プロローグ、異世界初日
初めての投稿です。至らないところがありますが、どうぞよろしく。
「ここは何処だ?……」
漫画ではよくある話だが見覚えのない天井である。
胸元を見ると、布団が掛けられていた。今ではあまり見かけなくなった、綿の布団だ。自分の家で使っていた羽毛布団に比べてかなり重い。
そういえば、この天井も田舎の日本家屋みたいな木の梁がむき出しだ。
手を布団から出して軽く開いたり閉じたりしてみる。別に何ともない。体で痛いところもないようだ。
「気がついたかい。」
横から、女の人が顔をのぞかせる。おばさんだ。特別きれいなマダムとかじゃなく、田舎に暮らしている普通のおばさん。
ただ、着物を着ているみたいだ。映画やドラマとかでお百姓さんが着ているようなアレだ。
「怪我はないようだけど、あんな事があったんだ、しばらく寝てな。夕食には起してやるから。」
そういうとおばさんは隣の部屋に行ってしまった。
よく考えろ俺。どうしてこうなった?
たしか、俺は実弾射撃訓練をしていたはずだ。
そうだ、演習場でドラゴン対戦車ミサイルを撃つように教官に言われて、教えられた通り、それこそ教科書通りに装てんして、引き金を引いたはず。
ミスはなかったはずだ。教官にも止められずに発射までいったんだ。
なのに……そう、なのに爆発した。肩に担いだミサイルが頭のすぐ隣で…
そうか、死んだのか俺。ということは、ここは天国…にも地獄にも見えないな…ということは、これがうわさに聞く死後の世界。転生かな。
一応言葉も通じるから日本か。田舎に来たのかな?それとも時代をさかのぼった?
いやいや、時代をさかのぼるのは、過去で自分の親を殺したら自分はどうなる?というお決まりの問題が発生するから、ここはパラレルワールドつまり違う次元の世界の可能性が高い。
つまり異世界。何はともあれ、死んだ自分がこうして過去の記憶を持ったまま、生き返ったんだ。これはこれで良しとしよう。
でも、おしかったなぁ。やっと辛い候補生学校が終わって3等陸尉目前だったのに。
そういえば、死んだ俺の部屋のベットの下に隠していたエロ本コレクション。親に見つかったな…お母さん悲しむかな…
などと馬鹿なことを考えていると、さっきのおばさんが襖を開けてこちらにやってきた。どこまでも日本家屋だ。
「夕飯ができたけど、立てるかい?」
そう言って横に座る。もちろん正座だ。
右手をついて起き上がってみる。すんなりと上体を起こせた。
続いて立ちあがってみる。なんの問題もなく立てた。
「大丈夫みたいだね。付いて来な。」
そう言って、隣の部屋に移動する。
部屋にはちゃぶ台に座布団。そして、夕飯とおじさんがいた。
「おお、大丈夫そうだな。聞きたい事が山ほどあるがまずは飯だ。」
そう言って座るように合図する。
おばさんも座ったのでそれにつられておじさんの前に座る。
料理は魚の焼いたの(なんの魚か分からん。あゆみたいだが…そもそも魚の種類なんて詳しくないし…)とほうれん草のおひたし、味噌汁とごはん(麦飯なのか少し茶色い)と絵にかいたような日本食だ。
「何をしている、遠慮なく食べろよ。」
おじさんが、魚にかぶりつきながらそう言ってくる。
「いただきます。」
そう言って俺も食べ始めた。
食べてみて気がついたが、見た目は日本食でも、味は少し違った。
ほうれん草のおひたしはほうれん草ではなく、ちがう野菜(何かは分からないが…)だったし、味噌汁も塩が入っていない気の抜けたような味だった。
でも、魚は苦みや臭みが一切なくてうまかった。
夕食が一息ついたところでおじさんが話しかけてくる。
「で、どうしてあんな所にいたんだ?」
「あんな所とは?」
「ドクトルさんの装填場だよ、覚えてないのかい?リンが魔力を入れすぎて赤魔晶石が暴発してね。
そういう事があるから、装填場の周りは立ち入り禁止だし、ドクトルさんが事前に見回った時には君はいなかったそうじゃないか。
どうやって装填場に入ったのだい?」
「あの、どうといわれても…」
「まあまあ、あなた、まだ名前も名乗らない内からそう焦っても仕方ありませんわ、まだ、彼も起きたばかりで混乱しているようですし。」
「むう、そうだった。これは失礼。私はこのジジカ村の村長をしている辰太郎だ。」
「私は妻の弥々子といいます。」
「あ、俺じゃなかった、私は五十嵐颯太です。」
「五十嵐?名字持ちとは…何処かの貴族様で?」
「あ、いえ、平民です。すいません。颯太でお願いします。」
「おやまあ、何か事情がおありのようですね。」
そう言って笑うおばさんもとい、弥々子さん。
なんか誤解された?ここでは名字は貴族だけの称号か。
江戸時代なのかな。でも、見た感じちゃぶ台とかあるし、昭和初期って感じだけどな。
「あの、それでさっきの話なんですけれど、何が起こったのか話してみてくれませんか?なんかだか、私の記憶とは違うみたいなので…」
「さっきの話って、颯太さんを巻き込んだ事故の事かい?」
「いえ、それもありますが、私を見つけたときの話です。」
「ふむふむ。さっきも言ったがドクトルさんの装填所でリンが赤魔晶石に魔力を装填している時に、暴発が起こって装填所が爆発したんだ。
幸いドクトルさんとリンは暴発する兆しがあったんで慌てて退避して無事だったが、崩れた壁の下に君がいるのを見つけて、慌ててここに運び込んだって感じだが。」
「そうですか…」
「君の記憶とは?」
