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第三話 不審者到来!

某研究所内、日刊紙に載っていた九畳のリビングで俺は春の心地よさを感じながらソファーに寝転んでいた。


「春はいい!高校生カップルが一番別れる季節だから!」


 春風に吹かれ、能天気になっていた俺はここ一週間を自堕落に生活していた。


「暇な時間は、かけがえのない財産だな……!」

「俺のこの時間を邪魔す——」


 リビングルーム内にインターホンが鳴り響いた。

 邪魔する者は許さないと言おうとしたが、配達員さんは例外だ。


 なぜって?能天気な俺は人生初のオ×ホを通販で購入したのだ……!

 しかし、今まさに秘従が隣の研究室で研究に没頭している。


 慎重に入手し、運び出さなければならない。

 難易度は魔王レベル。バレたら、魔王秘従にナニをされるか……わかったもんじゃない。

 あっ、別に卑猥な妄想はしなくていいぞ……?絶対有り得ないから。


 リビングを忍足で歩き出し、玄関へと到着した。

 全国の思春期男子諸君も音を立てずにあんなことやこんなことをしてるんだろぉ?俺もそうだったよ……春ってなんか感慨深いね。


 別の意味で春に心地よさを感じてきた俺はドアに手をかけ、ウキウキで開けた。

「はあい」

「弟子にしてください!」

 唐突に上げられた声にビクリと反応し、顔を上げる。

 そこにいたのは配達員さんではなく、屈託のない笑顔を見せる元気なお兄さんだった。

 誰だよこいつ。


「ちっ!」

 お兄さんに舌打ちをした俺は最悪の気分でドアを閉めた。

 変質者がうちに来るとはな……初めて見た。


 ウキウキしてたから、モニターを確認しないで出てしまった。

 ピンポーン。

 再度インターホンが鳴り響いた。

 前回の反省を活かして、モニターを覗き込む。


 モニターから映し出されたのは満面の笑みを浮かべるお兄さんだった。

 顔が近すぎて上半身すら見えていない。

 ……怖っ!怖いよ、こいつぅ……!なんで舌打ちして扉を閉めたのに笑ってるんだよ……!?Mか?Mなのか!?


 どうすればいいのかと頭を抱えた俺は警察よりも頼れる味方、秘従さんを呼ぶことにした。

 今度は急ぎ足で研究室への扉を開いた。

「秘従さん……研究中申し訳ございませんが、不審者が出たので対応をお願いいただけませんか……」


 常識だが、科学者の研究を邪魔するからには、それ相応の対応をしなければならない。

「金ならあります……」

「そんなの別に良いわよ」

 研究に没頭している秘従が俺を視界にとらえずに吐き捨てた。

 あら、やだ男前〜。


「ねぇ、質問なんだけど……不審者ってあなたのこと?」

 そんなマジトーンで聞かないでくださいよ。ほらっ!空気が凍っちゃったよー。


「んな訳ないわ!」

 俺に不審者らしい……らしいことは…………したかもしれない……!

 俺ってもしかして、世の中じゃ不審者扱いの変人なのか!?


「そう。あなたって世間一般的に不審者の部類だから、鏡でも見たのかと思ったわ」

「おい、真剣に頼み込んでたのにそれは無いだろ……」

 なんと俺は世間一般的に不審者扱いの変人のようだ……ショックを隠せませんっ!


「そういえば、さっき言ってた『金ならある』発言はなんなの?嫌味かしら」

 秘従が微笑いながら問いかける。

 俺の方が秘従より金を持っているのは確かだが、殆どが募金からの収入なのでなんとも言えない。


「あぁ……教授が言ってたんだよ。『科学者の研究を邪魔するならば、金を払うんだぞ!』って」

「なにそれ……?私にはそんなこと言ってなかったわよ」

 秘従が頭の上に疑問符を浮かべるが、俺も同じ気持ちである。


 はて……教授はなぜ俺にだけ話したのだろうか?優秀な頭脳を使って、推測していく——


 ……いや、推測するまでもないわ!あのジジイ、俺を騙して金をむしり取ってやがったんだ!!


 「邪魔したから、罰金五万円」とかほざきやがって……!計算すると、騙し取られた額は百五万円にのぼるぞ!


