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庶民が小物でなにが悪い

 夜になり、用意された毛布にくるまって座りながら寝てから何時間が経っただろう。

 ふと目が覚めて車外を見る。外はまだ真っ暗だった。

 そして気が付く、馬車が止まっている。

 寝る前にはかなりガタガタ揺れている馬車が今は全然揺れていなかった。

 外からは複数の人の気配がするが暗過ぎて小さな窓からでは何が起こっているのか分からない。

 時々馬の鳴き声と木がすれ合うような音がする。

 鉄次さんはまだ毛布に包まって寝ている。何か問題があれば誰かが起こしに来るだろう。

 そう思ってドアを見たとき、馬車は再び走り出した。

 窓からは所々にかがり火の様なものが見えるので、どうやら街中に居るようだ。

 しばらくして、馬車が再び停止して、車外から御者と誰かが話す声が聞こえる。

 2,3語話したところで馬車が再び走り出した。

 外にはもうかがり火は見えず、真っ暗闇が続く。どうやら先ほど止まった所が門で、今は街の外に出たらしい。

 とりあえず、大丈夫そうなので、再び眠りに落ちた。



 次に目覚めた時には、車外はかなり明るく、すでに朝になっている事が分かった。

 鉄次さんもすでに起きていて、何処から持って来たのかサンドイッチをかじっていた。


「おはようございます。お目覚めになりましたか。」


 そう言ってサンドイッチが入っているだろう小さなバスケットと、少し大きめの木製のコップに湯気の立った紅茶を渡してくれる。


「おはようございます。ありがとうございます。」


 とりあえず、朝食を受け取って、夜明け前に馬車が止まっていた件を話す。


「ああ、それはゼノンの街で馬の交換を行ったのですよ。」

「馬の交換ですか。」

「ええ、そうです。さすがに軍轟馬でも一日中重客車を引いて駆けるのは無理があるので、途中で交換するのです。ついでに、朝食の補給を受けるのとね。」


 そう言って俺の手元にあるバスケットを指す。

 なるほど、この朝食は夜明け前に馬を交換する時についでに積み込んだ物なのか。

 納得してさっそくサンドイッチをいただく。

 マヨネーズなどないこの世界。味付けはハムやチーズの塩気だけで、少し物足りなさを感じたが仕方ない。

 あと、パンが結構固くて、少し癖のある匂いがした。まあ、軍用の支給品だろうし、タダなので文句は言えない。

 そんなサンドイッチを紅茶で流し込む。

 サンドイッチを食べ終わって、残った紅茶を飲んでいて初めて気が付いた。

 この紅茶は美味しい。てか、かなり好みに合っていた。

 紅茶を気に入ったのに気付いたのか、鉄次さんが紅茶のお代わりを進めてくれる。もちろんありがたくいただく。

 紅茶は金属製の水筒のような円柱形のポット?から注がれた。注がれた紅茶はカップで湯気を立てている。

 馬車がゼノンの街を出発してからどれくらいの時間が経ったのか分からないが結構経っているはずだ。

 それでも沸かしたての様な紅茶が飲めるとは、その筒は保温機能が結構優れているみたいだ。

 元の世界の魔法瓶並みかそれ以上の様な気がする。

 気になったので聞いてみた。


「え、これですか。携帯湯沸かし器ですが何か?」


 答えは想像の上を行きました…。


 ってか、中世の時代背景になんで携帯ポットなんてあるんだ!んなもん電源が取れない馬車の中なら現代日本にだってないぞ!

