3、キス?
どこが大丈夫、だ。
「―――――」
途直の歩行は完全にふらふらで、片時も目を離したり出来ない程。
なのに途直は肩を貸そうとする氷多の手から、身を捩って逃げる。
「おい、直」
「…本当に、大丈夫だから」
「どこがだ!ンなふらふらな体で!」
思わず彼の細い腕を鷲掴みにすれば、感情のこもらない二対の冷えきった瞳がこちらを見返して来た。
「―――」
だが氷多は怯まない。彼をぐっと引き寄せると、いきなり彼の唇を自分のそれで塞いだ。
「っ!」
途直は身動ぎして逃れようとするが、氷多の力は強くて抗えない。
「ひょ、」
一瞬唇が離れるものの、すぐにまた塞がれる。今度は口内に舌が入り込んで来た。
「んっ、んん……!」
氷多の唾液と一緒に、何か苦味のある液体も途直の口に入った。
『薬』の味だった。
「はあっ……」
ようやく氷多から解放され、途直は大きく息を吐き出した。酸欠になるかと思った。
「常備薬。朝飲んでないだろ」
「だっ、だからって、こんな…とこで、」
「今更照れるなよ。つうか、お前がちゃんと薬を呑めば済むハナシだろうが。それにお前、固形で渡しても呑まないだろ」
「そ、それは……でも、だからって口移しとか――それに、最初のは、た、ただのき、キスだった…」
途直のこれ以上ない動揺っぷりに、氷多は苦笑を隠せない。
(普段からこんな感じなら、もっと生きやすくなるんだろうにな……)
「キスなんて、子どものときにはよくしてたじゃねぇか」
「!そ、それは昔のことでしょ…!」
薬のお陰か、途直の体調はどうにか持ち直したようだ。
(効きすぎではあるがな……あの婆さん、一体どんな薬を作ってンのか……)
「直、行くぞ」
「わ、わかってるよ」
今度は氷多が先行するような形で、二人は再び歩き出したのだった。