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休日2日目、やっと眠ることが出来たセシルは起きることが出来ず、1日寝て過ごした。
どうやら家族は拗ねているだけだと判断したみたいで放置された。
休日明けの学園へは休むことを許されず、まだ顔色が悪いながらも行くことになった。
流行りの濃い色のワンピースに濃い化粧で武装する。
眠れたお陰でセシルの泣き明かした顔もましにはなっていたが、顔色は良いとは言えない。
こんな顔で学園に行ってエミールになんて思われることか、と悩んだのは一瞬だった。
もうエミールに会いに行く必要がないことを思い出す。
いつも学園の朝は第2王子の婚約者のロゼッタの取り巻きとして玄関で第2王子を待つ。
紳士科と淑女科の校舎は分かれているが、同じ入り口を通るのだ。
ロゼッタと第2王子は朝に学園の玄関で顔を合わせる。
学園をサボったり遅刻する第2王子をちゃんと学園に来させる為にロゼッタが提案してから習慣化している。
その第2王子にエミールが付き添って来るので、セシルはそこでエミールと会えるのを楽しみにしていた。
エミールと会えるのが楽しみであり、エミールが他の女生徒と仲良く挨拶をする姿を見て嫉妬をする場でもあった。
だけど、今日からその必要もないだろう。
これからはエミールと距離を取っていくのだ。
そう考えると距離を取るどころか今までセシルが会いに行くことでしか会うことがなかった現実が浮き彫りになってくる。
朝と昼も、セシルが会いに行かない限りエミールと学園で顔を合わせることはなかった。
放課後はロゼッタの取り巻きとしてお茶会に参加し、悪点稼ぎに勤しんでいたので会うことはなかった。
セシルの家には2週に1度くらいのペースで来てくれていたが、婚約者としての義務として来てくれていたのだろう。
またはリアに会いに来ていたのかもしれない。
エミールを諦めると決めたものの、セシルの心はまだ現実を受け止めきれなくて胸が痛くなる。
いつもの時間には学園に着いているのに玄関を逃げるように通り過ぎて、急いで教室に向かう。
いつもは真っ直ぐに顔を上げて虚栄を張っていたのだが、今日は今まで自分が投げ掛けてきた悪意の結果が怖くて下を向いて歩く。
そもそもただの子爵令嬢でしかないセシルが今まで偉ぶっていたのが大きな間違いなのだ。
第2王子の婚約者のロゼッタの取り巻きであることを笠に着て、強気でいても許されると思っていた今までの自分はどれだけ愚かだったことか。
ロゼッタの威を借る如くあちこちケンカを振り撒いていたが、冷静になって考えるとなんて恐ろしいことをしてきたのだと、正直、体が震える。
聡明なロゼッタに今まで何度も言い過ぎだと注意を受けてきたが、ロゼッタは甘過ぎると心の中でバカにしていた。
自分はロゼッタが舐められないように言ってやっているのにと、ロゼッタの為にを大義名分にして何を言っても許されると思い込んでいた。
本当はただエミールに近付く女共を牽制したいだけだったのに。
取り巻きなど必要としていないロゼッタに付き纏って、ロゼッタにもかなり不快な思いをさせていたに違いない。
教室に着いてもセシルには親しく話せる友人がいない。
今まで誰彼構わず悪点稼ぎをしていたので、誰もセシルと顔を合わせようとしない。
ロゼッタや他の取り巻き達とも教室は違うので、そうするとセシルには友人どころか挨拶をする知り合いすらいない。
自分は今まで本当に何をしていたのだろう。
自問自答しながらセシルは教室の隅に移動し、存在感を消すよう意識した。
エミールの婚約者として恥ずかしくないようにと今まで勉強はセシルなりに頑張ってきていたが、それほど得意である訳ではなかった。
無理をして勉強を頑張って何とか成績は中間よりは上、というところだった。
(本当に私は今まで何をしていたの)
1人でいるセシルをチラチラ見る人はいるが、関わると面倒な事になると思っているのだろう。本当に誰も話し掛けては来なかった。
セシルは孤独を感じながら、そんな自分が許せなかった。
お昼の休憩時間までにセシルの精神は疲弊しきっていた。
(今まで他の人に不快な思いをさせていたくせに、これくらいで寂しいと思うなんて)