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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
現代戦を取り入れてみたら?
17/46

将軍は美味しかった

朝、赤穂様の別宅の豪華すぎる客室でメイドさんに起こされた後、朝食をとって直ぐにお城に向かった。

今回は、本丸ではなく手前の執務棟(昨日この名前が判明した。)の1階にある待合室に通された。ここも豪華すぎて居心地が悪い。

赤穂様とは入り口で分かれたので、今は一人である。因みに、今回は帯刀が許されている。

しばらくフカフカのソファーで待っていると、執事っぽい人が呼びに来た。

後をついてロビーの階段を上り正面の両開きの扉の前に立つ。

この先は謁見の間だそうだ。重厚な扉の左右を鎧武者が警備している。

案内してくれた執事さん?は横に控えている。

緊張しながらも昨日、赤穂様の別宅で教えられた手順を再度確認する。

軽快なラッパの音が鳴り響き、扉が内側に開いた。

中は、純洋風だった。

正面遠くに国王様の座る台座が数段高い所にあり、そこまで一直線に赤絨毯が敷かれている。

左右には着飾った貴族や武装した武者たちが並んでいた。そんな中をゆっくりと歩いていく。

室内の装飾と居並ぶ人々のギャップがもの凄い。

装飾は磨かれた大理石の床に赤絨毯。天井から吊り下がった国旗に、外見からは解らなかった洋風な窓。もちろん壁も石造りだ。

天井はさすがに木製の梁が見えるが、シャンデリアが輝いている。他国の要人を迎えてのダンスパーティーにも使われる、土足で上がる西洋風の謁見の間だ。

しかし、そこに居並ぶのは、槍を持った鎧武者や紋付き袴の男性人。そして、十二単だろうか、きらびやかな着物を幾重にも纏った貴族の夫人もみられる。

もちろん、俺の服装も黒の袴姿だ。

つまり、西洋風の室内に居並ぶ和風の人々。そのギャップがもの凄い違和感なのだ。

そんな中をゆっくりと進んでいく。

別に恰好をつけている訳ではない。緊張で足が進まないだけだ。まったくヘタレだ。

戦場では緊張しなかったのに。まあ、それは訓練のおかげか。

周囲の好奇の目に晒されながら、ようやく国王様の壇上の前に着く。

教えられたとおり、片膝をついて青龍を前に立て、柄頭を両掌でおさえて指を伸ばす。両手はなるべく直角に交差するようにする。その状態で頭を下げた。

これが正式な儀仗礼らしい。

俺が、儀仗礼をとると直ぐにラッパが鳴り響いた。

「ジジカ村の颯太。貴殿を将軍職に任ずると共に姓を名乗る事を許可する。」

「は、ありがたき幸せに。粉骨砕身職務に励みまする。」

「うむ、では姓を名乗り、忠誠を誓われたし。」

「はい。我、五十嵐颯太はこれより、サウザンエメラシー皇国将軍として仇なす敵を攻める鉾となり、また、民草を守る盾となる事を誓います。」

「うむ、期待しておる。」

国王様が立ち上がられると共に、またもやラッパが鳴り響きその後、割れんばかりの万歳三唱が続いた。

万歳三唱が終わると、音楽隊により国歌が演奏され、その後まず国王様が退出し、続いて重臣達が後に続く。

その後国王様が退出された出口とは別の、俺が入っていきた出入り口から俺が退室し、任命式は終了した。

退室した俺は、しばらく待合室でしばらく待ってから、やって来た赤穂様と一緒に、赤穂様の執務室に向かった。


任命式が終わって正式な将軍となったが、まだ自分の執務室は準備中だ。

明日には準備できるらしいが。

また、まだ部下等もいない。

この執務棟内の連絡や事務等をしてくれる補佐人と呼ばれる官僚の人達は明日、執務室が割り当てられたら、ついてくれるらしい。が、それまではここ、赤穂様の執務室の隅の応接セットが俺の居場所だ。

