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将軍?なにそれ、おいしいの?

 季節は田畑の稲や麦の収穫が済んだ晩秋。

 まだまだ山には秋の恵みが残っており、村人たちも山へその恵みを探しに入っていた。

 俺はドクトルさんの鍛冶場で、左衛門さん達数人の村人達にふいごの原理と構造を教えながら、新たにもう一つ作成していた。




 夏の初めに港町ヅルカで桟橋を作ってからは、特に大きな依頼はなく、俺はほとんどジジカ村から出ることなく過ごしていた。

 その間にした事とは、余材で作ったためにあまり良い出来ではなかった水車の改装位である。

 この際は、村長の許可が出たので、本来は売り物の木材もふんだんに使って、さらに、木こりさんや左衛門さんの手を借りて改装した。

 結果今ではかなり立派な水車になっていた。

 そして、この改装の際、左衛門さんをはじめ村人数人に水車の原理を説明して彼らにも水車が作れるようにした。

 そのため、現在村人数人が水車を作る事が出来る様になった。

 これは、いずれ俺がこの村を出てもこの村周辺の水車をメンテナンス出来るようにと考えたためだ。


 なぜこの村を出る事になりそうかというと、やはりヅルカでの件が大きいだろう。

 あれだけの物を造ったので結構有名になっているらしい。

 そして、今回の村の収穫量だ。

 もともと稲が麦よりも収穫量が多いという事で水路を作ったのだが、まさか収穫量が倍になるとは思ってもみなかった。

 この原因として考えられるのは、毎年麦を作っていた為に、土壌が痩せていて麦の収穫量が実際よりも減っていた。

 または、俺がいた世界よりももっと稲と麦との収穫量に差があった等が考えられる。が、本当の所は解らない。

 ただ言えるのは、今回の件でおそらく皇国中央、皇都の役人達の間でも俺の事が話題になるだろうという事だ。

 なにせ納税分も倍になったのだから。

 税を徴収に来た役人もかなり驚いていた。

 なので近々何らかのお呼び出しが掛かり、この村を出る日が来るだろう。そういう判断だ。

 だから、今回左衛門さん達に水車だけでなく、ドクトルさんの所のふいごについても説明して同じものを作っているのだ。



 水車技術の伝手以外には剣術の訓練も行っていた。

 講師はドクトルさんと又五郎さんだ。

 剣術の訓練に関してはレッドウルフ討伐の経験からだ。初めてレッドウルフと戦った時は正直何もできなかった。

 その事が尾を引いていて、ドクトルさんに相談したのだ。

 ドクトルさんは「『アイアンクロー』を見事倒したではないか」と初めは何故今更的な感じだったが、「魔獣のいない所から来たので戦い方が分からない」と説得。

 又五郎さんともども訓練をしてくれる事となった。


 初めはドクトルさんや又五郎さんと木刀(と言う名の削った木の枝)で打ち合っていたのだが、対人戦では剣道のおかげかドクトルさんにも又五郎さんにも教える事はないと言われた。

