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夏の夜の遊び

作者: 朱雀

(作者)はそこまで強い霊感は持ってないと思っています。


2/13は祖母の命日なので今回季節外れではありますがこの話を上げさせていただきました。

20年以上前…祖父も祖母元気だった頃の話だ。

毎年、東京西部にある母の実家に帰省し、1、2泊する。それが私たち家族の夏の過ごし方だった。


母の実家は病院を営んでいた経緯もあり、広い平屋建ての家に、茶室、ベンツが2台にプール…と今を思えばかなりの家だと思えるほどのすごかった。

無論病院を営んでいたと言うこともあり、家の前に5~6階建ての病棟が1棟建っている。


その年も例年通りプールとBBQで従兄弟達と叔父、叔母達とで賑わっていた。

プールサイドのBBQで腹を満たし、泳ぎ、冷えたらBBQでと言うのがサイクルだった。

しかし当時の私は何を思ったかそのサイクルから外れ病院の裏手に回った。

おそらく子供特有の好奇心なのだろう…。

夜の学校と夜の病院は昼と大きく違って見える。そんな話を聞いた頃あるがゆえ、確かめたくなったおおかたそんなとこだろう。


普段この廃病棟は1階部分のみ診療所として使っている。

そして裏口は防犯のため鍵がかかっている。

私は鍵がかかっていることも忘れてドアノブを回す。

案の定、ガチャと言う音と共にドアノブは回らなかった。

『ま、そうだよなぁ』

そう考え、諦めてプールにいこうと背を向けた瞬間、ガチャリと言う音を聞こえた。

中から鍵を開ける音だ。

私は振り向いて恐る恐るドアノブを回すと、今度は途中で止まることなく回る。

私はゆっくり扉を押し開ける。

昼間見慣れた内装も時間帯が変わればここまで違うのかと感心するくらいにはまだ心に余裕があった。

清潔感ある白い壁は非常灯のせいで苔が生えたようにも見える。

とりあえず診療所として使っている1階を歩いて回る。

色合いが普段と違うだけで他はさほど変わっていないため徐々に新鮮味を失った。

待合室の柱時計が8時を知らせる鐘を鳴らす。

私は見るものは見たので裏口から出ようと回れ右をする。

そんな私の視界の端に赤い何かが目に映った。

すぐさま視線を向けるが、そこには廊下が続いているだけだった。1ヶ所の扉が開いてる以外は…。

私は開いている扉を閉めるために近づく。そしてふと気がついた。


「こんなところに部屋、あったっけ?」


気になって部屋の名前を調べてみると他の部屋同様白い細長い札が扉の横の壁についていた。

部屋の名前は…


『   置 所』


名前の札は所々かすれており、頭の方に不自然な空白があった。しかしそんなことに配慮できるほど当時の私は利口ではなかった。


「…(おき)(どころ)? 物置の古い言い方かな? …物置…がらくた…ハッ?! 何か面白いものが眠ってる予感!!」


当時の私はそんなことを考えながら扉の中を見やる。

中は物置らしい物は置かれておらず、壁は広めの引き出しでいっぱいだった。


「薬品棚? にしては大きいし、ラベルも無い…。何が入ってるんだろ?」


私は興味本意で引き出しのひとつに手を掛け、引こうと力を入れようとした。


「こらぁぁあああ!! そこでなにしてんだぁぁあああ!!」

「うわわ!!ごめんなさーい」


真後ろで怒鳴られ思わず飛び下がった。


「あ、ちょ…そんな勢いで下がったら…」


ドンとなにか柔らかい物にぶつかり、勢いのまま押し倒した。


「痛…くない」


尻餅をついたのに痛みを感じなかったことに違和感を感じていると真下から恨めしそうな声がした。


「そりゃそうだよ。わたしを下敷きにしてるんだから」


下敷きにしていたのは白いワンピースを着た私より2、3歳年上の少女だった。


「驚きすぎだよ。驚かした私も悪いけどさ…」


少女は立ち上がって服に着いた埃を払う。

赤い花飾りをつけた長髪の少女はジト目で私を睨む。


「この服、お気に入りだったのに埃まみれ…」

「ごめんなさい…」

「それはわたしも悪かったからしょうがないから置いといて、何で入って来たの?」

「夜の病院って初めてだから…」

「あんま来るもんじゃないよ?」

「お姉ちゃん誰? 従兄弟妹じゃないよね?」


営業時間の過ぎた診療所は基本、関係者以外立ち入り禁止である。

それに私は従兄弟妹の中では上から2番目で自分の上にいるのは少し年の離れた従兄のみだった。その為、少女の存在が異様に思えた。


「とりあえずここから出たら…ね?」


少女ははにかみながらそう言って私の手を引いて元来た道引き返す。

裏口に辿り着き、少女が扉を開ける。私もそれに続こうとしたら段差に躓き、転びそうになりながら少女を追い抜き、扉をくぐった。


「えへへ躓いちゃった…」


まだ中にいるであろう少女に笑いかけようとしたが裏口の扉は既に閉められていた。

私は慌ててドアノブを回したが鍵がかかっており、途中までしか回らなかった。


「ゆう、どうした?」


従兄は肉や海鮮乗った皿を持ちながら声をかけてきた。


「お姉さんが病院の中に…」


私は事の顛末を従兄に話すと従兄は笑って言った。


「病院は夕方に鍵閉めてるから誰も入れないよ。それにゆうの見た部屋は安置所。基本警察にある死体置き場で、病院にあるのは霊安室だからあるはずないんだよ」


それではさっき見た部屋は一体なんだったのか…。

20年経った今でもまだあの白いおびただしい数の引き出しの部屋の光景が脳裏に焼き付いて離れない。


◆◇◆


その約10年後、廃病棟はこぢんまりとした綺麗な診療所へと建て替わり、みんなで賑わったプールのあった区画も土地として売りに出した。


その為、あの夏の夜に体験したあの光景を見ることはもう叶わないのだろう…

あまり怖い仕上がりにならなかったとお思いでしょうが、体験談に基づいたものなのでこればかりはしょうがないかな…って思ってます。(あまりこの話は逸脱させたくはなかったので…)


実際に建て替わってお披露目が済んで2週間ほどたったある日に祖母が亡くなり、プールとその隣の畑に使っていた土地は売り払って分配したそうです。(詳しい金額は教えて貰えなかった)


ただ、それを9人の叔父や叔母で分配したのでそう多くは相続出来なかったという話です。うちの母は下から数えた方が早いくらいには下でしたので…。


まぁそれでも母屋とか茶室とか色々残ってるので祖父母は凄かったんだなと今でも思います。

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