引越し当日・・・(サヨナラメルト)
あいつと昨日別れた。
朝目が覚めてやけに広くなった部屋に戸惑う。
あいつのいないこの部屋がどこか嘘のよう。
あいつが忘れていった花の髪飾りのせいであいつを泣かせた俺の言葉を思い出す
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「あのさ、俺と別れてくれないか?」
「え?」
「ごめん、俺もっと遠くに引っ越すんだ。だからサヨナラ。」
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いっそ溶けてしまいたい。
あいつの記憶に。
爪痕に。
温もりに。
あいつには笑っていて欲しい。
その笑顔が向けられるのはきっと俺にじゃないけど。
俺の好きな笑顔で。
天気予報どおり空からは雨が降る。
人ごみの中で唇を噛む長い髪の少女=あいつの姿を見た
「え・・・。」
俺は凍りついた。
それぞれの手には別々の傘。
お互いに足早になりすれ違う。
何かが落ちる音がした。
傘に隠した瞳が熱い。
痛いほどに思いが伝わる。
息を呑んだ気配に震える。
小さな
「サヨナラ」が聞こえた。
心が悲鳴をあげて泣きそうだ。
覚えているかい?
あの日も雨だった。
本当に好きだったんだよ。
君の事はずっと覚えている忘れたことなんか無い。
君は優しさも温もりも教えてくれた。
それなのにどうしても離れなくてはいけない事をどうか許して欲しい。
こんな俺だから君を傷つけてしまった。
でも俺は君の想いでもすべてを抱いて生きていく。
でも俺は本当は君と同じように弱虫だったんだ
本当は君の前で泣きたかった、強がりたく無かったんだ。
素直になれなかった。
君にもう1度会いたい。
その時は絶対に素直になるから。
もう切なさに死んでしまいたい。
だから君とのこの町にサヨナラ。
電車の扉が閉まる。
一人の影が駆けてきた。
あいつだ。
涙でくしゃくしゃの笑顔であいつが
「さよなら」
の口パクをした。
俺はもっとあいつとはなれるのが嫌になった
「いつか帰ってくるから・・・」