 と、少し取り乱したが、なんとか紅茶をこぼさずに、というか紅茶がこぼれそうになって冷静を取り戻して、原理を聞く。

 結果、なるほど、簡単に納得がいきました。

 だって、ただの鉄の筒に赤魔晶石を入れただけだったんだもん。

 鉄は魔力を通しやすい白鉄と黒鉄を1対1で混ぜた物で強度もそれなりにあるらしい。

 確かに、少し叩いてみると痛い。色といい、形さといい、俺が知っている鉄その物だ。

 でも、なぜか錆びないらしいのはファンタジーだ。

 やっぱり、俺の知っている鉄とは別の金属と考えた方が良いと思う。

 ついでに、赤魔晶石が液体の中でも熱を発する原理も解らん。

 効率はかなり落ちるらしいが、酸素がなくても良いのか。

 では、ドクトルさんのとこでやったあれはいったい?っと余計頭を抱えたくなる。


 そんな事がありつつ、鉄次さんから、この国の一般常識から現在の国を取り巻く状況や軍の情報まで説明を受け、今後の予定を話会う。

 といっても今後の予定についてはすでにあらすじは決められていて、俺が意見を言える事はほとんどなかったけどね。

 後、鉄次さんの身の上話も聞いた。なにせ時間はタップリあるのだ。

 しかも男2人の空間で。話し続けないと気まずい。

 で、まず初めに気になっていた鉄次さんが名字持ちの件について。

 結論から言うと鉄次さんは貴族ではなかった。

 鉄次さんのお祖父さんが将軍職に就いていた時期があったらしく。その時に名字を持つことを許されたそうだ。

 鉄次さんもお祖父さんの様に将軍になりたかったらしいが、武の才能がなく諦めたとの事。

 代わりに、算術と事務仕事の才がある事が分かり、家柄も良い事から今の仕事に就く事が出来たらしい。



 途中でもう一度結構大きな街(名前は聞いたけど忘れた。)で馬の交換と昼食の補給をして夕方頃にようやく皇都エメラルドに到着した。

 皇都の大きな門をくぐり、馬車は少しスピードを落とすが、それでも街中と考えればかなりのスピードで進む。

 みやこに入った門からさらに2つの門を潜り抜けた後、しばらくしてようやく馬車は止まった。

 馬車が止まると直ぐにドアが外から開けられる。

 鉄次さんに勧められて、先に馬車を降りた。

 馬車を降りた俺の目の前には、石造りの立派な建物があった。

 見上げると、目の前の建物は4階建てのようで、2階部分からは2本の長い旗竿に吊るされた大きな旗が垂れ下がっている。

 金色の刺繍で縁取られたその旗は、緑色の下地に黄色の円が旗の根元側の角に4分の1を覗かせる格好で配置され、そこから3本の矢が飛び出しているこの国の国旗だ。

 後から下りて来るであろう鉄次さんの為に少し馬車から進んで距離をとってから、こちらに来て一番大きくて立派な建物(ヅルカの男爵の館よりも立派に見える。)にしばし見とれる。


「どうですか、でかい建物でしょう。

 ここは皇都に来る高級将官や、軍と取引する大商人が泊まる為に用意された軍の宿です。

 颯太さんには今日はここで泊まってもらいます。」


 そう言って、俺を入り口へ促す。

 恐縮しながらも、とりあえず、入り口の扉に向かって歩き出すと、扉の数歩手前で扉が勝手に開いた。

 自動ドア?

 一瞬そう思ったが、内開きに開いた両扉の両側に、タキシード姿の男性が扉を支えていた。

 どんなサービスですか!てか、なんでタイミングが分かるんですか?絶妙のタイミングでドアが開いたんですが。

 なんか、貴族の様な待遇に無駄にスキルが高いこの宿ホテル、税金の無駄遣いじゃねぇ?

 日本なら絶対に叩かれそうだ。

 そんな税金の無駄遣い決定の宿の中はこれまた凄かった。

 もちろん、赤絨毯にシャンデリアです。まるで高級ホテルだ。(行った事ないけど…)