「私の記憶では、射撃場で対戦車ミサイルを発射する訓練をしていて、そのミサイルが暴発して気を失ったんです。」
「みさいる?何だいそりゃ?」
「やっぱり分かりませんか…どうやら私はこの世界とは違う世界から偶然迷い込んでしまったみたいです。」
「偶然迷い込んだって、あんたサウザンエメラシー皇国の人間ではないのかい?」
「母さん、そうじゃない。どうやらもっともっと遠い所から来たみたいだ。」
「もっと遠い所って何処だい?エタミヤ大陸の外って事かい?」
「もっと遠くだよ。昔古い文献で突然現れた人について書かれた本を見た事がある。いわゆる神隠しの逆さまだ。」
「つまり、颯太さんは何処かで神隠しにあってここに飛ばされたって事かい。」
「まあ、そんな感じだ。」
「そんな話、本の虫のあんた意外に誰が信じるんだい?」
「信じないだろうね、本の虫の女房以外には。」
「だろうね、とりあえず颯太さん。つまり、颯太さんは行くところもなければ帰れないってことだろう。」
「はい、おそらく帰れないでしょう。それに…はい、行く所もありません。」
「だったら、しばらくここに居たらどうだい。ねえあんた。」
「そうだな。残念ながら、神隠しにあった人が戻ってきた記録はないからな。それに、こんな話は誰も信じないだろうし。しばらくここにいなさい。
私達も息子たちが全員独り立ちしてゼノンの街に行ってしまって寂しかったのでな。何ならずっとここに居てもいいぞ。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
「うんうん、じゃ私は片づけがあるから失礼するよ。お風呂の用意ができたら呼びに来てあげるから。」
そう言って弥々子さんは食器を持って出て行ってしまった。
「ところで、ここは颯太さんが居た世界とはだいぶ違うようだが、まず何から知りたい?私は君の世界の事を知らないから、君から質問したほうが良いだろう。」
「そうですね…」
そう言ってあたりをキョロキョロと見渡してみる。
すると、居間なのにテレビもラジオも時計さえない。なのに電球はあった。 そこから伸びるコードはなかったが…
「この電球、電気ですよね?」
「でんき?」
なんか、予想とリアクションが違う…
「あの、これどうやって光ってるんですか?」
「ああ、白の魔晶石に魔力を込めて光らせているが…」
「魔力?魔力ってあれですよね、魔法を使う時にいる力」
「ああ、その通りだよ。魔法を使えるかどうかはその人の能力次第だがね。」
「魔力があっても魔法を使えない事があるんですか?」
「人間はそうだね、ほとんどの人間は魔力はあるが、魔法を使いこなせるのは半分くらいかな?
もっとも、強力な魔法を使える人間は少ないがね。」
いきなり頭が混乱してきた…つまり、この世界には魔法があるらしい。しかも一般的に。でもって、人間は普通魔力があると…
「私にも魔力があるんでしょうか?」
「そりゃあるだろ、あんた人間だろ?」
「人間ですが…って人間以外の人もいるんですが?」
もしかして、魔法があればファンタジーの世界みたいにエルフとかもいる?
「颯太の世界にはいなかったのか?ドワーフとかエルフとかビースターとか。」
「はい、人間以外はいませんでした。あと、魔法もありませんでした。」
「なるほど、だからランプに驚いたのか、どうだい、夜でも明るいって不思議だろう?」
「あ、いえ、私の世界では科学技術が発達して………」
と、結局弥々子さんが呼びに来るまでずっと村長さんにこの世界について教えてもらっていた。
どうやらこの世界は、魔法がかなり発達していて科学はほとんど発達していないらしい。
また、この世界には、人間の他にドワーフとエルフとビースターという、知的生命体がいて、ドワーフとビースターは魔力がないそうだ。
その代わり、ドワーフは力があるのに手先が器用で物づくりの才があるそうだ。
ビースターは他の種族に比べて身体能力が桁違いにいいそうだ。
エルフは逆に魔力が強力で魔法が得意だが、身体能力が弱いらしい。
人間はと言うと、良くいえば何でもそこそこできるが、悪く言えば中途半端らしい。
先ほど出てきたドクトルさんはドワーフでリンさんはエルフらしい。
そして、鍛冶屋で働くドクトルさんがその鍛冶屋で燃料として使う赤魔晶石に見習い魔法使いのリンさんに魔力を注入してもらっていて暴発が起こったらしい。
そして、魔法には、赤、青、黄色、緑、白の五種類があって、それぞれ、火、水、土、風、光の能力があるらしい。
また、それぞれに対する魔晶石があって、その魔晶石を使えば、魔力やその属性の能力がなくてもある程度その魔法が使えるらしい。
現に、村長さんは魔力はあるが魔法は使えないらしい。弥々子さんは青魔法が少し使えるそうだ。
「魔法の事は弥々子に聞くと言い。私は良く分からないからね。」
「はい、そうさせて頂きます。」
「なんだい、魔法の話かい?」
「ああ、弥々子、颯太さんが元いた所は魔法がなかったそうなんだ、だから後で少し教えてやってくれないかい。」
「ええ、いいですよ。じゃあ、お風呂に入ってから教えてあげようかね。」
「はい、ありがとうございます。おねがいします。」
そう言って、弥々子さんについてお風呂場まで連れて行ってもらう。
お風呂はやっぱり昭和初期のような薪釜風呂だった。薪は灌木や木材を作るときの余材を使っているそうだ。
お風呂に入っていてふと気がついた事がある。
なんで、言葉が通じるんだ?