で、今はそこで赤穂様から直々に講義を受けていた。

内容は国内の貴族についてや国の現状等多岐にわたった。

さすがに将軍ともなると、政治と無関係ではない。

また、この国では政治は貴族によって行われる。よって、貴族の事を知っておかなければならないのだ。

因みに、将軍の仕事、義務と権利については明日、自分の執務室が出来たら書籍で勉強する事になっている。

法律は本で勉強できるが、国の現状については本になっていない。その為の講義となったのである。

この講義は昼食を挟んで日が暮れてもまだ続き、結局、赤穂様の別邸に帰ったのはかなり遅い時間となった。

そんな、一日で即席に教わった事をまとめるとこんな感じだ。



まず、このサウザンエメラシー皇国にはいま公爵様はいらっしゃらない。

国王様の血筋で独立された方が公爵家を名乗っていたそうだが、今は無くなったらしい。

次の爵位である侯爵家は4人。皇国の4第貴族として皇都の東西南北の地方都市に領地を持っている。

この4大都市は皇都の東西南北にあるが、皇都エメラルドがサウザンエメラシー皇国の北東部にある関係で、国全体で考えると、東の方に偏っている。


皇都にもっとも近いのは東のポートロイヤル。領主は侯爵第一位である加賀家。

サウザンエメラシー皇国唯一の海軍を保有する貴族将軍で、軍港も擁する大港街ポートロイヤルは皇都に次ぐ人口で、商業も盛んである。

貿易に関しては、近隣諸国との関係が悪化しつつあり、徐々に衰退している。

原因は加賀将軍の海軍の暴挙のせいだと赤穂様は思っていた。


次は南の穀倉地帯にある都市、ランドマーク。

その名の通り、都市の外は一面の麦畑が続き、都市がなければ自分の居場所が分からなくなりそうだ。

皇都一帯の食糧庫でもあるこの都市は侯爵第二位である伊勢家が拝領している。


北の都市は山間の盆地の中に突如出現するゴールドラッシュだ。

その名から分かるように金鉱山を有する。

金の他にも鉄をはじめとする金属の鉱山もあり、周辺の村では林業の他に馬や羊等の産地でもある。

特に急な斜面で放牧されている馬は足腰が丈夫で体も大きく軍馬として重宝されている。

領主は侯爵第三位の北条家だ。


そして、皇国の西方、ポツンと離れた所にあるのが我らが赤穂様の所領、ゼノンの街だ。

皇国の西方一帯の中心都市として栄えてはいるが、他の都市から比べると見劣りしてしまうらしい。

また、北の好戦的国家である、ボログロフス帝国からの侵攻を受けている関係で軍事費がかさみ、経済活動に投資し辛くなっている。


その他の貴族は伯爵家が一三家、男爵家が三七家ある。

伯爵家の内九家は皇都周辺に集中しているが、波多野家という伯爵家の領地は皇都とゼノンの中間地点にあり赤穂様との仲が良いらしい。

因みに街の名前はカカオリアス。皇都にくる途中で馬交換をした街の一つだ。


男爵家は国の周辺に半数位あり。皇都とゼノンの間。国土の中心付近、カカオリアス周辺に残り半分が密集している。

一つ一つの領地は小さいが、国境周辺にある町は其れなりの兵が駐屯するし、ポートロイヤルを除いた港はすべて男爵家の町にある。

また、多くの領地には都市間街道が通っており、これらの理由により結構活気がある町が多いそうだ。

街道から離れた伯爵家の町よりも栄えている所もあるとか。



そして、ここからはややこしい派閥に関してだが、現在もっとも多数派なのは侯爵第一位の加賀派だ。

領地の立地条件に恵まれた経済力と軍事力で周辺の貴族たちを半ば強制するような形で配下において勢力を伸ばしている。

加賀派の貴族は皇都周辺の伯爵家多く、その発言力は国王様といえど容易に無下には出来ないらしい。


それに対抗するのは伊勢家だ。国王様をないがしろにする加賀家に反発している。

加賀家も自領の少なくない量の食糧を伊勢家や伊勢派の貴族の領地から購入している関係であまり強くは出られないが、軍事力の無い伊勢家とは政治の表舞台ならともかく、いざとなればなんとでもなると思っている節があるとか。


侯爵第三位の北条家は現在領主がまだ若いという事もあり、中立の立場を決めている。

北部には最近は少し仲が冷えて来たシュウ王国と国境を接しているが、険しい山脈を挟んでいるだけに、ここが戦場になるのはあり得ないし、地下資源をはじめとした山の恵みが豊富なため、経済活動も活発でかなりの財を蓄えているとの事。

