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第46話 ごきげんよう



 王都から帰ってきて、俺んちは少しデカくなっていた。


 ジョブ『大工』に増築&リフォームしてもらったからね。


 もともと。


 俺んちは”領主の館”とは言え、そうたいしたもんじゃなかったんだ。


 ちょー具体的に言うと二階建て4LDKだった。


 1階にリビング・ダイニング、キッチン、客間(8畳)、子供部屋(8畳)。


 2階に寝室(8畳)、書斎(10畳)。


 もともとは親父とおふくろが二階の寝室で寝て、俺とヨルとラムは1階の子供部屋で寝ていてさ。


 子供が2階へ上がることは許されず、もし好奇心で階段を上るとひどく怒鳴られたもんである。


 オヤジが死んでしまってから書斎は俺の部屋としてベッドを置いていて、結婚後、妻たち(村の少女2人)は寝室でおふくろと寝るようになっていた。


 これでさらに女騎士ナディアがとついで来ることになると部屋割りが厳しくなる。


 新たに大きな家を建てるということも考えたけれど、家族は今住んでいる家に愛着もあり、特におふくろのことを考えると建て替えはしたくない。


 そこで、もとの家の隣にもうひとつ家を建てることにした。


 別館ってワケだ。


 ただし、元の”旧館”と”新館”の間には『連絡路』を作って行き来ができるようにする。


 □_□

 □_□

旧館 新館


 こんな感じに、旧館の2階と新館の2階を『連絡路(空中渡り廊下みたいの)』で繋いだんだ。


 まあ、前世の学校とかデパートとかの建て増しを参考にしたんだけどな。


 これなら二棟で一つの家のように使うことができて、家族の人数も増やせるってワケ。


 新館の構成はこう。


 1階には客間(16畳)と客が泊まる部屋三つ(10畳)(8畳)(8畳)を配置。


 2階には俺の部屋(10畳)と部屋三つ(8畳)(8畳)(8畳)。


 そうなると、本館の1階には客間が不要になるので、子供部屋にいた弟たち(ヨルとラム)へそれぞれの部屋を作ってやることができる。


 2階の寝室はそのままにしてやり、書斎はなるべく親父が使っていたままを残しておくことにした。


 当然ながらリフォームを最も喜んでいたのは弟たちである。


 特にヨルはずっと自分の部屋が欲しいって言ってたからね。


「やったー! 自分の部屋だー!」


「わーい!!」


 こうして大きくなった俺んちだが、北側の土地を獲得したことによってまだ増築の余地があった。



――――――――――――――――

     ガゼット領   川

 □□□□□□□□□□□□川□□

  □□□□□□□□□□□川□□

   □□□□□□□□□□川□□

    vv□□〇〇□□□川□□

     vv□〇〇□□□川□□

ライオネ領 v□◎◎□□□川□□

      v□◎◎▲□□川□□

      v□墓□□□□川□□

――――――――――――――――

□=ダダリ領

◎=旧館

〇=新館

▲=神木

V=堀



 もともと西はライオネとの領境、南には先祖代々の墓が、東には神木があって増築スペースはなかった。


 今回増築した新館は北側に建てているがこれはガゼット領から獲得した領土である。


 地図を見るとそちら側にはまだまだ増築することはできそうだよね。


 まあ……現状これ以上家を広くしても使い道がないのでやらんけど。


 それよりもこの北側の土地には『食客』を囲う宿を建てたいと思っていた。


 世の中、特別な能力を持っているが自由な身分を好んで仕官せずにフラフラしているヤツってのはいる。


 例えば、冒険者とかフリーの魔術師とか。


 そういう連中に「お客さんでいいからウチに滞在していてくださいな」と言って半分住んでもらうというワケ。


 これまで館の増築をやっていた大工は6人だったのだけれど、彼らには続いて『宿』を作ってもらうことにした。


 あとは、そうだな……


 うちの南や東については庭や広場を整えたり、離れの風呂を作ったりとかならできそうかも。


 神木を望みながら風呂に入れたらさぞ幻想的だろう。


「神木か……」


 俺は家の前の神木を見上げて思い出した。


 そう、明日はナディアとの結婚式。


 嬉しいっちゃ嬉しいけど、こっ恥ずかしいんだよな。


 そんなふうに思っていた時。


 ヒヒーン……!


