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第1話 前世の記憶


 俺には前世の記憶がある。


 今とは全然違う異世界の、日本という国で昭和、平成、令和とただ「生きるため」に生き、39歳で死んだ記憶だ。


 まあ、今そんな誰も知らないような世界の話を始めたら、周りからヤベーやつあつかいされるだろうから誰にも言っていないけどさ。


 そう。


 今世には今世の人生とか人間関係とかあるしね。


 ん? そりゃどういう人生かって?


 ……あれは13年前。


 俺はとある辺境領地を治める弱小貴族『ドワイド家』に生まれた。


「オギャー! オギャー!」


 まあ、あとから考えればおかしかったんだよな。


 こうして赤ん坊らしく泣きわめいてはいたものの、俺には生まれたこの日からぼんやり自我があって今も当時の父や母のめっちゃ若い姿が記憶に残っているんだから。


 それから弟が生まれたり、平和ながら家族的な事件とかは毎年いろいろありつつも……


 現在。


 ドワイド家は以下の5名から成っている。


父:トルティ

母:ネネ

長男:アルト(←俺)

次男:ヨル

三男:ラム


 男兄弟ばかりだが、相続形態は長子相続だ。


 よって、長男である俺は「やがてオヤジの領地を継ぐことになるんだろうな」とは思っていたのだけれど……


 さらにそう確信したのは、13歳の成人の日に『領地のステータス』が見えるようになったことだった。


 もちろん初めはびっくりしたさ。


 なにせ、目の前にこんな光の文字列が浮かんでいるのである。


―――――――――

領地:ダダリ

領主レベル:0 ▽

領土:450コマ

人口:750

兵力:2 ▽

魔法:0 ▼

産業:農70 工5 商5 ▽

施設:家屋150 畑70コマ 水車1 ▽

資源:――

外貨:+456万G/-897万G

内貨:――

―――――――――


 でも、このステータス。


 どっか見覚えがあるなあ……ってところから、前世の記憶を思い出したんだけどね。


 そう。


 これは俺が前世でプレイしていたPCゲームTOL(テリトリー・オヴ・レジェンド)のステータス画面そのものだったのだ。


 ――TOL(テリトリー・オヴ・レジェンド)。


 このゲームは、剣と魔法のファンタジー世界を舞台とした領地開発シュミレーションゲームである。


 ようするに領地に施設を建設したり、騎士や魔法使いを育成したりして、領地を発展させていくゲームだ。


 特徴としてはオンラインモードが充実していること。


 内政で国力を上げれば、魔境や他プレイヤーの領地を攻めて自分の陣地を広げることもできる――


 ゲームそのもののクオリティはもちろん、有名ゲーム実況者たちに愛好されたのもあって、超人気タイトルであった。


 前世の俺もだいたい4千時間くらいはプレイしたっけ。


「ええと、確かこの▽を押すと詳細が見れるはずだったよな」


 俺はまず『領主レベル:0』の横の▽に触れてみる。


 これは領主個人の能力値だ。


―――――――――

領主レベル:0

称号:転生(次期)領主

HP:7

MP:0

ちから:4

まもり:2

魔法:――

特殊技能:ステータス見

授与可能ジョブ:――

―――――――――


 なんとも頼りない能力値だった。


 だけど、領地を強くすれば領主の個人能力も上がる。


 領主の個人能力が上がれば、また領地を強くする手立てが増える。


 この循環がTOLのシステムだ。


 じゃあ領地を強くするには具体的にどうすればよいのか?


 その基本が『領民にジョブを与える』という行動である。


 農民、神官、大工、鍛冶、騎士、占い師、魔道士……


 領民をいろいろな職に就けて、彼らに作物を育てさせたり、施設を建設させたり、魔法を開発させたりして、国力を高めるのだ。


 でも、肝心の『授与可能ジョブ』が空欄なので、その基本行動が取れないんだけど?