しかし、先代の時代から、かなりの量の黄金を国に納入しているらしく、国王様の心情は北条家によるところが大きいとも言われていたりする。


最近何かと加賀氏と対立する事が多くなった赤穂様の勢力は男爵家が中心だが、比較的緩やかな連合と言った感じで、赤穂様の性格上強制力はほとんどなく。男爵様たちが赤穂様の性格などにほれ込んで集まって出来た的な感じだそうだ。

その為か、国内では最大の人数を誇るものの、勢力としては大きくない。

派閥で言えば人民派といった感じの集まりで善政を敷く良識ある貴族の集まりって感じだ。

しかし、そのネットワーク網による情報収集能力は凄い物がありそうだ。



次に周辺諸国だが、南と東は海洋であり、その先に国があると言う報告はまだ受け取っていないとの事。

西は建国当時からの友好国であるバリクコッテ王国と接している。

今川男爵領の西側が国境で陸続きだが、パクト村の西は広大な密林の為陸路交易する事はできず、海路でのみ交易をしている。

北側の東半分、皇都周辺の北部はシュウ王国と接している。

しかし、国境線すべてが2千m級の山が連なる山脈で、こちらも街道などはなく交易は海路である。

そして、北側の西半分はボログロフス帝国華南部と接している。

こちらは言うまでもなく絶賛戦争中で仲は最悪だ。

ボログロフス帝国華南部という表現をしたが、華南部は元々河南公国という国があったのだが、数年前に拡大政策を敷くボログロフス帝国に征服され華南部という名になった。

そのボログロフス帝国が次のターゲットとして皇国を選んだのだろう。

ボログロフス帝国は皇国の他に南や西の国とも戦争中で、北部などでもゴタゴタしているらしいが、大国ゆえのタフネスと強硬政治のおかげか全く衰えをみせない。

もっとも、占領地である華南以下の各部は悲惨な状況になっているそうだが…


「とりあえず、隣国の状況はこんな感じだ。」

その赤穂様の一言でようやく長い長い講義が終了したのだった。



翌朝、ここ最近恒例となっている赤穂様の別宅、客間にてメイドさんに起こされ朝食をとった後、いつもの様に赤穂様の馬車に乗ろうとしたところでこれまでの恒例行事が終了した。

なんと、俺の為に馬車が迎えに来ていたのだ。

迎えに来た馬車は俺専用だそうで、鉄次さんがジジカ村に迎えに来た時に乗っていた軍用馬車を少し装飾して小奇麗にした感じだ。

馬車の出入り口には俺が家紋として決めた円から出た2本の髭が反時計回りに短く反っているマーク、天気図の台風のマークに2本の剣が交差したものが彫り込んであった。

台風のマークを使ったのは五十嵐の姓の為だ。

元々の家紋は両親も知らなかったので、俺も知らない。

墓には桐の御紋が彫ってあったし。

2本の剣は海賊旗みたいにしてかっこよくしたかったからだ。

このマークはそのまま俺の騎士隊の旗になるみたいだし。


家紋&騎士隊旗 -(イメージ)

挿絵(By みてみん)


驚いたのは、この馬車の御者の方も俺専用だそうで、今日から毎日俺に付き合ってくれるらしい。

何ともすごい対応で。さすがは将軍様である。

赤穂様の馬車の後について皇都を走る事しばし。

城に着くと、執務棟に俺の執務室が用意されていた。

場所は3階で部屋の大きさは赤穂様ほどは大きくないがワンルームマンション位はありそうだ。

赤穂様の部屋と同じく、執務机と応接セット、それに秘書用の様な机が置いてあった。

驚いたことに中には秘書の方が待っていた。


「初めまして、連絡係の小枝子といいます。今日から五十嵐様の連絡係として働かせていただきます。よろしくお願いします。」


っと秘書改め連絡係の小枝子さんが挨拶をしてきた。


「こちらこそ、よろしく。ところで、まだ俺将軍になったばかりでよく分からないんだけど、連絡係ってなに?」

「はい、将軍様が留守の際にいらしたお客様の記録や持って来られた書類を将軍様にお渡ししたり、逆に将軍様が用意された書類を取りに来た方にお渡しする事が仕事内容です。」

