5、実感
「今頃、あの人が祝辞を言ってる時間かな……」
不意に零れた親友からの言葉に、氷多は意思の強さを感じさせる眉を思い切り不機嫌そうに顰めた。
「あ?」
「あ……ごめん、なんとなく、思っただけなんだけど……」
「なんとなくでも止めろ、あいつを思い出させるようなことを言うのは」
「氷多、」
「だってそうだろうが?あいつは、あいつはお前のことを……!」
その時のことを思い出したのか、氷多がぎりりっと拳を握り締めた。悔しげに顔を歪め、俯く。
「氷多、」
「直だって怖かったろ、辛かったろ!実の、しかも双子の兄貴にあんな…、あんな……!!」
「氷多、ごめん。もう、あの人の話はしないから……」
途直は透明な笑みを浮かべて握り締めた氷多の拳を取り、優しい手付きで指を開いていく。
「だから、そんな顔しないで……氷多は少し不遜なくらいが丁度良いんだから」
「―――不遜で悪かったな…」
氷多の顔が、途端に苦虫を噛み潰したような顔になる。
「それが良いんだよ。氷多はそうじゃなきゃね」
「うるせぇ!何回も繰り返すなっ」
ふふふ、と小さく微笑みながら、途直は自分がどれだけ目の前の存在に救われているかを実感していた。