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マウンド。   作者:
6/15

第六話

あの約束。

それは、夏の大会のときだった。

夏の甲子園を懸けた地区予選。

三年生の部員たちにとっては、最後の大会だった。

四回戦、祐咲たちの高校は優勝候補と謳われていた高校と当たった。

先発したのは三年生の投手だった。

しかし、4回の攻撃中にデッドボールが当たり腕に怪我を負ってしまった。

そして5回から選手交代。慎がマウンドに立った。

エースナンバーを付けた一年生。一年生と言えども、慎の実力は本物だった。

後は頼んだ、と三年生投手は慎にたくした。

あいつなら、きっと抑えてくれる、と皆の期待が慎に集中した。

結果は・・・負けてしまった。

慎はよく頑張った。ストレートとカーブをよく操った。

けれど、相手強豪校の打線が、それを上回ったのだ。

三年生は肩を落とし、涙を流した。

マウンドにしゃがみ込んでしまった慎に、三年生投手がありがとう、と声をかけた。

目に涙を浮かべながら。

慎は、首を横に振り続けた。

試合終了後、慎は自分を責め続けた。

先輩は、自分に全てをたくしてくれた。任せてくれた。

その期待に応えられなかった。

先輩たちの野球を、終わらせてしまった。

悔しくて、自分が許せなかった。

一人ベンチに残り、右腕で壁を殴りつけた。渾身の力で。何度も、何度も。

それを止めたのが、水野だった。血が滲み始めた慎の拳を止め、怒鳴りつけた。

「お前、ピッチャーの自覚あんのか!?ピッチャーが手ぇ傷つけんじゃねぇよ!」

投手にとって、利き腕は命だ。慎は右利きだった。

その右腕を、慎は傷つけようとした。

先輩たちの期待に応えられなかった自分が許せなくて。情けなくて。

「お前が、こんなことして何になる!?ここで俺たちは負けた。甲子園には行けない。先輩たちはもう引退だ。

 でもなぁ!お前が腕壊して、そんで先輩たちが満足すると思うかよ!?

 負けたけど、誰もお前のこと責めねぇよ!頑張っただろ!?精一杯やっただろ!?見てりゃ分かるよ!

 負けたことは責めない。でも、お前がここで腕壊したら、先輩たちも俺もお前を許さねぇ。」

そのとき、慎の目から初めて涙が零れた。

「俺たちはまだ終わりじゃない。まだチャンスがある。お前は、これからまだまだ強くなれる。

 甲子園に行くんだ。お前が、全国で?1投手になるんだよ。それが、お前に全てをたくして任せてくれた、先輩たちへの恩返しだ。」

水野は慎の目を見て言った。水野の目も、涙で赤く滲んでいた。

慎は声を殺し泣いた。

自分には、先輩にありがとうなんて声をかけてもらえる資格なんてないと思った。

勝てなかったから。負けてしまったから。けれど、先輩はありがとうと言ってくれた。

抑え切れなかった慎を、一言も責めずにありがとうと言ってくれた。

「分かったら、約束しろ。もう二度と腕や肩を、傷つけようとするな。お前はエースだ。俺たちの大黒柱なんだよ。

 反省はしても、後悔はしちゃ駄目なんだよ。

 良いか?肩と、腕だけは、ぜってぇ守れ。」

慎は、深く、力強く頷いた。

それが慎と水野の、約束だった。

もう二度と腕や肩を痛めつけるようなことはしない。甲子園に行くために。

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