第52話 部族
ダンジョンの地下2Fを丸二日ほど探索すると、この階層のボス部屋を発見した。
ここのボスは毒持ちの巨大なヘビ。
ポイズンサーペントである。
キシャー! キシャー!……
「うっ……」
映画に出て来るアナコンダのようにデカくてマジSAN値ヤバい。
なるべくさっさと倒そ。
確かこいつも火に弱いはずだったから、魔法『ほのお』で弱らしておくか。
「ほのお!」
ごおおお……!!
薄暗いダンジョンの部屋にさかる炎が燦然とする。
キシャー……(汗)
よし、効いてるっぽい。
このまま魔法でたたみかけたいところだが、残念ながらMP切れだ。
ステータス上、俺の最大MPは現在177あるんだけど、『亜空間』と『分身』の魔法を日常的に維持するのに最大MPを常に150目減りさせている。
ので、攻撃魔法に使える一日のMPは事実上22しかなく、ほのお(D)に換算すると一日に二発が限度だった。
魔法だけで倒せたら楽チンなんだけどな……
あとは剣で叩きまくるしかねーか。
「おら! おら! うらぁ!!」
鋼鉄の剣で撃っていく。
ポイズン・サーペントは巨大なヘビの体をくねらせのたうつが、やがて動かなくなると光の粒となり消滅した。
「ふー、やっと倒せた」
ほっと息をついてボス部屋から廊下へ出ると、フロアから魔物の気配が消えている。
そう。
ボスを倒すと、その階層の魔物はすべていなくなるのだ。
その後、下への階段を見つけたので地下3Fへ進む。
がうー……グルルル……ガウチッガウチッ!……
階段を降りると、また魔物があらわれるようになった。
この階層もボスを倒せばすべての魔物が消えるのだけどね。
ただ、この階層ではボス部屋を見つける前に下への階段が見つかったので地下4Fへ降りていく。
食料などにも限りがあるから先に進むのが優先だ。
その後。
地下5F、6F、7F……と数日かけて進み、目的の地下8Fまで来た。
ダンジョンはこれより下の階層まで続いており、宝箱の内容も豪華になっていくのだけれど、この階で一度『出口』が存在するはずだ。
つまり、この地下8Fは特別で、以下の三つの階段が存在する。
Ⅰ『地下7Fと8Fを繋ぐ階段』
Ⅱ『地下8Fと9Fを繋ぐ階段』
Ⅲ『地下8Fと地上への出口を繋ぐ階段』
Ⅲの出口は、鉱山をはさんで反対側の地上に出ることができる。
ゲームではそちらで魔境イベントが起こり、国力を上げるために重要な新素材を獲得できるはずだった。
この世界で同じことが起こるかどうかはわからないけど素材自体は存在すると思うしな。
ひとりでサクサクとダンジョンを進んできたのはそのためなのである。
「出口はどこかなー」
というわけで出口を探して進むのだが、先にボス部屋を発見したので中にいたアーマー・ベアーを倒し、この階層の魔物を消しておく。
さらに地下へ降りる下り階段を見つけたのでマップに記すだけはしておき、さらに半日ほど探索するとやっと出口の上り階段を見つけた。
ちなみに、この階段は地下8Fから地上まで続くのでめちゃ長い。
「はーはーはー、階段長すぎ……(汗)」
このへんがゲームではない現実の大変さである。
愛宕神社みてーに急な階段を息を切らしながらひたすら上っていく俺。
やがて鉄の扉があらわれ、ぜーぜーと上がった息でそいつを開くと洞穴へ繋がる。
「眩ッ……」
洞穴を進むと陽の光が目に飛び込んできた。
外だ!
目が慣れるまでジっとしていると、次第と景色が判然してくる。
洞穴の出口は岩場の相当高い位置にあった。
見下ろすと森の木々が足下にあり、ちょっとビビる。
俺は気を付けて岩の凸凹に足をかけながら、ボルダリングの逆バージョンのようにして岩山を降りて行った。
チュンチュン……
地上へ降りるとそこは魔境とは思えぬほどのんびりとした森だった。
小鳥がさえずり、ところどころ陽だまりが朗らかに草花を照らしている。
ここを進めば確かマギル族という部族の集落があったはず。
「kf8y!」
そう思った時、知らない言葉でなにか怒鳴られる。
振り向くと、そこには腰蓑に屈強な肉体の男が立っていた。
マギル族の人だ。
「あ、えーと、どうも」
「yd♯$……??」
どうやら言葉が通じないようだ。
男は怪訝そうに首をかしげている。
困ったな。
ゲームじゃそんなことなかったんだけど。
俺は苦し紛れにニンマリと笑顔を作った。
「kィdう!!」
するとそれが癇に障ったのか、男は急に持っていた槍を俺の顔先に突きつけ威嚇してくる。
ヤバ……
あわてて敵意のないことをジェスチャーで表現しようと試みる。
「p;ku……?」
「rya・」
「~¥##る!」
そうこうしていると、森の茂みから同じような姿の男たちが集まってきて、あっという間に2、30人に囲まれてしまっていた。
どいつも腰蓑に上半身は裸で、男らしく分厚い胸板をしており、健康的に灼けた肌は小麦色をしている。
そして、最初の男が警報のような声をあげると、めいめいが槍や弓のような武器を構えてこちらに敵意を向けるのだった。
これだけ囲まれると『身躱し』は無効だし、物理力では勝ち目はない。
攻撃魔法が使えれば勝てそうだが、さっき地下8Fのボス戦で使ってしまってMPがないし。
なんとかスキを見て逃げるしかねーな……
「l&5%Y……!」
その時だ。
男衆のゴツゴツした体躯の密集した中から、若い女がひとりあらわれた。
男たちは『ははー』って感じでその場に膝をつく。
そんな中を堂々と闊歩してくる女。
彼女も他の者と同様に腰蓑のみの服装だったが、磨かれた石の装飾具をふんだんに纏い、とりわけ絢爛な首飾はまる出しの乳房を権威あるものに飾り立てていた。
周りの連中のかしこまった様子からも、彼女が長であることがわかる。
こいつと話が通じれば助かるかも。
「あのですね、俺はけっしてあやしい者じゃなくて」
「……」
必死に弁明する俺を、女はニコリともせずに宝石のような瞳でジッと見つめていた。
つーか、近くで見るとけっこう可愛いな。
ただ美人というだけでなく釣った目と小麦色の肌がエキゾチックな魅力を放っている。
「t’#spzれ」
「へ?」
そんなのんきなことを考えていると、女は俺への処置を決めたらしく周りの者たちへ何か命令を発した。
跪いていた2、30人の男たちは一斉に立ち上がり再び詰め寄ってくる。
「ちょ、待て。話せばわかるから……(汗)」
そして彼らは俺の身体を何か蔦のようなものでふん縛り、あたかも獲物を運ぶがごとくえっさほっさと集落へ持ち帰って行くのだった。