 なにが、優秀な頭脳だよ!ポンコツじゃねぇーか!!

 とりあえず、今度会ったらただじゃ帰さないぞ……!


 こうして、俺のただじゃ帰さないぞリストに二人目が追加されたところで、

「で、不審者ってどこにいるの?」

「あぁ、玄関の前にいる」

 秘従は「ふうん」と相槌を打ち、研究室のドアを開けた。


 ドアが開いたのと同時に、あのお兄さんが俺たちの視界に映った。


「弟子にしてください!」


「「…………」」


 俺はビビっているせいか声を裏返しながら、高らかに宣言した。

「こ、こいつだよ!」

 言うと、秘従が回し蹴りでお兄さんをノックダウンさせた。


「ゴボゥッッ!」

 不審者から不法侵入の疑いで容疑者へとランクアップしたお兄さんはそのまま地面に倒れ込み、失神した。

 ぱねぇっす、姉御!一生ついてきます!


✴︎


「あなた、この人弟子にしてくださいって言ってたわよ」

 確かに言ってたが、Mくさい容疑者を弟子にとるつもりなどない。こっちが風評被害を喰らいそうだ。


「得体の知れない奴を弟子に取るつもりもないし、ちょっとこいつには恐怖心を覚えるわ」

「……そういえば、どうやって研究所内に侵入したのかしら」

 秘従が首をかしげ、視線を容疑者へとやる。


 なんだろう。ホラーゲームだったら不穏なBGMがバックで流れてるんだろうな。

「なんか、怖いわね」

「お前、自分が不穏な空気作り出してるってわかってる?」

 ツッコミを入れたが、秘従には伝わらなかったらしく、ゴミを見る目で俺に威嚇してきた。

 なに、俺悪いことした!?間違ってないよねっ……!?


「とりあえず、縛りましょうか」

 秘従が研究室に転がっていた拘束器具の中から選び出したのは、最近トラウマになったソレだった……。


 拘束されたあの日、二時間放置された挙句、下の穴から水が漏れ出て、目からも涙が漏れたのだった。


 秘従の手によってお兄さんが無残な姿に早変わりした。

 ものの十秒で変えられた姿はさながら、艦隊ものの変身シーンに近しいものを感じた。


 そういえば、お兄さんはMっぽかったし、もしかしたら喜ぶかも知れないな。

「一応、ポケットの中身とか確認しとくか?」

 別にビビってるわけじゃないよ?勘違いはよしてくれ。


「そうね……」

 リビング内に沈黙がはしる。


「…………俺がやるの?」


 唐突のクズ発言。忘れてはいないか?俺はクズなんだ!


「当たり前でしょ!?なんで異性の体を(まさぐ)らなきゃいけないのよ!」

 弄るってなんか卑猥に感じるよなぁ。


 現実逃避をしたとしても、状況が変化することはなかった。

 はぁぁ、嫌だなぁ〜マジで。

 ホラー展開的に急に起き上がって、笑顔で首絞めてきそうだもん。


 意を決した俺は適当に生返事をし、平然を装いながら慎重にお兄さんのケツポケットに手を突っ込む……。


 硬くて、薄い…………スマホでした。


 赤色のケースに入れてるのは、血が付着してもバレにくいからなのか……?

 ダメだ、どうしても嫌なことを思い浮かべてしまう。


 次は、左ポケット……硬いな……。


 ポケットから取り出されたのは研究所の鍵だった——


 意味が分からない。なぜ鍵をこいつが持っているんだ……?

 違うと思うが、念のために聞いておいた。

「秘従……お前の差金なのか?」

 

「違うわよ。私は研究中にイタズラなんかしないわ」

「そうだよな。確かに……」

 秘従の意見には納得いったが、疑問は解決しない。


 俺は天才科学者だが、どこか名探偵さんではないのだ。真実はいつも一つ!とか言っちゃわないんだわ。


 すると、俺の右ポケットから振動が伝わった。誰かからの連絡か……?ちょうど良いし、名探偵さんでも呼んでくるかー。


 スマホを取り出し、弄り始める。

 

 名探偵より先に通知を確認した俺は不審者——お兄さんを見やる。


 ジジイの差金かよ……!

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