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マウンド。   作者:
14/15

第十四話

とても長い間連載をストップさせていました。

未だに読んで下さっている方がいるかは分かりませんが、もし待っていてくれた方、本当に申し訳ありません。そしてありがとうございます。

丁度高校野球の季節ですし、頑張って書いていこうと思います。

読んで下さったら、嬉しいです。

2−Bの扉を開け中に入ると、もうほとんどの部員が集まっていた。

皆一斉に河野を見つめ、ざわついていた教室が静まり返る。

「おぉ、来たか。じゃぁ、全員揃うまでお前はここに座ってろ」

監督が、6列並ぶ机の一番前の席を指して言った。

河野ははい、と小さくも無く大きくも無い声で返事をした。よく通りそうな低い良い声だ。

教室は静まり返ったまま、誰も何も言わない。

それが返って空気を重くしていた。

水野は一番後ろの席に着き、河野を見ようともしない。

「水野、大丈夫か?」

水野の隣に座っている小島が小声で声をかけた。

「何が」

小島の方を見ようともせず、机の一点を見つめたまま水野は答えた。

「何がって・・・」

小島は口ごもってしまった。河野と上手くやれそうか、チームメイトとして認めてやれそうか、そう尋ねたかったのだが、言えなかった。

水野の態度が言わせなかった。

緊迫した空気を破るように監督の明るい声が飛んだ。

「よーし、全員揃ったな!?俺たちの新しい仲間の紹介だ。河野!」

監督に呼ばれ、河野が教壇の前に立った。

改めて見ると、やはり凄い存在感だ。風格というものが、ある気がする。

「河野一志。ポジションはピッチャーです。どうぞよろしくお願いします。」

口調は丁寧だが、何だか心が篭っていない・・・と祐咲は感じた。

ただの妬みだろうか。監督には普通に聞こえたようだ。

「今日は顔合わせだけだから、河野を入れての練習は明日から始める。皆、気合入れて来いよ!」

監督が教室を後にしても、誰も立ち上がろうとしない。

怖いほどに空気が張り詰めている。

一番前の席に黙って座り外を眺めていた河野に、最初に声をかけたのは意外にも小島だった。

「・・・の。こうの!」

「・・・え?」

「え?じゃないよ!よろしくって言ってんの!俺、A組の小島勇太!ポジションはファースト!」

もう一度よろしくな、と言って小島はニコッと笑った。

「あぁ・・・よろしく。」

緊張してるのか、元々無口な性格なのか・・・。

河野は言葉少なでニコリともしなかった。

小島がきっかけとなり、主将の江崎が自己紹介を提案した。

一人ずつ、名前とクラスとポジション、そして一言を言っていく。

よろしくと言う者が多かったが、中には趣味や好きなタレントの名前を出す者もいた。

和やかなムードのまま水野の番になった。

「水野亮。D組。キャッチャー。」

それだけだった。一瞬だけ冷たい空気が流れたが、自己紹介はそのまま進んでいった。

今年は正捕手は江崎だろうから、河野とバッテリーを組むのは江崎だが、投球練習はもちろん控え捕手もする。

江崎が出られない場合は水野が出ることもあるだろう。

大丈夫なのだろうか、と祐咲の胸は不安でいっぱいだった。

そうこうしている内に、自己紹介は全員回り、最後に祐咲の番となった。

「1年C組、安藤祐咲です。マネージャーなので、雑用は何でも言いつけて下さい。よろしくお願いします。」

言い終わって座ろうとしたとき、河野が口を開いた。

「・・・あんたが、マネージャー?」

祐咲は突然のことに驚きながらも答えた。

「え、うん、そうだよ。分からないことがあったら何でも聞いてね。」

ふーんと言って祐咲を見た。だがすぐに興味を無くしたかのように河野は顔を逸らした。

「悪いけど、用事あるんで帰ります。」

河野は江崎にそう告げると、荷物を掴み教室を出て行ってしまった。

全員、呆気に取られたかのように静まり返った。

「な、何というか・・・マイペースな奴だな・・・」

江崎が言うと、水野が口を挟んだ。

「つーか、感じ悪すぎっすよ。」

余りにも冷たい口調に江崎も驚いたようだが、すぐに冷静に水野を諭した。

「お前な、気持ちは分かるけど、クラスメートだろ?来年はお前が河野とバッテリーを組むんだ。そんなんでどうする。」

「俺は、あんな奴とバッテリーなんて組みませんよ。あんな偉そうな奴の球なんて取りません。どーせリードにも首振ってばっかじゃないすかね。」

「水野、いい加減にしとけよ。」

有無を言わせぬ江崎の口調に、水野も黙った。

「・・・俺も、今日は帰ります。」

そう言って水野も教室を出て行った。

江崎はため息をついて、祐咲に言った。

「安藤、頼む。」

祐咲ははい、と頷くと荷物を持って水野の後を追った。


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