第五話
皆が着替えおわって出てくると、江崎が部室に鍵をかけた。
時間は五時半だか、空は薄暗い。
祐咲は江崎から鍵を受け取り、部誌を持ち、帰り支度を始めた。
「お疲れさまでしたー」
笑って部員を見送った。
暗くて、皆が気付かなかったことを願った。泣いて赤く腫れた目に。
祐咲が帰ろうと歩き出したとき、後ろから声をかけられた。
「安藤、待って待って!」
「水野?どうしたの?」
「送ってってやるよ」
「え、何で」
今まで水野はこんなことを言ってきたことがない。
練習が延び、どんなに遅くなっても、終わると真っ先に帰ろうとしていた水野だ。
「女の子の夜道の一人歩きは危ねぇじゃん?」
「今まで送ってくれたことなんてないじゃん。お前なら痴漢のが逃げてく、とか言って」
「あのなぁ、せっかくこの俺が送ってやるって言ってんのに…」
「あはは、じゃぁ、送らせてあげるよ」
「お前なぁ!」
本当は分かっていた。水野は、親友の、慎の代わりをしようとしてくれていると。
今まで、部活の後は毎日慎と一緒に帰っていた。
真っ暗でも、慎が隣を歩いてくれていた。
でも、もう慎はいないから。
祐咲は一人で帰らなければいけないことになる。
そこで水野が祐咲を送って行くと言ったのだ。
二人は校門を出、もう暗くなってしまった道を歩いた。
クラスのことや、面白い先生のこと。日にちが迫ってきたテストについて会話していたが、所々話が途切れる。
会話が不自然なことに、祐咲は気づいていた。
水野がクラスの友達のことを話し、また会話が途切れたとき。
「あのさぁ、」
「慎、」
水野が何か言う前に祐咲が口を開いた。
水野がずっと慎のことを話したがっていたのを祐咲は分かっていた。
祐咲を気遣ってなかなか口に出せなかったことも。
「慎ね、右腕を庇うようにして倒れてたんだって」
「!」
水野が息を呑んだ。
「覚えてたんだよ。ちゃんと」
あの約束を。