 まあ、これは俺が実際にはまだ領主ではないからかもしれんね。


 領主レベルも『0』なんてのは見たことがないし。


「うん。だいたい一通りは確認できたな」


 他の詳細も見終え『閉じろ』と念じたら、自ずとステータスは消えた。


 チュン、チュン……


 すると、いつものやかたの天井や庭でさえずる鳥の声などに意識が戻り、なんだかあらためてビックリな気持ちが沸き上がって来る。


 ステータスを夢中になって見ている間は驚きも一時停止って感じだったけど……


 なにせ俺はそれまで普通にこの世界の子として育って来たんだぜ。


 マジでいろいろと考えさせられたよ。


 たしかに、今考えるとこの世界はTOL(テリトリー・オヴ・レジェンド)の世界にそっくりだ。


 するとこの世界はマジでゲームの中だったりするのだろうか?


 いや、でも……


 ゲームにしてはちゃんと人が暮らして、日々メシ食ったり、喋ったりしている。


 空があり、山があり、ひとりひとりに人生とか感情があるようには見えた。


 何よりもステータスには『称号:転生(次期)領主』とあったんだから、ここは生まれ変わるだけのまとまった『世界』なのだと思われる。


 つまり異世界ってワケだ。


 問題はその異世界がなぜこんなにもTOLに似ているのか、だよな。


 逆にTOLというゲームがこの異世界の反映だったとか?


 あるいは、この世界から日本に転生した人間があのゲームを作ったっていう可能性もある。


 まあ、そこらへんは考えてもわからないか……


 もう少しわかりそうなところから判明させていこう。


 まずは、ゲームとこの世界がどれほど近似しているかってとこかな。


 俺は13歳で領地のステータスが見えるようになったけれど、もしかしたらこの世界の領主(あるいは成人した次期領主)はみんな見えているのかもしれない。


 そう思って、ある日さりげなくオヤジに聞いてみたのだけれど……


「ステータス? 何を言っておるのだ」


 そういうわけではなさそうだ。


 まあ、よく考えてみれば、ドワイド家の領地【ダダリ】のステータスは初期状態以下で、もし見えているとしたらもう少しなんとかしそうなものである。


 領地の力が小さくてもスローライフで何の不満もなくのんびり暮らしているとかならともかく、領地ダダリは近隣からマジでナメられまくっていたからな。


 産物はほぼジャガイモ一本で、他の産業を育てようにもよそからモノが入り、いつまでも国力が上がらない。


 国力が上がらないから兵力は極めて低く、王からの要請に対してもろくな兵を送ることができなかった。


 そして、王都から召集がかかると文官やよその領主たちからコケにされ、オヤジはいつもそれを嘆いては安酒をあおっているのだ。


「ちくしょう。北のガゼット領、南のベネ領、西のライオネ領、みんなウチをあなどりやがってよぉ。……ういっく」


 俺が純粋に13歳の子供だったら『こういう大人にはなりたくない』と思ったろうな。


 でも、前世の日本で39歳まで生きた記憶がある身としては、なんだか身につまされる思いがあった。


「オヤジ、飲みすぎはよくねえぜ」


「ああん?」


「元気だしてくれよ。俺がきっとこの領地を強くしてみせるからさ」


「……ふん、子供ガキのクセにわかったような口をくな」


 そう言っていつも強がるオヤジだったが……


 ある年、やっぱり飲みすぎがたたったのだろう。


 庭先で急にぶっ倒れたかと思えば、そのままくたばっちまいやがった。


「アンター!」


 泣き叫ぶおふくろ。


 弟のヨルとラムも「父ちゃーん」と泣いている。


 家の中じゃ威張り散らしたオヤジだったけど、この時のドワイド一家の喪失感ったらなかった。


「……アルト。これからはあんたがこの家を、領地のおさになるんだよ」


「おふくろ……」


 これが16歳の年のことである。



ご覧いただきありがとうございます!


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