第一話
今も時々思うよ。今ここに君がいたらどんなに良いだろうって
その朝、慎はいつもの様に走っていた。毎朝二キロのランニング。それが彼の日課である。
そしてその慎にスポーツドリンクを渡すのが祐咲の日課だった。
一キロ地点で住宅の角を曲がる。
「まーこーと!」
張りのある祐咲の声が慎の耳に届いた。慎は、祐咲の姿を認めると走るスピードを落とした。
はい、とドリンクを渡されるとスポーツ少年らしく爽やかに笑った。
「サンキュ。また後でな。」
いつも通りの言葉を交わし、慎はまた走り出した。
それが幼馴染の二人の日課だった。その朝までは。
慎が行ってしまうと、祐咲は家に戻り、朝食を食べた。その間に母親が弁当を用意し、机の上に置く。
食べ終わると、ブレザーの制服に袖を通し、髪をセットし、家の外へ出た。
いつもの様に家の前で待つ。一つ向こうの通りから、大きな部活用スポーツバッグを抱えた慎が現れるのを。
けれど、なかなか彼は現れない。祐咲が携帯電話を取り出し、時間を確認すると、七時二十分。あと二十分で校門が閉まってしまう。
「もう、遅刻しちゃうじゃん。」
慎が遅れてくるのはそんなに珍しいことではないため、祐咲が先に行くこともある。
けれど、大抵いつもギリギリまで待っている。それは、グローブを手にボールを上へ投げながら歩く慎の姿を見るのが、好きだからだった。
それに、今日は何だか妙な胸騒ぎがする。もう行かなければ、遅刻してしまう。けれど、たまには良い。慎が来るまで待っていよう。来ないはずがないのだから、と。
三十分になっても慎は現れない。三十五分。どうして。祐咲の胸騒ぎはどんどん大きくなっていった。
通りの向こうを少し見てこよう、そう思って祐咲が歩き出そうとしたとき、玄関の扉が勢い良く開かれ、中から血相を変えた母親が飛び出してきた。
嫌な予感が、した。
「今、電話があって・・・慎君が・・・!」




