第十四話
とても長い間連載をストップさせていました。
未だに読んで下さっている方がいるかは分かりませんが、もし待っていてくれた方、本当に申し訳ありません。そしてありがとうございます。
丁度高校野球の季節ですし、頑張って書いていこうと思います。
読んで下さったら、嬉しいです。
2−Bの扉を開け中に入ると、もうほとんどの部員が集まっていた。
皆一斉に河野を見つめ、ざわついていた教室が静まり返る。
「おぉ、来たか。じゃぁ、全員揃うまでお前はここに座ってろ」
監督が、6列並ぶ机の一番前の席を指して言った。
河野ははい、と小さくも無く大きくも無い声で返事をした。よく通りそうな低い良い声だ。
教室は静まり返ったまま、誰も何も言わない。
それが返って空気を重くしていた。
水野は一番後ろの席に着き、河野を見ようともしない。
「水野、大丈夫か?」
水野の隣に座っている小島が小声で声をかけた。
「何が」
小島の方を見ようともせず、机の一点を見つめたまま水野は答えた。
「何がって・・・」
小島は口ごもってしまった。河野と上手くやれそうか、チームメイトとして認めてやれそうか、そう尋ねたかったのだが、言えなかった。
水野の態度が言わせなかった。
緊迫した空気を破るように監督の明るい声が飛んだ。
「よーし、全員揃ったな!?俺たちの新しい仲間の紹介だ。河野!」
監督に呼ばれ、河野が教壇の前に立った。
改めて見ると、やはり凄い存在感だ。風格というものが、ある気がする。
「河野一志。ポジションはピッチャーです。どうぞよろしくお願いします。」
口調は丁寧だが、何だか心が篭っていない・・・と祐咲は感じた。
ただの妬みだろうか。監督には普通に聞こえたようだ。
「今日は顔合わせだけだから、河野を入れての練習は明日から始める。皆、気合入れて来いよ!」
監督が教室を後にしても、誰も立ち上がろうとしない。
怖いほどに空気が張り詰めている。
一番前の席に黙って座り外を眺めていた河野に、最初に声をかけたのは意外にも小島だった。
「・・・の。こうの!」
「・・・え?」
「え?じゃないよ!よろしくって言ってんの!俺、A組の小島勇太!ポジションはファースト!」
もう一度よろしくな、と言って小島はニコッと笑った。
「あぁ・・・よろしく。」
緊張してるのか、元々無口な性格なのか・・・。
河野は言葉少なでニコリともしなかった。
小島がきっかけとなり、主将の江崎が自己紹介を提案した。
一人ずつ、名前とクラスとポジション、そして一言を言っていく。
よろしくと言う者が多かったが、中には趣味や好きなタレントの名前を出す者もいた。
和やかなムードのまま水野の番になった。
「水野亮。D組。キャッチャー。」
それだけだった。一瞬だけ冷たい空気が流れたが、自己紹介はそのまま進んでいった。
今年は正捕手は江崎だろうから、河野とバッテリーを組むのは江崎だが、投球練習はもちろん控え捕手もする。
江崎が出られない場合は水野が出ることもあるだろう。
大丈夫なのだろうか、と祐咲の胸は不安でいっぱいだった。
そうこうしている内に、自己紹介は全員回り、最後に祐咲の番となった。
「1年C組、安藤祐咲です。マネージャーなので、雑用は何でも言いつけて下さい。よろしくお願いします。」
言い終わって座ろうとしたとき、河野が口を開いた。
「・・・あんたが、マネージャー?」
祐咲は突然のことに驚きながらも答えた。
「え、うん、そうだよ。分からないことがあったら何でも聞いてね。」
ふーんと言って祐咲を見た。だがすぐに興味を無くしたかのように河野は顔を逸らした。
「悪いけど、用事あるんで帰ります。」
河野は江崎にそう告げると、荷物を掴み教室を出て行ってしまった。
全員、呆気に取られたかのように静まり返った。
「な、何というか・・・マイペースな奴だな・・・」
江崎が言うと、水野が口を挟んだ。
「つーか、感じ悪すぎっすよ。」
余りにも冷たい口調に江崎も驚いたようだが、すぐに冷静に水野を諭した。
「お前な、気持ちは分かるけど、クラスメートだろ?来年はお前が河野とバッテリーを組むんだ。そんなんでどうする。」
「俺は、あんな奴とバッテリーなんて組みませんよ。あんな偉そうな奴の球なんて取りません。どーせリードにも首振ってばっかじゃないすかね。」
「水野、いい加減にしとけよ。」
有無を言わせぬ江崎の口調に、水野も黙った。
「・・・俺も、今日は帰ります。」
そう言って水野も教室を出て行った。
江崎はため息をついて、祐咲に言った。
「安藤、頼む。」
祐咲ははい、と頷くと荷物を持って水野の後を追った。