 青空に馬の嘶きが響く。


 うちの領地に馬はない。


 森の方だろう。


「若ッ! 大変でやんす!」


 そこでジョブ『忍者』のリッキーがあらわれて騒ぐ。


「どうした? またどっかが攻めて来たのか?」


「そ、そうじゃなくて……じょ、じょ……」


 相当あわてていたのか、リッキーは二、三度噛んでからやっと発音した。


「じょ、女王陛下がいらっしゃったでやんすよお~!」



 ◇



 スレン王国の女王ニーナ様が、この辺境の地ダダリにいらっしゃった。


 もちろん『お忍び』ではあるが、それでも三台の馬車に数十名の護衛をつけている。


「めちゃ目立つなあ……」


 とりあえず一団には堀を迂回して、北の空き地で待機してもらおう。


「アルト様!」


 馬車から絹のストールをかぶった少女が手を振っていらっしゃる。


 ニーナ様だ。


「アルト様。ごきげんよう♪」


「はあ、どうも」


 ごきげんようじゃねーよと思ったがひざまづいておく。


「えーと、ちょっと待っててください。客間を用意しますので」


「承知致しましたわ」


 俺は館に戻っておふくろに事の次第を伝える。


「女王様だって! な、なんてこったい……」


 おふくろは飛び上がって、なにやらブルブルと震えだした。


 まあ、そりゃこんな田舎に女王がやってきたらビビるか。


 とにかく客間やお茶の準備などを頼み、俺は女王の案内へ戻る。


 つーか、新館に客間を新調しておいてマジよかったよ。


「女王様。こっちっス」


「ええ、お邪魔致しますわ」


 こうして中へいざなうと、ドレスの少女はたくさんのレエスやフリルを舞わせながらソファーに腰掛けた。


 改めて近くでみるとスゲー美少女だな。


 整った顔立ちに高貴な雰囲気。


 ちょいキンチョーする。


「で……女王様、この度はどういったご用件でしょう?」


「どうもこうもありません。アルト様ったら、授与式典が終わった後すぐにお姿を消してしまうのですもの」


「あ、それは……」


 もしかして、褒美の授与式が終わったからって挨拶もなしに帰ったから怒ってんのか?


「す、すいません。あの時は事情があって(汗)」


「いいえ! 謝る必要などございませんわ。そもそもわたくし、あのようにダンカン塔で命を助けていただいて本当に感謝しておりますのよ」


 ほっ……


 どうやら怒っているワケじゃないらしい。


「勲一等を授けは致しましたが、それはどこまで行ってもおおやけなもの。どうしてもわたくし自身で直接お礼申し上げたかったのです。それでいてもたってもいられず……こうして来てしまったというわけですの」


「そうですか」


 ずいぶん律儀な女性ひとなんだな。


「し、失礼いたします」


 そこでドアがノックされた。


 振り向くと、おふくろだ。


 なんか真っ青な顔をしている。


「あれ、おふくろ。お茶は?」


「じょ、女王陛下様におかれましては、お日柄もよく、ご機嫌うるわしゅうございまして、そ、それから、それから……」


 なんかバグってね?


 言葉づかいがワケわかんねーぞ。


「おふくろ。落ち着けって。ほら、深呼吸」


「そ、そうだね……はー!はー!はー!」


 違う違う! それは過呼吸のヤツだ(汗)


「困ったなあ。女王様、どうもすみません」


「いいえ。それよりお母さま、大丈夫かしら?」


「は、はひ。大丈夫でございまする」


「大丈夫じゃねえな……」


 そうは思ったが女王がやさしかったのもあって徐々におふくろも正気を取り戻していった。


 正直、俺だけじゃ何話していいのかわかんなかったから助かったかもね。


 おふくろは次第に調子を上げて雑談をもって女王を喜ばせるようにまでなる。


「そういうワケで今の楽しみはアルトとナディアちゃんの結婚式なのでございまする」


 相変わらずヘンな敬語だけど。


「ええ、ふたりの結婚はナディアからうかがっております。式はいつになりますの?」


「一応、明日なんですけどね」


「あら、ちょうどよかったですわ!」


 俺が答えると、女王は立ち上がって目を輝かせる。


 なんだ?


