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マウンド。   作者:
9/15

第九話

翌日の朝、祐咲は多少緊張しながら教室のドアを開けた。

祐咲に生徒達の視線が集中する。一瞬ざゎめき、すぐに水を打ったように静まった。

誰もがどう接するべきかと悩んでいることが、手に取るように分かった。

深く息を吸って、

「おはよう!」

大きな声でクラス中に響き渡るように言った。

出来る限り、明るく爽やかに聞こえるように。

「お、はよう。」

「おはよう・・・」

「やだなー!皆何でそんな暗い顔してんの?あ、慎のこと?あたしなら大丈夫だよぉ!?

 落ち込んでたって何も始まらないし!!平気、平気!四日も休んじゃってごめんねー?

 あ、昨日は来てたんだけどさ。部活だけ」

努めて笑顔で、明るく。皆拍子抜けしたように立ち尽くした。

「ち、祐咲・・・ほんとに大丈夫・・・?」

同じクラスであり、大親友の恵が恐る恐る声をかけてきた。

「大丈夫だって!恵、ごめんね?メールも電話も返さなくってー」

恵はその明るすぎる態度に何か思ったようだったが、何も言わなかった。

良かった、心配したんだよ、と笑った。

ごめんねー、と笑顔で返す。

その様子を遠巻きに見ていたクラスメートたちも、いつもの朝の日常に戻っていった。

「祐咲、もうすぐテストだって分かってるの?4日も授業受けてなくて大丈夫?」

「・・・分かってるよ。大丈夫じゃないけど、ほら、そこは恵サンの素晴らしいノートを見せてもらおうと思って」

恵はのほほんとしていて、ぼけっとしているが、成績は学年三位という秀才なのだ。

「そう言うと思って。はい、ノートのコピー」

呆れた顔をして恵は祐咲に束になったコピーを渡した。

「さすが恵!!ありがとう!助かります!」

顔の前で両手を合わせて頭を下げた。恵が笑う。

周りの生徒も笑う。

今までと何も変わらない日常。祐咲も、クラスメイト達も、それを望んだ。

チャイムが鳴り、担任が教室に現れるとざわついていた教室は静まった。

担任の新堂は祐咲に気付くと、目だけで微笑んで言った。

「安藤、やっと来たのかー。全く、テスト前に休むなんてよほど自信があるんだな。期待してるぞ」

期待されても困る。今回のテストは、いつも以上に悪い自信ならあるが。

あはは、と渇いた声で苦笑した。

新堂は祐咲の欠席についてそれ以上触れなかった。テストの話をして終わりにしたのだ。

ここにも、優しい人がいる。

テストまであと十日だ。授業を受けていなかった分、本気でやらないと少々危ない。

けれど、部活が休みになるのは一週間前からだ。

恵に家庭教師を頼もうか、と考えたが止めた。

一度頼んで酷い目に合っている。恵は、勉強を教えるときは有り得ないほどスパルタなのだ。

強豪チームのコーチのように。女性だが。

とにかく、人格が変わる。少しでも間違えれば罵声が飛び、手をピシャンとやられる。

何年か前の学園ドラマに出てくる、竹刀をいつも持っていて生徒を脅すのが役柄、な教師のようだ。

だから恵には頼めない。成績がずば抜けて良い人は教え方が上手いとは限らないし。

うーん、と唸っているうちに一限目が始まった。英語だ。

祐咲は英語が得意だ。英語だけはいつもそれなりの点数がある。

幼い頃だが、慎と共に英会話教室へ通っていたのだ。それが楽しく、今でも英語は好きだ。

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