俺は普通に日本語でしゃべっていた。でも、村長さんたちには通じた。しかも、村長さんの言っている事も分かる。
という事は村長さんも日本語を話しているのか?上がったら聞いてみよう。
で、上がったら聞いてみた。やっぱり、言葉は普通に通じるそうだ。
ただし、今話している言葉は、エタミヤ大陸の南東部の人間種が話す言葉でここ、サウザンエメラシー皇国では、ほぼすべての人間種と少数のエルフ、ドワーフに話せる者がいるそうだ。
では、公用語はと聞くと、エタミヤ大陸全土で通じる言葉を村長が話してくれた。
それは、まぎれもなく英語だった。
仮にも、士官にまでなった俺の事だから、英語は堪能だ。
というより、士官候補生学校で、無理やり教え込まれた。
木の棒で叩かれながら教え込まれて英語が堪能にならないはずがない。と、少しブルーな思い出を思い起こして憂鬱な気分になる。
そういえば、日本語や英語があるのなら、ほかに、ドイツ語やフランス語もあるのかな?と思ってみたりもする。
村長さんと弥々子さんがお風呂からあがって、魔法の勉強が始まった。
「まず、あなたの魔法特性を調べますね。」
弥々子さんが、奇麗な石が5つ並べられた紙を前にそう宣言した。
紙は少し茶色がかった和紙の様な物だ。そこに、五角形の星が描かれていて、その頂点にそれぞれ白を頂点に、緑、青、赤、黄色と時計回りに少し透明がかった奇麗な石が並べてあった。
「じゃあ、この星の中心に向かって魔力を注入して。」
さらっと弥々子さんが言う。
「魔力を注入って…どうするんですか?」
「えっとね、体の中にあるエネルギーを手の平から押し出す様な感じ。」
体内のエネルギーって事は生命エネルギーや「気」みたいなものか。
たしか、大学のころ、面白半分で友達に太極拳を教えてもらった時になんかそんな物を感じたような。
で、そんな感じでやってみた。すると、お腹というか、胸?胴体から、両手に向かってざわざわとした感覚が移動するのが分かった。
そして、その感覚は、紙にかざした両手の平に集まった後、すうっと紙に向かって吸い込まれていくような感じになった。
その次の瞬間紙に書かれた星の左側、丁度星の手の部分に当たる黄色の石が輝き始めた。
「おや、珍しいね。黄色だけが光ったよ。しかも結構強く光ってるね。」
「黄色魔法は珍しいんですか?」
「珍しいね。普通、人間は青か赤、エルフは白って決まっているのさ。
それでね、たまに一つの石が強く光るとその隣の石や対角線の石が、淡く光るときがある。そういう時に緑や黄色が光るもんなんだよ。
だから、黄色だけが強く光るのは大変珍しいね。」
つまり、青魔法が強く使える人はその隣にある緑魔法か対角線にある、黄色魔法が使える時があるということらしい。
「じゃあ、僕の場合黄色だから、土の魔法が使えるって事ですか?」
「そういうことだね。」
「じゃあ、早速教えてもらえませんか?」
「うん、黄色魔法は実際私は見た事がないんだけどね。
黄色魔法はね、土を操って、石を崩したり、砂を固めたりできるらしい。
実際にやってみて貰って練習してもいいけど、今日はもう遅いから明日の朝にしようか。」
そう言われて気づいたら、もう結構遅い時間のようだ。時計がないから分からないが外はかなり真っ暗。というか完全な暗闇になっていた。
夕食からの時間を考えると12時近くになっているはずだ。
話に夢中になりすぎて、時間が経つのを忘れていた。今日は、もうこの辺で切り上げて明日に回すことにした。起きた時と同じ綿の布団で寝る。
そういえば、今まで違和感がなかったのだが、俺、浴衣着ている。お風呂上がりも用意されていた物をそのまま着たのだが俺の服どうなったんだろう。
などと、つまらない事を考えていたらいつの間にか眠っていた。今日は1日色々な事があったから、疲れていたのだろう。