 そんなホテルのフロントで鉄次さんが何やら話した後、タキシードの男性(執事?ボーイ?)を連れて俺の所に帰って来た。

 因みに俺はまだ入り口で固まっています。


「この男性が部屋に案内してくれます。

 明日着ていただく服は部屋に持って行くように言っていますので、受け取って下さい。

 夕食は部屋で食べるようにしましたが良かったですか?」


 鉄次さんに声を掛けられてまだ固まったままだが、何とか頭だけを動かして肯定する。


「分かりました。

 後、飲み物については何を頼んでもらっても構いませんので。ただし、明日に響きますので控えめにお願いします。」


 これにも何とかうなずく。


「それと、春はお呼びしましょうか、好みを言って貰えればご用意しますが。」


 また、爆弾発言を…。とりあえず、これには動く頭を総動員して否定する。

 つまり、全力で首を振った。


「そうですか。わかりました。では、私はこれから明日の段取りなどを付けてきますので、今日は失礼します。

 明日、朝9時頃にお迎えに上がりますので。」


 そう言って鉄次さんはにこやかに宿を出て行った。

 残った俺はボーイさんについて階段を上がるのがやっとだった。

 そして、部屋に案内されてその豪華すぎる内装にまたもや固まるのだった。



 自分でも初めて気が付いたというか、これまでの生活で経験がなかったために思い知らされた、俺の内心の庶民派と小心ぶり。

 居心地の悪い豪華すぎる部屋での豪華すぎる食事を経験し、これまたフカフカ過ぎるベッドで眠って目覚めた朝。

 とりあえず、凝る筈もない肩を回して身支度を整える。

 頼んでもいないのに、ちょうど測ったようなタイミングで朝食が運ばれてきた。

 昨日からの驚きの連続で少し慣れたのか、ほいほいっと朝食を頂いて、部屋にあった壁時計が9時丁度を指した時点で部屋を出て宿のロビーに下りる。

 ロビーでは満面の笑みの鉄次さんが待っていた。


 鉄次さんの後に続いて馬車に乗り込むと馬車は直ぐに走り出した。


「今日の予定ですが、昨日予定していた物と変更があります。

 まず、これから直ぐに王城に行って国王様に謁見していただきます。」


 と、馬車が走り出して直ぐに鉄次さんがまた爆弾を落とす。


「いきなり国王様と謁見ですか?

