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第1話:「その手が覚えていたもの」
第1話:「その手が覚えていたもの」
> 風が吹いていた。
まるで人工の風とは思えない、柔らかい、けれど冷たい風。
丘の上の古い屋敷の庭先で、一人の男がアンドロイドの手を握っていた。
ジン――未来の人形士。
彼の元には、行き場を失ったアンドロイドたちが運び込まれる。
不要となり、廃棄されるはずだった者たちだ。
「君の名は?」
問いかけても、返事はない。
アンドロイドの瞳は空っぽで、まるで“生きていない”ようだった。
けれど、ジンは知っている。
その手に、かすかな温度がある限り――
彼らは“何か”を覚えている。
(この子の、記憶を辿ろう)
彼の仕事は、記憶を消すこと。
だが、彼の心は、それを拒む。
ジンは今日も、アンドロイドの記憶に触れる。
一体ずつ、丁寧に、そっと
少しずつ「ジン」の過去や、記憶が消せない理由が明らかになる