第45話 そりゃあ、よろしくお願いします
褒美の授与が終わった後。
ルビス公爵令嬢はプリーツ・スカートをヒラリヒラリとひるがえしては俺の姿を探し回っていた。
「どこへ行ったのですか!? アルト辺境爵……いや、アルト子爵!」
普段はクールな令嬢が時おり声を裏返して叫んでいるものだから、会場の貴族たちはさぞ驚きであろう。
で、俺はと言うと、それを見越して式典の途中でテーブルの下に身を隠していたのである。
どうにもああいう級長タイプの女子は苦手なんだよ。
前世の中高時代によく叱られた記憶があるからかもしれん。
ダンカン塔での救出のことを詳しく聞かれても面倒だしね。
「……ナディア」
俺はテーブルクロスの中からナディアの足をつついて呼ぶ。
「むっ、アルト。そんなところでどうしたのだ?」
「しー」
俺はナディアへ向かって人差し指でジェスチャーする。
「面倒だからこのまま帰ろう。令嬢が離れたら教えてくれ」
「なるほど。わかった」
こうしてルビス公爵令嬢に見つからないタイミングでテーブル下を脱出すると、ナディアと共に城を去った。
「まったく困った女子だ。あのようにしつこく付きまとわれても困るだけというのがわからないのだな」
「そ、そうだね……」
それをお前が言うか、という言葉を一応吞み込んでおく。
「そんなことより早く帰ろうぜ。領地に帰ったら結婚だ」
「うむ」
女騎士は『勝負しろ』と付きまとっていた頃とは違って、常に鉄仮面姿というわけではなかった。
鎧こそまとっているもののあのフルフェイスの鉄兜は外して、神話のような美女の素顔を青空の下にさらしている。
「でも本当によかったのか? ナイト爵を返上してしまって」
「もちろんだ。夢ができたからな」
「夢?」
「うむ。私は……そなたの子を産みたい」
一陣の風が吹く。
女の黄金の髪を美しくなびかせて、朗らかな頬へ陽が照った。
「……そっか」
俺は「そりゃあ、よろしくお願いします」とだけ返して、領地ダダリへと帰る馬車へナディアを誘った。
◇ ◆ ◇
城のとんがり屋根のてっぺんに、鳥のごとく立つ一人の男があった。
「なりゆき、か……」
男はこの王都の街から一台の馬車が去っていくのをぼんやりと見下している。
「……勇者」
その時、彼の背後から声をかける者があった。
黒いローブをまとい、空中に浮遊する妖しい影。
フードを深くかぶっていて顔は見えない。
「あんたか。やはりアイツが気になったのか?」
「そうね。気にならないと言ったらウソになるわ」
黒ローブはそう言ってため息をつく。
「それで、どう? なぜ彼は私たちの異世界改革を邪魔するのかしら?」
「よくわからないな。なんでも『なりゆき』らしいから」
「なりゆき?」
男の方はククク……と笑って続ける。
「そう。なりゆきだってさ。おそらくあの騎士の女を助けたかったんだろう。それだけに膨大な能力を使い、命を懸けてダンカン塔を攻略したんだ。なんら理想もなくね。まったく……転生者というのは変わり者が多い」
「どういう意味よ」
「アイツは変わってるし、アンタもたいがい変わってる。そのくせ自分ではごくごく平凡な人種だと思いこんでいるのがケッサクだ」
「……今日はけっこう言うじゃない」
「ククク、そうかな? でも安心しろよ、魔王。僕はアンタの『戦争と権力のない世界を創る』って理想に惹かれているんだ。あんな理想の無いただの女好きなんか、アンタが望めばすぐにでも殺してきてやる」
「勇者……」
黒ローブからかすかに魔族の女の顔がのぞく。
男はその褐色の頬へ慈しむように指先を触れた。
◇ ◆ ◇
俺とナディアが領地ダダリに帰ると、命令してあった建設がいくつか完了していた。
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・『魔法研究所』のグレードを上げる。→70%
・『祠』を進化させる→☆完了『祠(中)』に進化。
・『訓練所』のグレード上げる。→60%
・鉄の錬金工房をもう一つ増設する。→☆完了
・堀の上に『城壁』や『矢倉』を建設する。→50%
・領民たちの家屋を増築したりリフォームする。→30%
・俺んちをデカくする。→☆完了
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鉄の錬金工房が増設されて2棟になったので、鉱山から採れた原石から『鉄の延べ棒』を作るスピードが上がる。
