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マウンド。   作者:
10/15

第十話

それから穏やかに毎日は過ぎて行き、何事もなくテスト最終日を迎えた。

「あと一教科!」

男子生徒がシャーペンを持って叫んだ。

最後のテストの休み時間。皆ラストスパートをかけ、教科書を開いている。

そんな中、祐咲の携帯電話がメールの着信を告げた。

「江崎先輩?」

主将の江崎からのメールだった。

“今日一時からミーティング。2‐B集合。一年に連絡頼むな”

分かりました、と返信しながら祐咲は内心がっかりしていた。

今日は部活休みの予定だったため、恵と買い物に行く約束をしていたのだ。

「めぐちん。ごめんなさい。今日のお買物、行けなくなっちゃった」

一年部員に連絡のメールを送ると、教科書を見ている恵に声をかけた。

「ん?部活?今日休みじゃなかったの?」

教科書から顔を上げ、問い掛けた。

「そのはずだったんだけど…今キャプテンから連絡入って。ミーティングやるみたい」

「ふーん。問題発生かねぇ」

のんびりした口調で何げに怖いことを言わないで欲しい。

その問題によってはマネージャーの仕事が増えるのだから。最後の教科は生物だった。

遺伝子がどうの、メンデルの法則がどうの、正直どうでも良い。

記号問題を勘に任せ、一応は最後のテストを終えた。

祐咲は窓際の席で、グランドに面しているため、自然と外を眺める時間が多い。

テスト終了時刻までの十分間ほど、祐咲はグランドを眺めて過ごした。

サッカー部のコートの隣に野球部は位置している。

少し土が盛り上がったところ。ピッチャーマウンド。

祐咲の心は、不思議なほど落ち着いていた。

慎が死んでしまったことを、諦めたわけでも吹っ切れたわけでもないけれど、慎の死を受け入れつつあるのかもしれない。

物思いに耽っていると、終了のチャイムが鳴った。

テストを教師に提出し、皆が騒ぎながら帰り支度を始めた。

祐咲も荷物をまとめ、ミーティングに向かうために教室を出た。

「恵、バイバイ!ごめんね!」

「今度埋め合わせしてよー」

分かったと笑い、隣の校舎に向かった。

2−Bの教室には、まだ三十分前なのにもう大分部員たちが集まっていた。

祐咲は水野たち一年生が座っている机に近寄り、声をかけた。

「おはよ。皆何でお昼ご飯持ってるの?ずるいー」

「購買で買ってきたんだよ。」

「つーか、おはようって時間じゃねーし」

冷たい突っ込み。芸能界じゃ、その日初めて会った人にはおはようございますって言うんだから。と言うと、お前芸能人じゃねーしと言われてしまった。

「安藤、昼持ってないの?これ食う?」

「えっ!!小島、良いの!?」

「良いよ。俺いっぱい買ったから」

目がクリクリした、小柄な少年。女の子にも見える可愛い顔立ちをした小島がニコッと笑って、サンドウィッチを差し出した。

「ありがとう、小島クン、天使に見えるよ!」

ははは、と小島が苦笑した。

「動物にエサを与えないでくださいーい」

水野が言うとどっと笑い声が起こった。小島まで笑っている。

水野にはしっかり裏拳を入れておいて、椅子に座りハムサンドを食べる。

そうこうしている内に時計は一時を示し、教室に監督と江崎が現れた。

監督の表情は明るい。祐咲はほっとした。

テスト最終日にミーティングということもあり、内心、部員の誰かがカンニングでもしてそれがばれ、部活停止処分になったんじゃ・・・と心配していたのだ。

だが、心なしか江崎の表情は暗い気がする。


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