「なるほど、スケジュール管理とか、アポの受付とかはしてくれないの?」

「すけじゅーる?あぽ?あの、仰ってる意味が解らなのですが。」

「えっとね、俺の行動予定を立てたり、来客者にいつ会うかを調整したりする事はしてくれないのかな。」

「それは、将軍様がお決めになる事で、私が決められるようなものではありません。」


別に、あなたに全部俺の行動を決めてもらう訳ではないんだがな。

でも、それじゃあ本当に連絡係だな。掲示板や留守電の代わりみたいなものか。

これから先どんどんやる事が増えていくし、秘書を雇わなければならないかな。

まあ、秘書という概念がどうもまだなさそうだが。

そう、執事と言った方が良いのかもしれないな。赤穂様も連れていたし。

でも、赤穂様は貴族のたしなみ的な感じで連れていたのかもしれないな。

貴族に執事はつきものだし。

ではやっぱり秘書か。いや、軍隊なら副官だな。


因みに小枝子さんは綺麗系のまあまあ美人な人で、結構有名な豪族の娘だそうだ。

城で働いてあわよくば貴族の息子と…なんて魂胆でここに働きに来さされたらしい。

まあ、城で働けるのは身元のきちっとした人で、尚且つ能力のある人に限られる。

子供のころに教育を受けられるのは貴族か金持ちだけなので、そういった人達が集まるのだろう。


そんなことを考えながら席に着く。机にはすでに数枚の書類が置かれていた。

内容は「今年度の初期訓練終了予定者」という一覧とか、「五十嵐騎士隊(仮)の武器防具調達状況」とか「五十嵐騎士隊(仮)訓練施設候補地」とかだった。

ってか、『五十嵐騎士隊(仮)』ってなんだよ。

とか思っていたら、「五十嵐将軍所属の騎士隊名称通達のお願い」という書類もあった。

つまり、役所内での俺の騎士隊はまだ存在しないが準備は始まっているので、これまでの「五十嵐将軍の騎士隊」という名称ではなく、書類に乗せられる名称が必要なのだとか。

めんどくさいので特にあれこれ考えるで無く「晴嵐騎士隊」と記入して、裁定済みの箱に放り込んだ。

因みに「晴嵐」はもちろん某戦闘機の名前から頂きました。


机の上の書類すべてに目を通して、はんこを押した後に裁定済みの箱に放り込むのに30分ほどとられた。

その後は予定通り法律の勉強のために本を読み始める。

この法律書もはんこもすでに用意されていた。

法律書は読みたいと言っていたので赤穂様の執事さんが用意してくれたのだろう。本には執務棟の図書館の判が押されていた。

読み終わったら返しに行かなければならないだろう。

はんこについては鉄次さんが用意してくれたのか、執務室の装備品としてペンや紙と同じように用意されたのかは解らないが。

多分『皇国騎士将軍五十嵐』と彫られているようだ。「多分」なのは漢字の線が延長されたり曲げられたりしたはんこ独特の字が彫られているためだ。

机の上の書類がすべて裁定済みの箱に入れられると小枝子さんが回収してくれた。

そして、自分の席の机の上の細い引き出しがたくさん並んだ棚に仕分けしてなおした。回収に来る人ごとに分けているのだろう。


法律書は読み始めて直ぐに頭痛に悩まされそうになる。なぜならこの法律書は、漢字とカタカナで書かれていたためだ。

たしかに、二次大戦前まではこんな書き方がされていたと知っていたが、まさか自分がこの様な本を読む事になるとは思わなかった。

まずはとりあえず騎士の権限についての規定が書かれた本を読んでいく。騎士の最上級職が将軍だからだ。

結論から言うと、騎士とは軍隊ではなく警察だった。

