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いつもランチはロゼッタの取り巻きとして食堂に行っていた。
ロゼッタと第2王子が一緒に食べるのに同席する為だ。
第2王子がランチまでにどこかへ行かないようにとロゼッタが提案してから習慣となっていた。
第2王子の付き添いとして来るエミールと時間を過ごせる貴重な時間のはずだった。
今日は家の料理人にお弁当を作って貰っていたセシルは1人で外に出た。
あまり人通りがないと予想されるベンチまで行ってお弁当を広げる。
1人で食事を取ることで良いことはある。
ロゼッタと食事を取る場合、ロゼッタと同じものを頼まなければならないという暗黙のルールがあった。
取り巻き達の中で勝手に決められたルールだったので、おそらくロゼッタは迷惑に思っていたに違いない。
ロゼッタは細い体のどこにそんなに入るのか、ランチをしっかり食べ、デザートまで食べきる。
太りやすいセシルにはそれが少しきつかった。
授業が終わってから茶会が開かれればそこで礼儀程度に菓子を食べる。
菓子を食べるよりも悪点稼ぎに集中していたのでそんなに食べてはいないはずだったが。
茶会に出ると、セシルのその日の夕食はサラダだけにされる。
太りやすいセシルを気遣っての家族の判断であったが、寝る前にお腹が空くことが多かった。
夜に勉強をしようにもお腹が空いて集中出来ない。
成績が上がらない言い訳になってしまうのだろうが、空腹で眠れない夜というのは切ない気持ちにさせるものなのだ。
今日のランチはジラン子爵家の料理人お手製のソースがたっぷりと使われたサンドイッチだった。
セシルはこのソースが大好きで、姉妹でピクニックに行く時にはこのサンドイッチを目的にしていたくらいだ。
だけど、どうやらエミールはこのソースがあまり好きではないらしく、エミールの好みに合わせるセシルが食べる機会は減っていた。
姉妹でのピクニックも、エミールがいつ来るかが分からなかったので滅多に行けなくなっていた。
もしかしたらエミールが来るかもしれない、と思うと2週に1度だと分かっていても念の為に家で待機してしまうのだ。
でもこれからはこのソースが使われたサンドイッチは食べ放題だ。
「美味しい」
少しでも良いことを探そうとしてしまうのは1人で食べるのが思っていたよりも寂しかったからだろう。
セシルは学園に通い始めてからランチを1人で食べるのは初めてだった。
もそもそとサンドイッチを食べていると、楽しく喋る男女の声が聞こえてきた。
紳士科と淑女科両方の建物からは少し離れているので誰も来ないと思っていたのだが、どうやら婚約者同士か恋人同士か、人が近くを通り掛かったようだ。
自分のことは無視をしてくれと願うセシルの期待を裏切り、その2人はセシルの近くで立ち止まった。
「セシル?」
そう声を掛けてきたのはセシルもよく知る女性徒だった。
「ポリーヌ………」
どうやら通り掛かったのはポリーヌと、その婚約者のロバートだったらしい。
セシルとポリーヌはかつては友人同士だった。家が近く、幼い頃から仲良くしていて、親友と言っても良いくらいだった。
セシルはいつも穏やかなポリーヌが大好きだった。
もちろん、今も好きな気持ちに変わりはないのだが、2人の友情に亀裂を入れたのはセシルだ。
ポリーヌは子供の頃から体が大きかった。否、正しく言うと太っている。体型を気にするような年齢になってからは少しは引き締まってはいるが、それでも普通よりは太いと言わざるを得ない。
セシルはそのことをポリーヌが参加していない茶会で悪く言ってしまったのだ。
「あんなに太っていて恥ずかしくないのかしら。婚約者の方も太っているからとてもお似合いだけどね」
そうセシルはポリーヌを嘲笑の的にしたのだ。
本当はセシルはポリーヌが太っていることを気にした事はない。むしろポリーヌはポリーヌなので太っていようがポリーヌに変わりはないと思っていた。
なのに、セシルはポリーヌの悪口を茶会で言ったのだ。本当に悪点を稼いでいるかのように。
そしてその場面をポリーヌに見られていた。
茶会に参加していた他の娘もわざわざポリーヌにそのことを告げ口した。
セシルは罪悪感からポリーヌに近付かなくなり、ポリーヌも悪点稼ぎに忙しいセシルに愛想を尽かしたのか近付いて来なくなった。
その時から2人の友情は終わってしまったのだ。
セシルは気まずさからポリーヌとロバートがさっさと去ってくれればいいと思ったのだが、ポリーヌはセシルに近付いて来た。
「こんな所で1人で食べているの?良かったら私達と一緒に食べましょう?」
ポリーヌの善意の言葉だったが、もちろんセシルは断るつもりだった。
1人でランチを食べる寂しさを味わうのも自分で自分に対する罰なようなものだと思っていた。
ところがポリーヌは穏やかながら強引なところがある。
セシルが断りの言葉を言う前に勝手にセシルの昼食を運びやすくまとめてセシルをベンチから立たせた。
セシルが驚いている間に芝生まで導かれ、その先では既にロバートが敷物を敷いて2人のランチが入っている籠から食べ物等を手際よく出していた。
いつの間にかセシルもポリーヌとロバートのランチにお邪魔をすることになってしまった。
ポリーヌとロバートは2人共よく食べる。2人分にしては多すぎるのではないかと思われる量もあっという間に食べてしまった。
セシルがその姿に圧倒されて食べる手を止めてしまったのも仕方ない。