今後のこの小隊単位で行動してもらう。

 今回兵達を振り分けた兵科とその人数は次の通りである。



第1大隊(槍隊)

 大隊本部、ガルガラ、副官1名、伝令3名

  3個中隊 各中隊長1名、伝令2名、3個小隊各15名


第2大隊(弓、魔法隊)

 大隊本部、楓、副官1名、伝令3名

  2個中隊(弓隊) 各中隊長1名、伝令2名、3個小隊各15名

  1個小隊(魔法隊)22名


第3大隊(工兵隊)

 大隊本部、鉄次、副官1名、伝令6名

  9個小隊各20名


本部人員

 俺、伝令3名

  3個小隊(衛生隊)各10名


 槍隊、弓隊、魔法隊は今まであったが、工兵隊と衛生隊は俺独自の部隊だ。

 特に、工兵隊は3つの大隊の中で一番人数の多い部隊だ。

 主任務はもちろん陣地構築ではあるが、その他に、投石器や衝車の設置操作や弩の扱い等をやって貰うつもりだ。

 衛生隊は小隊長こそ治療魔法の使える魔法兵だが、他の者は俺が覚えているだけの応急処置を覚えさせて救急箱を持たせた衛生兵だ。

 一応直轄ではあるが、前線で治療にあてるつもりだ。

 魔法隊は、攻撃魔法を使える又は使えるようになりそうな者が22名しか居なかったので少数である。

 任務は弓隊と共同しての遠距離射撃と敵魔法の防御である。

 明日からは、各兵科ごとに訓練と教育をしていくつもりだ。



 騎士団が発足した翌日。いつも通りの時間に王城に出勤し、書類の裁定をする。

 昨日思った通り、一部の書類が駐屯地の副将軍の所に回されたらしく、裁定を必要とする書類は少なくなっていた。

 それらに素早く目を通した後、騎士団の兵科ごとの訓練内容を細かく決めた訓練計画を作成したり、兵達の教育資料を作成したりして午前中を過ごした。

 午後からは駐屯地に顔を出す。

 兵達の今日の訓練はレクレーション的な感じで、午前中は会合というか小隊毎に自己紹介的な事をさせて、午後は小隊毎に1対1の模擬戦をさせて各自の実力と役割分担の把握をさせている。

 今も槍隊は槍に見立てた棒で、工兵隊は片手剣に見立てた木刀で試合をしている。弓矢隊は的当てをしていた。

 そんな中、副将軍と中隊長を集めて明日からの訓練方法を説明する。

 その場にいる全員が驚きの表情で訓練内容を聞いていた。それほどまでに俺が示した訓練計画はこれまでの常識を逸脱する物だったのだが、皆説明に納得してくれた。

 因みに、午前中は俺の作った訓練資料での講義になる予定だったが、講師役の中隊長も資料の内容は知らないことだらけだと言うので、各自資料を読んでいくという自習形式になった。午後からはグラウンドでの訓練となる。