 昨日の予定では赤穂侯爵将軍様にお会いして、作戦を説明し、戦況の概要を聞いてから、将軍様と一緒に国王様にお会いする予定だったと思うのですが。」

「ええ、ですが、色々ありまして、作戦の説明等は国王様参加の御前会議にて行う事になりました。

 ですから、国王様に謁見後、そのまま、参列してくださる将軍様方と合同で会議となります。」


 …いきなりハードル高過ぎ。

 当初は国王様には事前に説明し同行してくださる赤穂将軍がお話してくださる予定だったのに、それが、御前会議とか…。

 それって、俺が直接、将軍様方がいらっしゃる中で国王様に説明するって事ですか?レベル高過ぎるだろう。

 そんな感じで、馬車の中で一人苦悩している間にも馬車はどんどん進みついに王城に着いた。



 王城はもちろん純和風の造りだった。

 見た目は姫路城みたいだなと思ったが、途中で姫路城よりも、大阪城って感じだと思う。

 なぜなら、その内装は昭和だったからだ。


 まず、その構造だが、外敵から身を守る為の構造は、門の前の大きな堀と石垣、そして城壁しかなかった。

 姫路城の様に入り口にたどり着くまでに迷路のような坂道を登る事も、矢が放たれる穴が開いている壁がある狭い道を通過する事もない。

 門を一歩はいると城の入り口まで一本道が伸びており、両側は手入れの行き届いた日本庭園だ。

 そして、城の内部に入ると、赤絨毯にシャンデリアのロビーで木の扉が並んでいた。


 俺はそんなロビーを鉄次さん先導のもと通り過ぎる。

 しばらく中央の廊下を歩くと、建物を通り抜け、渡り廊下を挟み別の建物の中に入る。

 先ほどの建物は、国王様を補佐する上級職の人々の仕事場で、ここからが国王様の普段いる建物らしい。

 つまり、今通り過ぎた所は、高級官僚がいつでも国王様に報告できるように詰めている役所で、もちろんそんな人達を補佐する人達も多く働いている場所だそうだ。

 鉄次さんも税務管理局のお偉いさんがここで働いている関係で良く来るそうだ。

 で、ここからは国王様の建物。つまり本丸か。


 ロビーは先ほどの建物と同じ様な作りだが、吹き抜けが半端なく、二階に上がる階段と、バルコニーがあった。

 そんなロビーをまたもや真っ直ぐに突き抜けて中央の廊下に進む。

 因みにここからは、衛士と思われる騎士(見た目は鎧を付けた足軽大将)に案内されている。

 しばらく廊下を進むと左右にひらけた空間に出た。

 ここで右側の空間で靴を脱いで壁一面に並んだ下駄箱の一角に靴を収納。

 奥にある障子しょうじから今度は板の並ぶ床の廊下を進む。

 先ほどの空間は玄関ホールみたいな役割らしい。

 ほどなくして廊下を右に折れ、広い階段を上り2階へ。

 またしばらく歩いてから3階に上がった。

 そして、階段から直ぐの部屋へ通される。

 そこは40畳ほどある畳の部屋だった。


 部屋の中ほどに正面に向かって2枚の座布団が置かれていて、左側の座布団に座らされた。

 鉄次さんは俺の右側に座る。

 正面には右側に、今俺が座っているのよりも明らかに豪華で厚い青色の座布団が6枚。

 左側にも右側と同じように厚い赤色の座布団が6枚並んでいた。

 心なしか、青色よりも赤色の方が豪華なように感じる。金の刺繍とか。


 そんな広い部屋で、しばらく2人共無言のまま待っていると、後ろでふすまが開く音がして1人の男性が入ってきた。

 その男性も俺と同じように和服の正装で腰には剣をぶら下げていた。

 剣をぶら下げている時点で、将軍様決定だろう。

 何せ、この本丸では帯剣できるのは国王様や王子様の他には将軍様だけだそうだから。

衛士も帯剣せずに槍を持っている。

 因みに俺は門を入る時点で門番に青龍を取られ…、預かられた。


 部屋に入って来た将軍様は俺を一瞥すると、右の座布団の正面から4番目の場所に腰を下ろした。

 それから少しの間に次々に将軍様がやってきて、右側の座布団を埋めていく。

 右側の座布団が埋まった時点でまた部屋は静かになった。

 将軍様達も、隣同士話し合ったりはせず、目礼だけで黙って座っている。


 右側の座布団がすべて埋まってからしばらくすると、また人の入ってくる気配がする。

 今度は明らかに家紋であろう物が入った正装を纏った男性が入ってきて左側の一番後ろの座布団に座った。

 注目すべきはその人物の後ろに控えながら一緒に入って来た人物だ。

 その人物は黒い背広を着ていて黒革のカバンを両手で持っていた。

 明らかに執事って雰囲気を醸し出している。

 その執事は、将軍の後ろの壁にぴったりと張り付いて立ったまま動かなくなった。