 なので、それからは魔物の知識を教えられて、一人山に登るという日が続いた。

 初めはレッドウルフに囲まれて方々の手で逃げ帰っていたが、夏の終わりごろには5頭の集団に追われても倒せるようになった。

 これは、対戦に青龍1本で戦うというのではなくて、魔法も織り交ぜた戦術に切り替えた結果だ。

 具体的に言えば、ただ、レッドウルフのファイヤーボールを魔法で作った土壁で防ぐだけの話だが…

 その他にも、ぬかるみを岩に変えるなどしての足場の確保や落とし穴なども覚えた。

 しかし地面から先の尖った円錐を出して突き刺そうとしたのは避けられて失敗した。

 なんでも魔獣は魔力の流れに敏感で、そうした攻撃は察知されるそうだ。

 なので、魔獣以外の一般の動物、たとえばウサギや鹿(俺が知っている動物とは名前は一緒だが微妙に形が違った。)などには通じた。



 ふいごの製作が終わり、一同と談笑をしていると、子供が1人駆け込んできた。


「颯太にいちゃんはいるかい!」


 駆け込んできた子供は入って早々そう大声で叫ぶ。

 その子は確か村で見たことがある。名前は何だっけかな…


「佐助じゃないか。どうしたそんなに慌てて。」


 駆け込んできた子を見て左衛門さんが言う。

 そうそう、名前は佐助だ。って左衛門さんの息子じゃないか。


「お父ちゃん、村長さんに頼まれたんだ。! 颯太にいちゃん!そこにいたのか。村長さんが急いで戻って来てくれって。」


 そんなことを思っていると、佐助くんが俺を見つけてそう叫ぶ。

 どうやら佐助くんは村長さんに俺が戻るようにと伝言を頼まれたようだ。

 詳しい事情を聴こうにも佐助くんは「早く早く」としか言わないので、とりあえず駆け足程度の走り方で村長さんの家に向った。



 村長さんの家の前には大きな馬車が止まっていた。

 前に唐助さんが来たときに乗っていた馬車の様に箱型だが、サイズが一回り大きくて馬も2頭立てだ。

 そして、その馬車は大きさもさることながら造りが『ゴッつ』かった。

 どう『ゴッつい』のかというと、まず馬車全体が一つの長方形型で、デザイン完全無視の効率堅牢型とでもいう風な感じである。

 車輪も大きくて馬車全体の高さの3分の2はある大きさである。

 窓も堅牢な窓枠の控えめなものが片面に2つついているだけである。

 そして、その馬車をひいている馬は明らかにこれまで見た馬よりも巨大だ。

 前の世界でのサラブレッド等ではなく、北海道の輓馬ばんばだったか、巨大なそりを引く馬の様な感じである。

 そんな馬車が村長さんの家の前に止まっているのだから、村長さんの家が小さく見えてしまう。

 因みに御者台には御者が2人乗っていた。



 家の中に入ると、居間に村長さんも弥々子さんも並んで座っていて、その対面、上座に1人の男性がやけに正しい姿勢で正座してお茶を飲んでいた。


「ただいま戻りました。」


 とりあえず声を掛けて家の中に入る。


「おお、帰ったか。さ、早くこちらへ。」


 村長さんがやっと来たかと、緊張したような顔でそう言って手招きする。

 とりあえず居間に上がって、座布団が用意されていた村長さんの隣で、客人の正面に来るように座った。

 弥々子さんは村長さんよりも一歩下がった入り口付近に待機するような格好で座っている。


「君が颯太さんですか。たしかに、背格好は今川男爵のおっしゃったとおりだ。」


 今川男爵って港町ヅルカに居を構えているここいら一体の領主様で、ヅルカで桟橋を造るのを頼んできた方だ。

 そんな偉い人とこの人は普通に話せるくらい偉いという事か。

 でも、あまり偉そうによそおってないのは好感が持てるな。

 てか、もう背格好まで伝わる位うわさが広がっているのか?

 そう思いつつ、頷いて肯定する。


「話によると、颯太さんは黄色魔法が使えて、それにかなり土方に詳しいそうですな。」

「土方に詳しいかどうかは判断しかねますが、黄色魔法は使えます。」

「そうですか。まず私ですが、皇都の税務管理局で働いておりまして、所属は軍務部調達課です。一応課長をやらせてもらってます、丹葉鉄次と言います。」

「税務管理局、軍務部調達課ですか?」

「はいそうです。」

「税務管理局と言うのは国が集めた税金を管理する役所だ。」


 と、ここでどういう施設なのかよくわかっていなかった俺に村長のフォローが入る。

 てか、村長さんが緊張しているのは、国家公務員のお偉いさんが来たって理由っぽい。


「ええそうです。私はそこで主に国立騎士団や国軍が要求する武器、食料といった様々な生活必需品等から城の建設の様な事までを、必要か精査し、必要と思われるものを購入して軍に届けるという仕事をしています。

 まあ、実際は軍が要求する物を何とか税をやりくりして購入してくると言う下働きみたいな物ですがね。」


 なるほど、つまり、軍隊の経理兼補給部隊って感じか。


「でですね。今回は颯太さんに半分私用の様なお願いがあって参ったのです。」

「お願いですか?依頼ではなくて。それも半分私用?」

「ええ、そうです。半分私用のお願いです。ですから、無理だと判断されれば断って貰って一向に構いませんので。」

「そうですか。まずはお話を聞かせて貰えますか。」


 頭にハテナマークを出しつつもとりあえず話を聞くことにする。


「はい、ですがここから先は軍秘とも関わってきますので、おふた方はご遠慮願えますか。」


 そう言って、丹葉さんが村長さん達の方を見る。


「わ、わかりました。」


 村長さんと弥々子さんが慌てて居間を出て行き、(ふすま)を閉める。


「ところで、颯太さんは今我が皇国が戦争をしているのをご存じですか?」

「戦争ですか?帝国と小競り合いをしていると聞いたことはありますが。」

「そうですね、帝国、正しくはボログロフス帝国と北西部で戦っています。

 初めは確かに国境での小競り合い程度だったのですが、最近はもう侯爵の私兵では対応できずに国軍が出ています。

 この前は加賀将軍率いる国立騎士団も敗退しました。」

「敗退って、国土を奪われたのですか?」

「いいえ、なんとか最前線の村は防衛できています。危うい所でしたが。」

「そうですか。」

「はい。で、お願いというのは颯太さんに砦を造って貰いたいのです。」

「砦ですか。」

「そうです。砦です。先ほども説明したように、現在の最前線は国境のこちら側、赤穂領カーラシア村です。」


 丹葉さんは傍に置いてあったカバンから地図を取り出しながら説明してくれる。


「この最前線を何とか国境側に押し返したいとして、ここ、国境に近い街道沿いに砦を造る事を皇王がお決めになったのです。

 たしかに、住民のいる村を最前線にするには犠牲や障害が大きく、専用の砦を国境近くに築くのは戦略戦術共に良案という事で、砦の建設が始まったのですが、問題はここです。」


