第二話
結局、遅刻どころか三日間学校には行かなかった。いや、行けなかった。慎のいない学校へ、一人で行く気にはなれなかったのだ。
慎が、死んだ。
「どうして・・・?」
三日間、その言葉しか出てこない。慎の母親から電話で、慎が交通事故で病院に運ばれたと聞いてすぐにその病院へ駆けつけた。
しかし、祐咲と母親が着いた頃にはもう遅かった。
ランニング中に、バイクと接触し、頭を打ちつけたらしい。打ち所が悪かったらしく、病院に運ばれてすぐに死亡が確認された。
頭を打っただけだから、身体は綺麗なままで、本当に眠っているだけの様だった。
右腕を庇うようにして、倒れていたそうだ。
どうして。理屈は分かっている。バイクとの接触事故。言葉にしてしまえばたったこれだけのことだ。けれど、違うのだ。祐咲のどうして、は。
「どうして慎が・・・どうして慎なの・・・?」
二人はいつも一緒だった。生まれたときから一緒に遊び、小学校も中学校も一緒に通った。
小学校で慎が野球を始め、どんどん上達していくのを見るのが嬉しかった。中学校では自然に野球部のマネージャーという位置についた。高校でも。
一年生エースという華やかな肩書きを背負った慎。何の苦労もなく手に入れたと。才能のある奴は、と。散々周りに言われたが、黙ってそれを受け入れた。
生意気だと、叩かれもした。
けれど部員は実力を見れば分かってくれる。毎日どれだけ慎が努力しているのか。
決して才能やセンスがあるわけじゃない。
野球が好きだから、必死で、上手くなりたくて頑張ってきたことを。
それでも、野球を知らない人たちからのプレッシャーはとても大きなものだった。
そんな重責や精神的苦痛に耐えられず逃げ出しそうになったことは何度もあった。
そんな時、いつも慎を支えてきたのが祐咲だった。
恋人という関係ではなかったけれど、いつも二人で歩いてきた。
祐咲の隣にはいつも慎がいた。それが当たり前だった。そんな当たり前の日々が一瞬にして壊れてしまった。
もう、慎が投げている姿を見ることができない。一緒に学校へ行くことも、野球を見ることも、練習することも、できない。
その現実を受け入れることは、祐咲にとって余りにも過酷なことだった。
けれど、形だけでも立ち直らなければと、祐咲は思った。
『野球は一人じゃ出来ない。仲間がいて初めて成り立つんだ。』
慎の口癖だった。
祐咲は?野球部?のマネージャーだ。
慎のためだけにいるわけではない。部のために尽くし、働いてきた。
影の活躍者であるマネージャーは、決して日の目を見ることはないけれど、マネージャーがいなければ部が成り立っていかないことも祐咲はよく知っていた。
戻らなければ。慎がいなくても野球部は続いていく。
決して強豪とは言えない野球部のマネージャーは祐咲一人だ。
祐咲がいなければ誰がドリンクを用意するのだ。誰がボールを磨き、部室を掃除するのだ。
行かなければ。祐咲は立ち上がった。四日目の午後。丁度部活開始の時間に学校へ向かった。