表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

第一章 私が目の当たりにしたリーマンショック

ニューセンチュリーファイナンシャルに勤める彼の一言


2008年9月15日、アメリカの大手投資銀行リーマンブラザーズは負債総額約6000億ドルを抱え経営破綻しました。この事が引き金となり世界の金融市場は大混乱に陥り、株価は暴落し、企業倒産が相次ぎました。


リーマンショックが起こる2年前の2006年、私はゴールドマンサックスの住宅ローン証券のリスク管理部門に所属し、リスク評価や分析を行なっていました。


そして、とある休日に、マンハッタンにあるカフェテラスで友人と話していました。すると、いつもジョークばかり言っていた彼が突然、真面目な顔をして「今起こっている不動産バブルはそう長くは続かないと思う」と私に告げたのです。


普段は人の言葉を半信半疑で受け取る私ですが、その時の彼の発言には、すぐに信憑性を感じました。なぜなら、彼は当時、リーマンブラザーズと多数のローン債権取引を行っていた企業、ニューセンチュリーファイナンシャルに勤めていたからです。


リーマンブラザーズは、借り手に貸し付けた住宅ローン債権をまとめて証券化し、それを投資家に販売し利益を上げていました。。私はその日の夜、アメリカの中央銀行(FRB)の金利上昇について、数値データを調べていました。FRBは2004年、4年ぶりに利上げを実施し、その時点では政策金利は1.25%にとどまっていました。しかしその後、2006年6月までの間に、0.25%ずつ計17回にわたって利上げを続けたのです。


私はそのことを知ると、急いでレポートにまとめました。そして、それを出版関係の仕事をしている知り合いに話したところ、彼を通じてウォールストリートジャーナルの記者から連絡があり、私のレポートについて詳しく聞きたいとのことでした。そこで、レポートのファイルを電子メールに添付して、記者に送信しました。


しかし、それから、何日経っても返信が来なかったので、私は直接彼に連絡をしました。そして、彼にレポートについての評価を単刀直入に聞きました。すると彼は「悪いけど、僕には君の言ってることは、さっぱりわからないんだ」と全く私のレポートに理解を示さなかったのです。わたしは「これは重大な警告だから、頼むから載せてくれないか」と頼みましたが、結局、私のそのレポートが日の目を見ることはありませんでした。


今考えてみれば、彼がそう決断したのも無理はありません。2006年当時、リーマンブラザーズが破綻すると予測していた人は、私を含めて数人程度しかいなかったのです。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』という、2015年にアメリカで製作された映画に登場する、マイケルバーリーもその内の一人でした。彼は実名で映画に登場し、サブプライムローンのリスクを見抜き、それに賭けて利益を得る「空売り(ショート)」を仕掛けました。空売りとは、証券会社などから一時的に借りた株を売却し、株が下がるのを待ち買い戻す事です。そしてその株を証券会社に返すというものです。


この空売りは、成功すれば巨額のマネーをつくりだすことが可能な投資方法です。わかりやすい例を挙げてシミュレーションしてみます。例えば、あななたがAという会社の株を証券会社から1000株借りてきます。その株を1株1000円で売ったとします。数日後、株が800円まで下がりました。あなたは1000株を800円で買い戻し、証券会社に返します。するとあなたの手元には20万円残ることになります。証券会社から株を借りるにはお金が借りますが、数日であれば、数百円で済む場合がほとんどです。そのほかに手数料や金利を合わせても、1000円ちょっとで、気軽に投資を始めることができるのです。


実はリーマンブラザーズが破綻する、ちょうど2年前の9月、私は映画業界で働く友人に誘われ、ロサンゼルスの一画に位置する、閑静な住宅地に来ていました。


高級住宅街ということもあり、そこには会社勤めのビジネスマンが生涯働いても買うことのできないであろう、大きな豪邸が立ち並んでいました。


友人は次々にその家の持ち主の名前を私にこっそりと教えてくれました。ここには書けませんが、そのなかには、誰もが知る超セレブリティやハリウッド界の重鎮、超有名インフルエンサーなどが含まれていました。


私が関心していると、ある一軒の豪邸の前で車が止まりました。


車を降りて友人について行くと、敷地の前には数人のボディーガードが立っており、私は彼らからチェックを受け、家の中へ入りました。


エントランスホールのすぐそばにあるカウンターには、白シャツに黒いベストを身につけた、バーテンダーが数名立ちカクテルを作っていました。


私は、近くの案内係の男に、ドリンクは何がいいかと尋ねられたので、マティーニを頼みました。そしてドリンク片手にリビングルームへ入ると、そこには多くの有名人やセレブリティが集まっていたのです。


ライブキッチンではたくさんのシェフが肉や魚を調理していました。その近くには、ステーキにピザ、寿司、サラダそして、フルーツやデザートなどが、ケータリングされていました。


料理はどれも一流で、レストランで食べているのと変わらないほどのクオリティでした。私がガトーショコラを食べていると、向こうから、見知らぬ男がこちらに歩いてきました。


そして私にこう声をかけたのです。「ワイアードに掲載されていた、ソニーに関するレポートを読んだよ。君が書いたんだろ?」私は、その時、ケーキに夢中になっており、男の話を適当に聞き流していました。


しかし、その男があることを尋ねた瞬間、私の手はぴたりと止まったのです。


「ところで、君はリーマンブラザーズの動きを、どう見てる?」


私は、握っていたフォーク置くと、これこれこうで、とリーマンブラザーズが破綻するのではないかと思っていることを伝えました。


するとそれを聞いた彼は私にこう言ったのです。


「やっぱり、君もそう思っていたのか。僕は今ある事を考えているんだ」


彼が考えている事とは、その2年後に明らかになりました。そう、彼はサブプライム関連の空売りで巨額のリターンを得た、マイケルバーリー本人だったのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