 と言って、丹葉さんは国境の向こう側、帝国領の山である『古鷹山』とその横に『鷹ヶ城』と書かれた▲を指す。


「ここには帝国の堅城がありまして、しかも砦の建設予定地よりも高所であるため、砦を建設しようと資材を運び込むとすかさず攻撃してきて、建設する前に敗走してしまうのです。

 前回も、加賀将軍が国立騎士団3000名を率いて敵の攻撃を防ごうとしたのですが、すべての攻撃を防ぎきれず、一部土方等建設作業員、非戦闘員に被害が出て、建設作業員が敗走。

 建設が不能となった国立騎士団もまた転進という事態に陥りました。」


 なるほど、まあ、敵にしてみればこちらの砦建設を見逃すはずはないわな。

 それに、砦の建設を妨害するのなら、騎士よりも非戦闘員を狙うのは当たり前だ。

 まあ、丹葉さんは転進と言ったが、目的を達成できないなら敗走と言ってもいい状態だったのだろう。


「それに、今回の事案で、砦を建設できないのは土方達建設作業員が弱腰だからだと加賀様のお怒りが私達にも向けられまして。大変難儀している所でして。」


 まあ、将軍とやらからすればそういう発想になるのかもしれないが、民間人に戦争から逃げるなとは無茶な意見だ。


「それで、私に砦を造れと。」

「ええ、そうお願いしに来たしだいです。

 あ、これは何も私個人の意見だけではありませんで。

 先日加賀様の建設失敗を受けまして、皇王様自らが『広く在野から人材を集める。』とおっしゃられて、砦を建設した者は将軍職を与えて貰えるそうです。

 それから、砦を建設した者を見つけてきた者にもそれ相応の恩賞も賜ると。

 後者の事もありまして、半分私用と先ほど言った訳でありまして。」

「そうですか。

 所で、砦を建設した者を将軍にするって事は、私が誰か将軍の率いる騎士団に付いて行って、砦の建設を手伝うと言うのではなく、直接私が兵を率いて砦を建設すると言う事ですか?」

「ええ、そうなります。率いる兵についても、赤穂将軍が、赤穂将軍所属の国軍から融通すると公言なさってます。

 もちろん、それが無理だと言うのなら、赤穂将軍や何人かの将軍様達に話を持っていけば、先ほど言われた様に将軍様の率いる騎士団に付いて行って、砦の建設を手伝うという事も可能と思われますが。」


 なるほど、なるほど、俺が直接兵を率いて良いのか。これは腕がなる。

 仮にも士官候補生に志願するほどの俺である。兵を率いれるとは血が騒ぐ。


「いえ、私自らが兵をひきいて砦を建設いたしましょう。」

「本当ですか。建設できるのですか。」

「ええ、良い作戦がありますので、自信があります。必ずや砦を立てて丹葉さんにも恩賞を貰って貰いましょう。」

「そんなに自信が。これは良い意味で驚きました。

 では早速皇都まで一緒に参りましょう。それから私の事は鉄次と及び下さい。丹葉さんなんて他人行儀な。」

「わかりました。では、鉄次さんと呼ばせて頂きます。出発については少し待ってください。準備がありますので。」

「そうですね、下着などの生活必需品はこちらで用意できますので、身一つで構いません。

 なのでなるべく急いでください。事は一刻を争いますので。」

「わかりました。」

「いや、まさか颯太さんここまでの人とは思いませんでした。私もなんだか興奮してきましたよ。」


 とここで話を打ち切って、さっそく準備に掛かる。

 と言っても、着替えさえも必要ないと言う事なので、替えがきかない青龍とその他お気に入りの物など数点を袋に詰めて準備完了である。

 準備が済んで家の前に出ると、かなりの数の村人が集まっていた。その中でも村長さんと弥々子さんには


「皇都で軍務関係の仕事を頼まれた。出世して帰ってくる。」


 と当たり障りのない説明をして少し時間を掛けて別れの言葉を紡ぐ。

 その他にも、ドクトルさんやリンさん、左衛門さんや又五郎さんにも、お礼と別れの挨拶をして、最後に弥々子さんから特製巨大おにぎりを自分の分と鉄次さんと御者さん二人の分を受け取って馬車に乗り込んだ。

 馬車は俺が乗り込むと直ぐに出発して、夜のとばりが迫る中、かなりの速力で走り始めた。

 結構揺れる車内で、俺は興奮した感じで何やら自分の身の上を語る鉄次さんの話を、話半分で聞きながら鉄次さんが持ってきた国境周辺の地図を見ながら作戦を思い出していた。

 地図を見れば見るほど、あの作戦がはまりそうでならない。そう、史上有名なあの作戦が。


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