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マウンド。   作者:
13/15

第十三話

LHR=ロングホームルーム

一ヵ月後。

とうとう三学期が始まった。

冬休みは、年末年始以外はほぼ毎日練習だった。

クリスマスには部員の皆で遊び、お正月には皆で初詣に行った。

願うことは、きっと全員同じ。

【甲子園に行きたい】きっと。

部の結束が今まで以上に固くなった二週間だった。

始業式の朝、祐咲は恵と待ち合わせをして学校に向かった。

「寒いねぇ・・・ほら、昨日の雪がまだ残ってるよ」

恵が指差した公園には、小さな雪だるまがいた。

「可愛いね」

クスリと笑うと、何だか胸が温かくなった。

「きんちょーする?」

わざと平仮名で、からかうように恵が言った。

「そりゃ、少しはね。でも、やっぱり嬉しいよ。速球派の豪腕投手が入るんだもん。皆もやる気になってるし」

本当だった。複雑な気持ちが全く無くなったと言えば嘘になるけれど、冬休みの練習は、明らかに部員のやる気が違った。

河野一志の存在が、皆のやる気に火をつけたのだ。

成明野球部は、この冬、強くなった。監督はこれが狙いだったのかもしれない。

ただ、水野だけは違った。

皆が今日やってくる一年生投手の存在を意識しているのにも関わらず、水野だけは変わらず淡々と練習メニューをこなしていた。

河野の話題が持ち上がっても、水野は決して交ざろうとしなかった。

水野はまだ、マウンドの上に慎を見ていた。





始業式が終わったあと、教室でのLHR。

三学期の予定表が配られ、先生の説明が続く。

河野一志はどこのクラスに来たのだろう。

少なくとも、祐咲のクラスではなかった。

11時に解散となる。

その後野球部はミーティングが計画されていた。

河野のお披露目会だ。

廊下に出ると、隣のクラスが騒がしい。人だかりができている。

転入生、という言葉がざわめきの中から漏れ聞こえた。

「!」

祐咲の隣のクラス、1−Dは、水野のクラスだ。

よりもよって、水野のクラスに、河野一志はやって来た・・・

祐咲が呆然としていると、D組の生徒たちが帰り支度をし、廊下へ出てきた。

一番最後に、水野は教室を後にした。水野の隣には、背の高い男子が立っている。

(河野一志・・・)

すぐに分かった。オーラが、ある。明らかに人とは違う。

180cmは優に超えているであろう長身と、長い手足。

冷たそうな印象があるが、人を惹きつける力のある瞳。

「安藤、」

思わず河野に見入ってしまった祐咲は、水野の声で我に返った。

「ミーティング、2−Bだよな?」

祐咲が頷くと、水野は河野を一瞥し、

「おい、行くぞ」

水野のものだと信じられない程に冷たい声で言った。

河野は何も言わず、水野の後をついて2−Bに向かった。

祐咲も二人から少し離れて歩いた。

廊下ですれ違う生徒のほとんどが河野を振り返る。

男子も女子も。

好奇の視線と、河野のオーラに惹きつけられて。


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