いや、明確にそうではなく、軍隊と警察の仕事を足した感じだが、どちらかと言うと警察寄りだ。

国境警備隊ではなく、治安維持部隊といった方がこの騎士という職業を表していそうだ。

そして、治安維持の項目の中に、「外部の脅威の排除」が入っているということだ。

つまり、戦争は本職ではなく片手間的な考えなのだ。なんとも恐ろしい。

そんな考え方でよく帝国の侵攻を防いでいたものだ。

で、本職の治安維持だが、これもまた恐ろしい。

まず、騎士が取り締まるべき罪についてだが、これは法で決められている。

この法についてだが、国王様が決めた法の他に国王様の補佐をする色々な機関が必要に応じて宰相に上申し決められる法もある。

各省庁の決める「令」や「規則」「規定」等みたいなものか。

これらは国全体に効果を発揮するが、その他に貴族が領内に対して布告する法もある。

これはその貴族の所領にしか効果がないが、貴族の一存で布告されるので結構悪法が施行されることもあるそうだ。

その対策として、国が施行する法に反するものは無効になると言う法もある。

憲法みたいなものかな。

で、問題はここから先だ。

問題はこれらの方には明確な罰則規定がないという事だ。

しかも、裁判等というものは存在しない。

罰則は罪を犯した者を捕まえた騎士が判断し、処罰するのだ。

だが、一騎士がそんな判断をすることはめったにない。

普通騎士は部隊で行動しているからだ。

小さな犯罪なら小隊長が、大きな犯罪なら中隊長や副将軍。

それらが判断できないときは将軍の判断で処罰される。

しかも、小隊長や中隊長らの判断が妥当でないと将軍が判断したら、後から重複して処罰されることもありうるそうだ。

まったくとんでもない。

常に戒厳令が敷かれている治安維持部隊だ。そう、騎士とはイコール司法なのだった。特に将軍は。


そして、これも問題があるのだが、騎士の権限が及ぶ範囲だが、それはその騎士が居る場所と書かれていた。

つまり、国内どこに居ようが、その騎士が居る場所において犯罪を取り締まり処罰する義務が発生するという事だ。

では、異なる部隊の騎士が同じ場所にいた場合はどうなるのか、これも明確に記されていた。「早い者勝ち」と… なんかそれでいいのかと思ってします。

罪を犯した者にとっては、観念した時、どの騎士に捕まるかでだいぶ処罰が変わってきそうだ。

何はともあれ、とりあえず騎士=治安維持部隊で納得しよう。

で、その騎士のトップである将軍は現在、俺を除いて12人。

彼らが国中に部隊を展開して治安を守っているという事だ。

貴族は私兵を持つらしいが、彼らは一部の大貴族を除いては、いうなれば身辺警護のみを行う警備員で治安維持はしない。

というか、中小貴族にとって治安維持に回せる程私兵を養う金などないのだ。

その為国の機関である、騎士隊が治安維持にあたる。

いわゆる国家警察だ。

平民将軍達は主に付近に貴族将軍がいない地域で治安維持に当たっているようだ。


で、俺の立場だが、すでに皇国全土は将軍達の縄張りが決まっているだろう。

俺が将軍になるまでおよそ40年間ずっと将軍職は12人だったようだし。

では俺は外威専門の部隊でいいのだろう。赤穂様の話しぶりもそんな感じだったし。

だが、たとえ外威専門の国境警備隊だとしても、国内を移動中だったり、村などで待機中だったり、またまた訓練中だったとしても、周辺で違法行為が行われたら、取り締まり処罰する義務があるのだから、とりあえず、今国内で施行さえている法はすべて頭に入れなければならなそうだ。