 その後も新たに左側に座る将軍様達が入って来たが、全員背広を着た執事を伴っていた。

 そして、入ってくる順番は右側の将軍様達と違って、入り口側の人から順に入ってきた。


 思うに、赤い座布団の将軍様は貴族様ではないだろうか。

 下座の人から順に入って来たのは、位の低い人から順番に入って来たという事だろう。

 という事は、青い座布団の将軍様は平民上がりの人達という事だ。

 互いに身分に上下がないなら、入ってくる順番は貴族様より先なら良いって事だろう。

 そう考えると、赤の座布団の一番上座に座っている将軍様がこの国で一番偉い将軍様である加賀様という事か。

 加賀様は侯爵第一等の貴族様である。

 で、二番目の方がゼノンの領主様でもある、赤穂侯爵将軍様だろう。


 そんなことを考えていると、『ドン。ドン』っと和太鼓の音が2回響く。

 将軍様方が一斉に正面の方を向きなおして、頭を下げた。

 俺は鉄次さんにならって、慌てて三つ指を着いて土下座をする。

 正面で襖の開く音がした。


「皆の者、参内ご苦労。面をあげて良いぞ。」


 多分国王様の声に恐る恐るゆっくりと顔をあげていった。

 国王様は口元に髭をはやした30代位の方で、意外に若いんだなと思った。

 ここにいる中では、俺と鉄次さん、それから平民の将軍様2人に次ぐ若さじゃないかな。俺以外は皆同い年位だが。

 加賀様を筆頭に貴族様3人と平民将軍の1人は明らかに60近くのお爺さんで、赤穂様を含め残り3人の貴族様も40代は確実なので、やはり国王様は若いのだろう。

 そんなどうでもいい事を考えてしばし現実逃避をしている間に、国王様と将軍様達の俺の品定めが済んだのか再び国王様が話し始めた。


「そなたが颯太殿でよいな。国境で砦を造れるという事だが、本当だな。」

「は、はい。多分、いや、必ず造ってごらん入れます。」


 なんだか、国王様と目を合わせ辛くなって、もう一度土下座しながら言う。


「そんなに畏まらなくて良いぞ。で、兵はいか程必要かな?」

「は、はい。一応二百名を考えております。」


 手はまだ畳についたままだが、顔をあげて国王様の胸元を見ながらそう返す。

 たしか、喉元付近を見て話すのが目上の人に対する礼儀だったような気がするのと、時代劇でそんな恰好で偉い人と話している姿が記憶に残っているからだ。

 両手を着いた状態なら、胸付近を見てしゃべるのが自然の様に感じる。


「に、二百名だと!」


 ここで、初めて俺と国王様以外の人物が声をあげる。

 話し出したのは、少し狼狽したような加賀様だ。


「そんな小兵で砦を造れる訳ないだろう。鷹ヶ城には二千もの敵兵が詰めているのだぞ。それをたった二百の兵で勝てるのか?」


 姿勢を正座に戻してから、ちらっと国王様を見ると小さくうなずかれたので、加賀様の問いに答える事にした。


「別に二千の敵兵に勝つもりはありません。砦を造るだけなら、二百の兵で十分ですと言っているのです。」

「っは、それはお笑いだ。では違う質問をしてやる。

 たった二百の兵でどうやって土方共を守るつもりだ。奴らは弓矢1本で逃げ出すような腰抜けなんだそ!」


 そう言って、加賀将軍は隣の鉄次さんを睨む。

 いやいや、一般人は普通弓矢が飛んで来れば逃げますって。

 そう思いながらも質問に答える。


「敵に見つかる前に、砦を造るつもりです。

 ですから大人数では目立つのでかえってダメです。少数で素早く造るつもりですので。」

「それはお笑いだ。あんな見晴らしの良い街道を敵に見つからずに資材を運ぶ方法があるものか。あっさりと襲撃されて終わりだ。」


 そう言って加賀将軍は大声で笑いだした。


「本当に可能なんだな。」


 横で大笑いしている将軍を少し横目で見た後、国王様が俺にそうおっしゃる。


「はい。勝算は十分にあります。」

「うむ、そこまで自信があるのなら、やって貰おう。

 国軍を二百そなたに貸し与える。存分に力を発揮してくれ。

 また、これまで何度も失敗しておるからな。失敗を気にせず頑張ってくれ。土方達はそこの軍務部の者が用意できるな。」

「は、はい。」


 突然国王様から話しかけられて、慌てて土下座をしながら鉄次さんが答える。


「うむ、では後は赤穂将軍と話し合ってくれ。赤穂将軍。その者を手助けしてやってくれ。」

「うけたまわりました。この者が力を発揮できるように全力を尽くします。」

「うむ。たのんだぞ。余はその者の自信が気に入った。任せる事にする。ではこれにて。」


 国王さまが話し終わると、全員が土下座をする。もちろん俺も慌ててそれに倣う。

