第二話 天才の定義とは……?
塵滓研究所。
"元"天才科学者、塵滓狡屑が代表を務める研究所である。
研究員は塵滓を含め二人のみ。研究所はそれに反比例し、東京ドーム一個分の敷地を擁している。
しかしながら、ほとんどの敷地は倉庫として利用されており、基本的に九畳の部屋にて生活をしているんだそうです。
塵滓狡屑とは、名門大学に首席合格し、首席で卒業。現在二十四歳。
在学中にミレニアム賞問題の一つであるホッジ予想を証明し、世界に名を轟かせた。
教授たちには天才と持て囃され、学内で注目の的となった。
そんな天才科学者、塵滓狡屑には隠された本性があったのです。
その本性とは——
女子高校生をこよなく愛するロリコン。
彼の友人によると、『女子高校生のパンチラを見逃さぬよう、洞察力と反射神経のトレーニングをしているのだ。』と発言していたと証言した。
非常に危険な思想の持ち主だということが伺えます。
さらに、友人の証言によりますと、学内では天才と呼ばれていたそうですが、本性が知れ渡ると、「マッドサイエンティストの再来」、「犯罪者予備軍」、「天災」などと呼ばれていたそうです。
まさに、落ちた天才でした!
(編集 田中)
今日の日刊紙を読み終えたところで俺は、
「おい。友人ってお前じゃ——」
「虚偽はないわね」
秘従が俺の話しを切るように言葉を被せてきた。
日刊紙における友人の正体は隣にいる彼女、秘従しかいないだろう。
隣からの追求するなオーラがビシビシと伝わってくる。
つい先日、ぜひ新聞にしたいということで、若造が取材に来たのだが……あまりにも酷すぎる!
取材された内容と全く違うではないか!特に後半!!
落胆の声を上げた俺とは正反対に、隣に腰掛けた秘従は肩を震わせて笑っている。
震わせた振動で肩外れてしまえ……!
あの若造、秘従に個別で取材してやがったのか!
俺の自慢話しに『スゲェ』とか『ヤバっ』とか反応してくれていたのは——お世辞だったのかよ!
田中とかいう若造、今度会ったらただじゃ帰さないぞ……!
それよりもだ……
「日々の恨みをこういうところで晴らそうとするのやめてくれる!?」
「さあて、なんのことかしら」
まだ笑みを浮かべている秘従に俺は、ある秘策を思い浮かべた。
その秘策とは——
「はあ、これを見た国のお偉いさん方はどんな対応をするんだろうか……」
ビクッと肩を震わせ、汗がたらたらと流れて来ている。動揺しているようだなぁ!
「あぁ、援助金が貰えなくなったらどうす!ば……!」
もう笑みを浮かべる様子が無くなったのか、申し訳なさそうに下を見つめている。
ざまあないぜぇ!俺の場合、援助金なんて無くとも志しを共にする愛すべき変態どもからの募金で困らないほどの資金が手に入るのだよ!
「ごめんなさい——」
「い〜よ〜」
満面の笑みを浮かべて許してあげた俺に感謝して欲しいねぇ!
「……ズルい!」
どうやら嵌められたことに気づいたらしいな。
これこそが秘従の良心に漬け込んだ最低な秘策。
俺にしか出来ないオリジナリーな作戦!
「ふははは!狡くて結構!」
すっかり上機嫌になった俺は高らかに宣言した。
「俺……駅に行って、パンチラ狙ってくるわ!」
間髪入れずに秘従が声を荒げる。
「いちいち、言わなくてもいいっ!」
その言葉をバックに玄関からルンルンで出かけた。
✴︎
最寄り駅へと到着した俺は、駅構内のベンチにてチャンスを待つ。
「さあ、大学時代からのトレーニングが今こそ発揮されるのだ……」
待つこと数十分。
誰も現れやしなかった。
そうだった。ここ——
人一人いない寂れた駅構内でまだ青い空を見上げながら呟いた。
「無人駅だった……」
雀がチュンチュン鳴いている中、自分も泣きながら帰路についた。