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ホテル

作者: みくた

 俺の名は芝浦。大学生で今はバイト中の身である。今日は俺のちょっとした日常を紹介しようと思う。

 俺がやっているバイトは、ビジネスホテルのベルボーイだ。

 本来、ベルボーイはちゃんとした研修を受けなければならないのだが、夜間は俺のようなバイトのベルボーイもどきが働いている。

 そして、深夜ともなるとチェックインする客も少なく割と暇なので、俺はよく人間観察をしていた。


 あの外国人、素人目にもわかるくらい良いスーツ着てんなー。いくらすんだよ。

 俺も将来あんなスーツを着てみたいもんだね。


 おいおいあの経営者風の爺さん、ハーフの秘書連れてるよ。あれで夜のお世話もしてくれるんだろうか

 うーむ、なんとしてもあの立場にならねば・・・


 お、今度は随分若い連中が来たな。

 あの喋り方と声、知ってるやつに似てんなぁ・・・なぁ!?


 ここで俺は気づいた。

 本人じゃん!

 こいつは中学時代の悪友で、事あるごとにいたずらを仕掛け合っていた松島だった。

 高校はスポーツ推薦で名門校に行き疎遠になったが、風の噂でその後も好成績を残しつつ、順調に競技を続けていると聞いている。

 俺はというと・・・


ほわほわほわ〜ん(回想開始)


「あー!ふざけんな、チート使うなや!」

「おい、梅田。うるせーぞ。」

「いや、だってよ芝浦。相手にチーターがいたんだぜ?」

「オメーが下手なだけじゃねーの?貸してみろ。」


「・・・ふざけんなやチーター!ぶっ殺すぞ!」

「芝浦、コントローラー投げんな!落ち着け。」

「なんだよこれ、チーターしかいねぇじゃねぇか。」

「だろ?」

「別のゲームやれよ。・・・ちょっとコンビニで酒買ってくる。なんか飲むか?」

「ストゼロとピザポテト。」

 あー、この流れだと明日は二日酔いだな。


ほわんほわんほわ〜ん(回想終了)


 何してんねん!俺!

 こんな姿をあいつに見られるのは流石に気まずい。ここは上手くやり過ごそう。


「ほら芝浦君、お客様の荷物をお持ちして。」

 チーフが行ってくださいよー。と言いたかったが、どうやら俺には犬の遺伝子が入っているらしくそのまま指示に従った。


「いらっしゃいませ。お荷物をお持ちします。」

 俺は顔を若干変形させ、声を1オクターブ高くし対応する。

「おー、芝浦じゃん!久しぶりー。」


 瞬殺


「・・・松島か。どうしてここに?」

「部活の強化合宿の帰りで、協会がここのホテルを取ってくれたんだわ。まあ、オリンピック強化選手はまだやるみたいだけど」


 ピクピク(ダメ虫)


 強化合宿ぅ?何でこいつらみたいな二軍がベルボーイつきのホテルに泊まれるんだよ!?こんな奴らは最低限のビジネスホテルで十分だろ!

 ・・・いかんいかん、落ち着け俺。かつての友人にダメな虫を動かすなんてみっともないぞ。


「にしてもお前がベルボーイとはなぁ。可愛い帽子なんてかぶっちゃって」

「その制服のままあっちの方も世話してくれんの?」

 競技仲間達が下品に笑う。


 ピクピクピク


 そして、俺は荷物を持って松島達を部屋に案内した。

「こちらがお部屋になります。」

「おう、ありがとな。これチップ。」

 松島が一枚の紙幣を差し出す。

「え?マジ?」

 本来、チップはサービス料に含まれているため必要ないのだが、たまに外国人が勘違いして渡してくる事がある。

 しかし、受け取ってみるとそれは紙幣ではなかった。

「それ人生ゲームのお金。」

 またも仲間達から下品な笑い声が響く。


 ピクピクピクピク・・・ピクンッ!

 カサカサカサカサカサカサ・・・


 ダメ虫達よ・・・もう止めはしない。

「えー、お客様の選ばれました宿泊プランはこちらのドリンク、軽食が全て無料となっております。(ダメ虫モード発動中)」

「え?このカクテルも?」

「はい。(ダメ虫モード発動中)」

「じゃあ、このお茶漬けも?」

「はい。(ダメ虫モード発動中)」

「 マジか。すげぇ。」

 ここだ!

「あとな松島。」

「うお!?なんだ、いきなり素に戻んなよ。」

「ここのアダルト、各種大量に揃えてあるから見ないと人生損するぜ?」

「ふっふー!マジ?そりゃ良い事を聞いた。ありがとな。」

 そして、松島達は部屋に消えて行った。

「ククク・・・バカめ。掛かったな。」

 松島達が完全にいなくなると、俺は静かに笑った。

 しかし、俺は嘘はついていない。松島達の宿泊プランはドリンク、軽食が全て無料だ。だが、アダルトだけは違う。


 その後、勤務の合間にフロントで松島達の部屋の有料チャンネル使用のランプがずっとついてる事を確認した。

 あいつらどんだけ見んだよwww

 さすがにアダルトチャンネルの料金の領収書を協会名義で切るわけにもいかず、渋々自腹を切ることになるだろう。

 やつらがチェックアウトする時間帯には既に俺の勤務は終わっている。


 そして、勤務が終了し帰り際に調理担当から、バランスの取れた食事をしなさいと野菜スープの缶詰を貰った。

 俺は社会に生かされている事を実感し、夜明けの街へと消えて行った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、確かに芝浦さんは嘘は言っていませんね。 ここで松島さん達が「アダルトチャンネルも無料サービスなのか?」と確認してきたなら話は変わってきますが、松島さん達が宿泊プランを勝手に勘違い…
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