 襖がしまる音がして、静かになった。


「ふん、ずいぶん国王様に好かれたもんだな。

 だが、俺様が三千の兵を使ってもできなかったんだ。たった二百の兵で出来るもんか。

 早々に泣きをみるだろう。だがな、失敗して生きて帰って来てみろ、この俺が直々に成敗してくれるわ。」

「加賀将軍。国王様は失敗してもおとがめなしとおっしゃったぞ。 それに将軍も失敗した時、国王様は将軍に罰を与えなかったではないか。」

「あれは腰抜けどもが砦を造らず逃げ出したから、仕方なしに転進したまでだ。」


 と、互いに睨みあう加賀将軍と赤穂将軍。場の雰囲気が一気に険しくなる。


「ふん、まあいいさ。お前が泣いて謝ってくるのを待っていてやる。」


 加賀将軍は捨て台詞を言うと、大股で俺を睨みながら部屋から出て行った。

 取り巻きと思わしき貴族将軍三人が直ぐ後を追う。

 それからしばらくして何処からともなくため息が聞こえてから、赤穂将軍以外の貴族将軍が出て行き、それに続いて平民将軍達も退室した。

 後には俺と鉄次さん。そして赤穂将軍と将軍の執事が残った。

 その赤穂将軍様がこちらに来てくださるので、二人で慌てて立ち上がる。


「お疲れかな、この後私の執務室で話し合いたいが、良いか。」

「もちろんです。よろしくお願いします。」


 腰を90度におって頭を下げながら言う。


「ふむ、そんなに畏まらなくていいぞ、颯太殿にはこれからいろいろやっかいになりそうだからな。」


 そう言って歩き出す赤穂将軍様の後を追って俺は部屋を出た。




 赤穂将軍の執務室は始めの建物の5階にあった。エレベータ等無いので、上がるのが大変そうだが、将軍くらいになるとほとんど部屋から出ないからあまり苦にならないらしい。

 将軍の執務室には窓を背にした執務机が一番奥にあり、入り口側に右手に応接セット、左手に多分執事用の机があり、左手の壁は一面本棚で右手の壁には椅子が並んでいた。

 その右手に並んでいる椅子2脚を執事さんが執務机の対面に並べて自分の机の所に下がった。

 赤穂様は何やら書類が積まれている執務机に着くと、俺たちにも座るように促した。俺はとりあえずさっきと同じように左側の椅子に座った。


「国王様に許可を貰ったので、颯太殿にはゼノンの街に詰めている国兵200名を指揮下に入れて貰おう。一応腕の立つ者を選ぶ予定だ。」

「ありがとうございます。」

「で、敵に気付かれないうちに砦を築くという事だったが、どういう作戦だね。」

「ええ、実はですね…」


 っと鉄次さんからもらった地図を出しながら説明していく。


「なるほど、面白いな。で、人員の配置はどうする。」

「はい、先発隊は比較的安全ですのが、敵の間者や魔獣等が出た場合を想定して弓兵10を含む兵20名と木こり10名大工10名の計40名を考えています。」

「なるほど、で、残りが本隊か。」

「いえ、兵は砦が完成する直前まで待機してもらうつもりです。人数が増えれば増えるだけ見つかる確率が上がりますので。

 なので、次発隊に弓兵10を含む兵30名と木こり5名大工5名の計40名とします。」

「では、次発隊はかなり危険だな。少数で敵の目の前で行動する事になる。」

「ええ、ですが、これ位の人数なら距離がありますので見つからないと思います。」

「なるほど、と言う事は総勢230名か。私が当初砦建設に失敗した時の10分の1の規模だな。だが、その作戦なら出来そうな気がするな。」

「ええ、あえて少人数での敵に見つかる前の砦建設です。」

「うむ。」

「後、砦が完成したあかつきには後詰をお願いします。」

「うむ。完成の早馬が到着したら、私自ら私兵の騎士隊を率いて出向こう。

 しかし良いのか?完成したら砦を私に譲渡するなど。」

「ええ、基盤の無い私では砦を維持する事は出来ません。

 それに、砦建設予定地は赤穂様の所領ですし、元々戦線を国境まで押し上げるのが目的ですので問題ありません。」

「そうか、ではありがたく。」


 とそんな感じで作戦会議?は途中で昼食を挟みつつ進み、細かい調整をしていく。

 途中で鉄次さんは大工さん達の手配の為に退室し、赤穂様も何度か部下を出入りさせて必要事項を指示していく。

 夕方には細かい打ち合わせも終わり、俺は赤穂様が用意してくださった馬車で今朝出てきた宿に戻った。

 そして、また、今朝と同じ豪華すぎる部屋で恐縮する。

 俺ってこんなに小物だったんだなっと思いながらフカフカ過ぎるベットで眠りについた。


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