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第54話 防壁


 俺本体がマギル族の集落で冒険を繰り広げていた頃。


 領地では思わぬ来客があった。


 対応は館に残していた俺の分身が行う。


「ジレン! 来てくれたんだね!!」


「……おう、坊主。おめえ本当に領主だったんだな」


 王都でナディアの救出に協力してくれた冒険者のジレンだ。


 相変わらずのスキンヘッドがピカピカとまぶしい。


「あれから王都にいたんじゃないの?」


「まあな。ネーニャがどうしてもって言うから来てやったんだぞ」


 ジレンの後ろには仲間が他に3人おり、そのうちの一人は宿屋で知り合った白パンツみたいな武装アーマーのお姉さんもいた。


 お姉さんは弓と索敵を担当。


 その横の爺さんは攻撃魔法を担当。


 さらに後ろの大男は接近戦を担当。


 そしてジレンは回復と支援魔法を担当するんだと。


「オレたち四人はあの日の戦いで気があってな。今は『シャイニング・ケトル』ってパーティ名で活動しているんだ」


「へえ、なるほど……」


 俺はちょっと考えて、再びジレンに向かって続ける。


「だったらウチのダンジョンを探検してみないか? 宝箱はあるし、各階層のボスを倒せば報奨金もだすよ」


「ダンジョンだと?」


「ああ、最近見つかったのさ。なんならしばらく泊まっていけばいい。宿は建設中だけど空き家があるから案内させるよ」


 そう提案するとシャイニング・ケトルの彼らは喜び、ダダリに滞在してくれることになった。


 これは俺にとってもマジ助かることである。


 そもそも集団戦に慣れた領民兵たちは通路のせまいダンジョンでの戦いは不向きなので、仕方なく俺だけでダンジョンをマッピングしてたんだけど……ひとりですべてのフロアのボス部屋を探すとなるとスゲー時間がかかる。


 できれば領地を訪れる冒険者に解放して探索してもらいたいと思っていたんだ。


 ジレンたちのようなプロの冒険者ならダンジョン内での戦いはお手のものだろうからね。


「ところで坊主……」


 俺が宿舎へ向かうネーニャの白パンツの尻を眺めていると、またジレンが声をかけてきた。


「どうやら坊主はずいぶんと他の貴族どもから嫌われているみたいだぞ」


「は? なにそれ?」


「いや、王都でのウワサでな。もちろんオレたちは坊主が良いヤツだってことはわかっている。でも、だからこそ心配なのさ。貴族の世界は魔物が住むらしいからな」


 ウワサ、か。


 またライオネの領主かなぁ?


「そいつもそうだけどな。特にガイル侯爵ら御三家が坊主に目を付けちまったらしい」


 御三家……


 スレン王国を支える三大貴族、ガイル侯爵、エルドワール公爵、ルビス公爵のことである。


「ダンカン塔の件で坊主に功を取られちまった形だからな。ヤツら僻んでやがんだろ」


 げー、マジか。


 確かにルビス公爵令嬢のセシリアなんかは城でスゲー詰め寄って来たもんな……


「まあ、なんとかするよ。知らせてくれてありがとう」


 そう礼を言うと、ジレンはパーティの仲間たちの方へ戻っていった。



 ◇



 ジレンたちのような冒険者のための宿はまだ未完だが、一方でかねてより建設していた領境の【防壁】が完成した。


 そもそも領境にはジョブ『土木技師』にほりを掘らせてあり、ガゼット領の遊軍を撃退するのに役に立ったよな。


 そこからさらなる防御の強化のため、ほりの内側に沿って防壁を建てたのだ。


 この建設にはジョブ『大工』の棟梁級フンベルトを含む最大人数15名を当てていたが、大工事であるからここまで時間がかかったのである。


「よくやったな、フンベルト」


「ははー!」


 俺はフンベルトたちをねぎらい褒美を与えると、さっそく竣工した防壁を検分しにいった。



――――――――――――――――

     ガゼット領   川

 □□□□□□□□□□□□川□□

  □□□□□□□□□□□川□□

   ■■■■□□□□□□川□□

    vv■■〇〇□□□川□□

     vv■〇〇□□□川□□

ライオネ領 v■◎◎□□□川□□

      v■◎◎▲□□川□□

      v■墓□□□□川□□

――――――――――――――――

□=ダダリ領

◎=旧館

〇=新館

▲=神木

V=堀

■=防壁



 このように領境はほりと防壁で隔てられている。


 堀は5メートルほどの深さで、防壁も5メートルほどあるので、西から攻める軍は10メートルの高低差を乗り越えてこなければならない。


 さらに防壁の上は通路になっていて、こちらはその上から矢や魔法で敵を撃ち下すことができる。


 また、新館にある俺の部屋から連絡通路を作って何かあった時にはそのまますぐに防壁の上部へ行くことができるのだった。


「うん、これで仮にライオネが攻めてこようと戦えるぞ」


 防壁の上に来た俺は、頬に風を受けつつ呟いた。


 西を見下せばライオネの森、東を見ればダダリの領地。


 防壁の機能そのものはゲームのものと変わらなかったが、現実の異世界の美しい地形にかくも確固たる人口物を築き上げる満足感は比べようのないものだ。


 あまりに壮大でダイナミック。


 現代日本人だった俺がこんなところに立っているのがなんだか不思議にすらなってくる。


「本当だ。ここにいたのね」


 こうして少しセンチメンタルになっている時、ふいに後ろから声がする。


 白パンツみたいな戦闘着の女冒険者。


 ネーニャだ。


「おねえさん、今日はダンジョンじゃないの?」


「ええ、おやすみ。ジレンたちは宿舎でお昼寝中よ」


 ネーニャはそう言って俺の腕にそっと寄り添ってくる。


「ねえ、ボク」


「ん?」


「私ね、本当はボクをパーティに誘いに来たのよ? 一緒にこの広い世界を自由に旅して冒険ができたらとても素敵でしょ」


「……」


 俺がどう答えていいかわからず黙っていると、彼女が言葉を続けた。


「でも、無理みたいね。だって領地を守る防壁の上でそんなに真剣な目をしているのだもの」


「うん……」


 ネーニャは寂しい目で遠くの森を眺めていたので、そっと頬に触れてやる。


「……だけど、好きなの」


「わかってる」


 唇をふさぎながらむっちりとした白パンティのような尻をなでていると、異世界転生者の孤独が少し癒される気がした。




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