これまでは鍛冶屋のアイテム生産スピードの方が速かったから、常に“延べ棒待ち”の状態だったのだけれど、こうなるとさすがに延べ棒が供給されるスピードの方が速くなりそうだ。
すると、鍛冶もまた増やしたくなる。
さしあたって鉄の錬金工房の増設をやっていた2名の大工に、鍛冶工房の増設を命じておくか。
祠が進化して祠(中)になったが、コイツはまだまだ進化が必要だった。
祠(中)からは(上)に進化するけど、そこからまた進化すると『社』になる。
なるべく早く社にしたい。
というのも、社ができると、神官たちが草類を合成してポーションを作ってくれるようになるのである。
ポーションにはただの薬草より回復量の高いモノや、敵のデバフから復帰するモノ、一時的に炎耐性や水中耐性を付与できるモノなどあって、これから魔境の先を攻略するには必須になってくるんだ。
魔境の先を攻略すればまた新たな草の種子が手に入り、ポーションの種類も増える。
これもゲームでは一つの重要なサイクルだった。
というわけで、祠(中)には引き続き大工3人をつけて工事させておこう。
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領地:ダダリ
領主レベル:5
領土:2000コマ
人口:800
兵力:90
魔法:35→37
産業:農101→104 工178→180 商75→81
施設:家屋150→165 畑9コマ 水車1 訓練所1 祠(中)1 魔法研究所1 鉄の錬金工房(中)1
資源:→鉄、塩
外貨:+3460万G/-923万G
内貨:――
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領地のデータを見てみると、産業の伸びがやや鈍化している。
でも、もうちょっとの辛抱だ。
社ができるか、船大工への進化で船を作れるようになるか、魔法研究所が進化するかすれば、またグンと成長するはず。
そしたら次の魔境地区へ進むこともできそうだ。
対人戦以上に魔境の攻略は大事な成長ファクターだからな。
最後に俺のステータス。
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領主レベル:5
称号:転生子爵
HP:424
MP:177
ちから:230
まもり:197
魔法:亜空間C、ほのおE▽
特殊技能:ステータス見、痛覚耐性、移動速度2倍、身躱、壁抜け
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これはダンカン塔攻略の前と比べてちっとも変っていない。
俺の能力ステータスは領地の成長によって上がるので、先日の戦いは別にレベルを上げたりしないからね。
ただし、一つだけ変わっているところがある。
それは称号だ。
「オヤジ……俺、子爵になったぜ」
俺はダダリの前領主トルティの墓の前でそうつぶやいた。
正直、前世の感覚からすると爵位や階級なんてピンと来なかったから、城で女王から授与された時は『つまんねえ褒美だなあ』とか思ってたけど……
なんだかこうしてオヤジに報告していると、それほど捨てたモンじゃないような気がしてくる。
もしオヤジが聞いていたなら『ふん、そうか』って感じで不機嫌そうに答えて、でもその日一日を通すと大変機嫌よさげなのがわかるみたいな、そういう不器用な男の喜び方をしたに違いない。
「ダダリはまだ強くなる。もうちょっと見ておいてくれよな」
そう残して踵を返した時、ちょうどおふくろがこちらへ向かっているのが見えた。
「アルト! こんなところにいたのかい!」
「ッんだよ、おふくろ。墓参りくらいゆっくりさせろよ」
「ふん。今度ゆっくりしたらいいさ。でもね、あんたは明日ナディアちゃんとの結婚式を控えている身なんだよ?」
「う……」
結婚は好きだけど、結婚式だけは何度やっても逃げたくなる気がする。
「着るモノ、準備するコト、山ほどあるんだ。さっさと帰ってきな!」
「ひーッ(汗)」
こうして俺はおふくろに引きずられて家へ帰るのだった。
第五章『王都事変』おわり
ここまでの内容で本にしたとき1巻分くらいになるように書いてきました。
ぜひ次章もお楽しみに。
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