そういう事を覚えていてくれる副官がいれば便利なんだが。

と、騎士の権限についての規定が書かれた法律書を最後まで読んで、本を閉じながらそう思う。

ため息をつきたくなるが、将軍となったからには仕方がない。

せめてもの救いは前の世界ほど進歩していないこの国ではそれ程法が多くなく、まだ難しくもないことだ。

もちろん、遠回しな書き方ややあいまいな書き方もない。

ただし、文章が漢字とカタカナだという事を除いて…


午前中いっぱい法と格闘して、昼食の時間となった。昼食はどうするのかと小枝子さんに来たところ、小枝子さんは食堂で食べる。との事だった。

俺も食堂で食べるから一緒に連れて行ってくれと言うと、大変驚かれた。

普通将軍は家の者が昼食を届けに来るか、家に食べに戻るそうだ。

貴族将軍等は、執務棟の一角に調理室を借りてそこで調理させている者もいるそうだが、俺はまだ家はないし、もちろん使用人もいない。

ので、食堂で食べるのが一番なのだ。

そう説明して何とか食堂に連れて行ってもらった。

結果として、食堂で食事をとったのは面白く良い気分転換になった。

執務棟の食堂は一階にあり、この時間多くの職員で列をなしていた。

まず、列の最後尾に並んだところで、前に並んでいた職員に気付かれ場所を空けられた。

まあ、もちろん辞退して順番が来るまで並んだが。

食事はメインとサブを台から選んで取って、最後にご飯と汁を貰ってお金を払うと言うシステムだった。

が、お金を払う段階で、身分証明の提示を求められたのだが、そんな物貰っていない。

普通将軍ともなると顔パスで身分証など必要ないらしい、しいて言うなら馬車や旗に付いている家紋が証明になるらしいが、旗を持って食堂に食事に来る者はいない。

ただ、問題は俺はまだ将軍になったばかりで、支払窓口にいたおばさんは俺の事を知らなかったのだ。

結局、初めに列に並んでいる時に俺に気が付いた職員達(実は門番の騎士だった。)が自分の身分証明と責任によって俺が将軍であると保証してくれて、はじめて昼食を貰えた。

まあ、騎士が保証すると言った時のおばさんの顔は青ざめていて、かわいそうな事をしたと思う。


その後は、その騎士達と小枝子さんと一緒に食事を食べた。

もちろん、こんな場所で昼食を食べるなど意外だと言われたりしたが、楽しかった。

色々話をしてここの門番など、城に詰めている騎士は近衛兵で王様直轄の部隊という事が分かった。

城だけでなく、皇都所属の騎士はすべて近衛だそうだ。

まあ、任務は王様の警護もあるが、ほとんどが治安維持だそうだが。

こんな感じで、何やかんやあった昼食だが、楽しかった(特に周囲の驚く反応が)ので今後もここで昼食を食べようと思う。俺まだ使用人いないし。



昼食後再び執務室に戻って法律の勉強を再開する。

数が少ないので暗記とまではいかないが、一通り目を通すだけなら今日中に終わらせそうだった。

が、終わらなかった。

最後の一冊が読めなかった。

日が傾き、御者が迎えに来た段階で、後一冊と少し。

今読んでいる「売買契約についての規則」という商取引法みたいなものを読み終えてから帰宅する事にした。

帰宅と言ったのは迎えに来た御者が帰りは赤穂様の別邸でなく、俺の家が用意できたそうなので、そちらに連れて行くと言ったからだ。

そして、今読んでいた本を読み終えて、帰ろうと立ち上がった時、最後の一冊の題名を見てコケそうになった。

最後の一冊の題名は「高級職における特権」と書かれていたからだ。

今一番読みたい本ではないか。なんでこれを一番初めに読まなかったのだろう。

答えは一番下にあったからだが、何ともはや。

多分一番初めに用意されたから一番下になっていたのだろうが…。

まあ、持って帰るのは借り物の為控えた方がいいだろうし時間もあるので、この本は明日読む事にして今日はもう帰る事にする。


机から立ち上がって帰ろうとすると、小枝子さんが本を返却していいかどうか聞いてきた。

どうやらそろそろ本を取りに来てくれる人が来るらしい。

書類は昼と夕方に何人か取りに来ていた。

机の真ん中にある一冊以外は返しておいてくれるよう頼んでから。御者について部屋を出た。

部屋を出てからは、御者と世間話をしながら馬車に向かう。

こちらに来てからもう一年以上経つが、その間主にこの国の西の端。

いわゆる辺境の村で暮らしていたから、俺はあまりこの国の常識を知らない事が多い。

貴族や将軍だってほとんど知らなかったのだ。

だから、こういった世間話は俺にとって重要だった。

そんな世間話の中で、ようやく彼が四朗という名である事を知った。

朝も送ってもらったのに、まだ名前を聞いていなかったのだ。

だが、使用人の名前を気にするような人はほとんどいないという常識も同時に知ったが。


馬車は執務棟の出口から、近くもなく遠くもない位置に止めてあった。

出入り口の近くには豪華な馬車が1台。遠くにそれなりの馬車が何台か止まっている事から考えて、馬車の位置は迎えに来てもらう人間の順位を表しているのだろう。

俺の馬車からこっちには、1台しか止まっていないのも、順位が高い人間は早く帰るからと考えると納得である。

四朗さんに案内されながら、馬車に乗り込む。馬車は直ぐに走り出した。

門を出て5分程か、結構近い場所にある家の門を入って直ぐに馬車は止まった。

馬車を降りて周りを見渡す。

けっこう大きな瓦屋根の平屋が目の前にあった。

庭は日本庭園ではなく、土がむき出しの広場の様な漢字、母屋の他に離れと馬小屋があった。馬小屋には小さな小屋もついていた。


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