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作者: 用賀店

 半裸で踊る女の動画が無数にある。素人からアイドル、AV女優まで、そのグラデーションは幅広く、時に区別は容易でないが、ここ最近は一見して素人に類するような女が自らを映した短い動画が増え、私もそういうものをよく見るようになった。

 無論自慰に供するためである。時代と共に動画の毛色や出所が変わっても、視聴目的は変わらない。その一方で、以前と比べて目的を貫徹するのが難しくなっているようにも思う。

 よくわからない流行曲に合わせて無名の女の白い肉が躍動する様子を見ていると、時々なぜだか、彼女らの皮膚の内側に秘められた脂を想像してしまう。体内で縦横に揺すられた脂の塊は徐々に溶けて緩くなり、やがて肌理細かな皮膚の網目から微かに漏れ出て独特の重苦しい臭気を発散する。するとスマートフォンやPCのディスプレイから種々のにおい分子が本当に放出されているような気さえして、あまりの臭さにしばしば画面を直視し続けることができなくなった。

 そのくせ「素人」という属性の誘惑には抗しがたいものがあり、私は今日もインターネット空間に散らばるそれらの動画を意気揚々と漁っていた。結局臭気に負けて途中で再生を止め、脱ぎ散らかしていた下着とズボンを再び身に付ける頃には時刻はもう午後五時を回っていた。都合三時間弱を費やしていた。


 夕食を取るために外へ出た。川向こうの松屋を目指して土手を歩く。初夏の高密度の空気が肌に張り付くのを微風が優しく剥がす。空を半分覆う雲は薄い縁取りが光を透過して、却ってその上の空間を、その広さを、想起させる。昼食を食べていなかったので腹が減った。

 しばらく行くと土手下からひょろひょろとクラリネットの音が聞こえてきた。音のほうを見やると、遊歩道の脇で高校生くらいの男が一人、練習していた。さらに視線の先には川に入って遊ぶ三人の子供とそれを見守る母親らしき女が二人。バーベキューの後片付けをしながらふざけ合う大学生風情の五、六人の男女。並んで散歩する夫婦と思しき初老の二人。それぞれがそれぞれの声で夕暮れ前の河川敷を彩っていた。

 なんとなしに彼らの愉しげな雰囲気につられて水の近くに行きたくなった。

 ゆっくり土手の傾斜を下っていくと、川縁の叢の上にもやもやとした煙のようなものが見えてきた。柔らかな西日を反射して、ちら、ちらと光る。ユスリカの大群。

 蚊柱はゆらめきながら叢を外れ遊歩道に触手を伸ばした。降り立つと、私はあっという間に取り囲まれてしまった。

 呼吸をするのも躊躇われた。口から、鼻から、耳から、小さな虫が入ってくる。薄目を開けて必死に両腕で前方を振り払うがきりがない。今しがた降りてきたばかりの土手を上がろうかとも思ったが下から見ると存外に急坂だった。五十メートルほど先に階段があるので、そこまで小走りで駆け抜けることにした。

 平然と鳴り続けるクラリネットが癪に障る。帰りに虫除けスプレーを買おうと思った。

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