 一通り説明が終わり、中隊長たちが退室してからは、今後来たるべき鷹ヶ城攻略に向けて副隊長たちと話し合う。

 副隊長達の聞き取りの結果から、私は明日からしばらく侍所と大店おおだなをまわらなければならないなと思った。

 副将軍たちですら、これから戦う帝国についての情報を知ら無すぎるからだ。明日さっそく侍所と大店に行く事にする。


 話し合いが終わってそろそろ解散しようとした時、鉄次さんが何か言いたそうにしていたので、聞いてみると「将軍は何時奴隷を買いに行かれますか?」と聞かれた。


「奴隷か。一応明日にでも見に行ってみようかと思っていますが。」


 と答える。今日中には奴隷部屋の改造も終わるだろうし、必要物もそろえてくれているはずだ。


「そうですか。では私も明日行く事にします。」

「では、明日の朝、一緒に行きますか?」

「良いのですか?」

「ええ、なにぶん奴隷の買い方などわかりませんし、そもそも何処で手に入いるのかも知りませんから。」

「わかりました。お供させていただきます。」

「お願いします。でも、なぜそんなことを私に聞いたのですか。」

「それはもちろん、将軍様よりも先に奴隷を手に入れること等できませんから。」

「どういう事ですか?」

「それはもちろん、将軍様の好みの奴隷を先に盗ってしまう訳にはいきませんから。」

「別にそんな事気にしなくても良いですのに。」

「いえいえ、重要な事です。」

「そうですか、それは申し訳ない事をしました。それでは、ガルガラや楓さんも私が奴隷を手に入れるのを待っていたのですか?」

「いや、おれはもう加賀将軍の時に手に入れていましたので。」

「私は父上から、幼少の時から一緒の者を貰い受けまして。」

「そうですか。では鉄次さんだけなのですね。」

「「はい」」

「よかったです。将軍様が3日たっても購入されたという事を聞きませんでしたので内心不安だったのです。

 もし将軍がこのまま奴隷を購入されないのなら、自分も手に入れられないのではないかと。」

「そんなに心待ちにしていたのですか?」

「それはもちろんですよ。だって、奴隷持ちなど役人の憧れのもとですから。

 いつか出世して自分も奴隷持ちにといつも思っておりました。

 それが叶うのです。しかも、犯罪奴隷でなく一般奴隷持ち。本当に将軍には感謝してもしきれませんよ。」


 どうやら奴隷を持つことは相当な憧れであったようである。

 その後、鉄次さんとは明日執務室で落ち合うことにしてこの日は家に帰った。


 実は俺は明日侍所と大店を周る為に、鉄次さんに同行してほしかったのだ。騎士団の支給金の管理は鉄次さんに一任していたのだが、この支給金を使用したかったからだ。

 その事を鉄次さんに言うと、奴隷を買いに行くついでに侍所等に回っても良いと言われた。

 俺的には、奴隷を手に入れに行くのが、侍所等を回るついでなのだが…。


 家に帰ると予定通り、奴隷部屋の改造は終わっており、服なども準備されていた。

 気が乗らないが、明日奴隷を連れて来ると小次郎さん達に約束した。



 次の日の朝、執務室に出勤するとすでに鉄次さんが来ていた。鉄次さんはどこか落ち着かない様子でそわそわしている。

 とりあえず、ソファーで待っててもらって、いつも通り書類の裁定をする。今回もそんなに多くない書類を処理し終わると、待っていたとばかりに鉄次さんが満面の笑みで立ち上がった。

 この世界ではよほど奴隷持ちというのはステータスになるのだろうか。

 とりあえず、小枝子さんに今日はもう執務室には立ち寄らない事を伝えて部屋を出た。


 馬車に乗り込んで、先に侍所と大店を回る。侍所では簡単な依頼を出した。

 将軍の肩書があるからか、依頼は簡単に出す事が出来た。

 しかし、大店ではそう簡単にはいかなかった。

 相手はさすが商人である。一筋縄にはいかず、情報と見返りに「専属商人にしてくれ」とか、「御用商人にしてくれ」、はては「贔屓ひいきにしてくれ」と言葉巧みに迫ってくる。

 『専属商人』とか『御用商人』が何かわからないし、下手に契約してとんでもない事になったら面倒なので、それらは断ったが、いくつかの注文をすることにした。

 大店は4店舗回ったのだが、それらですべて同じ物を同じだけ同じ値段で注文した。

 もちろんこの条件は始めに訪れた大店からそうすると伝えて了承を貰っている。

 それらの注文の品の状況と教えてくれる情報の結果でどの店を今後使うか決めると言っておいた。

 つまり、4つの商会で競争させたのだ。はたして結果がうまく行くかどうか。

 因みに、注文した品は、主に工兵部隊が使うつるはしにスコップ、その他今考えている攻城兵器の材料等である。


 後で聞いたら、軍務部調達課ではこんな風に色々な店に分散させて注文を取る事はなく、部下の気に入った店で調達するそうだ。

 まあ、値段は役所が決めるが役人を取り込むための接待競争は結構激しく、給金の安い新人君には結構うま味のある事だと言われた。

 主任以上の上級職の役人は注文を出す店を決める決定権もなく、どの店から手に入れたか等は知らされない為若いころだけの特権としてとられているそうで、その分下っ端の給金は落とされているらしい。



 大店の商人との話が長引いて昼を過ぎてしまったので、街中で昼食をとった後、一度駐屯地に顔を出す。

 兵達は午前中座学をした後、午後からグラウンドで俺考案の訓練となる。

 座学ももちろん俺が作った教本を使って進められる。

 これにより、この世界ではまだ考えられてもいない集団戦術を身に着けて貰うつもりだ。

 訓練は何も問題なく進んでいる様なので、この後奴隷を買ってからそのまま帰宅する事にする。

 たぶん、奴隷を買って家に帰ってからも一仕事ありそうだ。

 そしていよいよ鉄次さんの念願の奴隷購入に行く。


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