第八話
一人になり、水野は泣いた。
慎の死を知り、幾度となく泣いた。
自らの半身を失ったような、酷く苦しい思いを抱えた。
けれど、水野は決して人前で涙を見せることはなかった。
通夜も葬式も、部員たちの前でも、泣かなかった。
一人になったときだけ声を枯らして泣いた。
通夜や葬式で、大声で泣き悲しむことを、慎が望んでいるとは思わなかった。
親友だから、分かる。
たとえこれが逆の立場だったとしても、慎もきっと人前で泣くことはないだろう。
それを自分が望まないから。
(泣いてる暇あんなら練習しろよって思うんだろうな・・・)
悲しんでいる時間があるなら練習する。
一歩でも夢へ近づくために。
それが、遠い場所へ行ってしまった親友のためにしてやれること。
けれど、皆が水野のように強いわけではない。
野球部の一員を、共に汗や涙を流してきた仲間を、失った悲しみは部を暗く落ち込ませた。
このまま部は壊れてしまうんじゃないかと思うほどに。
練習が全く手につかず、落ち込んでいる部員たちに、江崎の激が飛んだ。
「お前らいい加減にしろ!落ち込んでたって慎は戻ってこねぇんだよ!!
ウジウジしてる奴はいらねぇんだよ!慎の死を悲しむだけか?
慎はどんなときも練習を欠かさなかった!慎のために、頑張ろうって思えない奴は、
野球部を、辞めろ。」
辞めた者は、いなかった。
辞めるハズない。皆野球が好きで集まっているのだ。
ここで野球部を辞めたりすれば、それこそ慎は悲しむだろう。怒るだろう。
野球部は立ち直った。
安藤祐咲マネージャーが戻ってくるまでに、前の活気溢れた明るい野球部にしておこうと。
祐咲は必ず戻ってくると、皆確信していた。
彼女は、慎に負けず劣らず野球部が好きだから。
(さすがだよ、キャプテン)
主将の江崎の一声で、元の、慎が好きだった野球部が戻ってきた。
慎も水野も江崎を尊敬していた。
あんなに主将らしい人はいない。厳しく、怖いけれど、優しい人だ。
江崎の言葉には説得力がある。
江崎が勝てる、と言えば、どんなに不利な試合にも勝てる気がしてくるのだ。
主将の力は絶大ナリ。絶対行こうな、甲子園。
水野は夜空を見上げて祈った。
そこに慎がいることを信じて。笑って見ていてくれることを信じて。
秋季大会はもう負けてしまっているから、春の選抜には出られない。
目指すのは、来年の夏。江崎たちにとっては最後の夏となる。甲子園へ行く。
必死で練習するつもりだった。
もう二度と負けないと、心に誓った。