「実は、ちょうどアルト様へのお礼にと王都から結婚式の衣装をお持ちしましたの」


「それはなんてありがたき幸せ……ねえ、アルト?」


「あー、うん」


 服なんてなんでもいいじゃんと思ったけど、せっかくの厚意なのでまあ頷いておく。


 すると、女王はさらににじり寄ってこう続けた。


「何着か持ってまいりましたから、どうぞこれから試着なさってくださいまし」


「こ、これから?」


「ええ! アン、お願い」


 女王はお付きのメイドに命じて、馬車から衣装を取りに行かせた。


 あの三台の馬車にはそんなものが積んであったのか。


「それではお母さま。後のことはわたくしどもにお任せを」


「え、でも……」


「おまかせを」


 ティララーの少女がニッコリとほほ笑んで言う。


 その圧に恐縮してか、おふくろはすごすごと客間を去った。


「じゃ、じゃあアルト。がんばるんだよ」


 あれ、なんだか怖くなってきたんだけど……


「ニーナ様。お持ちいたしました」


「待ってましたわ!」


 女王は飛び上がって、メイドが持ってきた衣装ケースをいそいそと開いた。


「さあ、アルト様。ご試着なさいませ!」


「は、はあ?」


 俺は意味がわからず首をかしげる。


 というのも、女王が満面の笑みで手にしていたのは、純白のウェディングドレスだったのだ。


「ナディアに持ってきてくれたんですか?」


「いいえ。女装が趣味のアルト様のために新調したドレスですわ」


 はい?


わたくしはこれでも一国の女王。それなりに情報収集の手段は持っていましてよ。アルト様の趣味が女装だという情報くらいすでに存じておりますの。これは先日助けていただいたお礼。さあ! お召替えなさいませ!」


 そう言って女王とメイドは無理やり俺の服を脱がせてくる。


「ま、待て待て待て!」


「おほほほ! よいではありませんの。よいではありませんの♪」


 ヤベーくらいノリノリな女王と、無口無表情で手を貸すメイド。


 つーか、このメイドはダンカン塔で一緒に助けてやった子じゃねーか。


「誤解だって! 俺に女装の趣味なんかない。情報はデマですよ!」


「え……?」


 たまらず叫ぶと、女王とメイドは顔を見合わせて驚愕の表情かおになる。


「本当ですの?」


「はい! マジです!」


「そ、そんな……」


 女王はその場にへたり込み、しくしくとお嘆きあそばれた。


 その肩をやさしくさする無口なメイドが、俺の方をキッとにらんで尋ねる。


「アルト様。それでは一度も女装などしたことがない、と?」


「え? あー、いや、それは……」


 ないと言ったらウソになる。


 王都から脱出するときにステラにさせられたからな。


「ないことはないけど……」


「ではよいではありませんか!」


 いや、意味わからんから。


「いいのですよ、アン。私が間違っていたようですわ」


「でも……!」


 怒るメイドを制して女王が続ける。


「よくよく考えてみるとこれは単なる私の欲望だったのかもしれません。それをアルト様へのお礼と銘打っては不誠実というものですわ」


「ニーナ様……」


 マジで100%当たり前なんだけどわかってくれたみたいでよかった。


 あとはなるべく早く帰ってくれると嬉しい。


「ので、真摯にお願い申し上げることに致しましょう」


「え?」


 その時。


 女王は両ひざを床に付いたかと思えば、両手をそろえ、頭を前に伏せ……つまり『土下座』のポーズをして言った。


「アルト様! どうかわたくしの欲望のために女装なさってくださいまし!!」


 なりふり構わなすぎだろ!?


「ちょっと女王様、DOGEZAとかマジやめてくださいって(汗)」


「やめませんわ! アルト様がうんとおっしゃるまで!」


 なんだこの女王、厄介すぎるぞ。


「わかったわかった。わかりましたから!」


「本当ですの?」


 う……


 まあ、いいさ。


 女モノのドレスを着てやるくらいちょっと恥ずかしいですむ。


「は……はい。その代わり、気が済んだら帰ってくださいね」


「感謝いたしますわぁ!」


 女王は飛び上がって、衣装ケースから純白のパンティとガーターベルトを取り出して言った。


「では、まずこのウェディング・パンティからお召しくださいまし!」


 なんかハードル上がったし(汗)



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