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短編エッセイ集

『天才』を演出する ~わかりやすく『ありえない』を提供しないと、それは単に『凄い人』なだけ~

作者: レルクス

【はじめに】


 天才という属性を持つキャラクター。


 それを見て『やべぇ』と思うのも楽しいが、執筆側に立った時、そんなキャラを構築して、物語を動かしたい。もっと言えば、天才がぶつかり合うバトルだって書きたい。


 そう考えている人は絶対にいる。


 主人公最強が未だに群雄割拠する「なろう」なら、主人公がそれに該当するのだろう。



 そして作者は思うのだ。


 『わざわざ天才なんて言葉を使わなくとも、読者にそれを痛感させたい』と。


 天才という設定を、『まあこのキャラはこれくらいのことはしてくれるよ』みたいな、『天才というレッテル』のために使うのではなく、度肝を抜くようなことをさせたい!


 天才というものを『便利な属性』として使うんじゃなくて、『やべえ、こいつ天才だ』と読者に思わせたい!



 ……しかし、それは困難な話である。


 どう困難なのか。そしてそれを解決する方法はあるのか。


 そして、実際に天才キャラを構築できたとして、運用するうえで何に気を付ければいいのか。


 このエッセイを最後まで読んだからといって解決できるかどうかは別だが、一助になれば幸いである。



 ※本エッセイの内容を利用することで、『ヨイショされるだけの能力を持っている主人公』を演出することにもつながると考えている。そういう意味でも参考にしてほしい。



【天才を感じる人間の感覚】



 早速本題に入るが、そもそも人間が誰かの行動を『天才』と感じる時は一体どんなときだろうか。


 筆者としては、それは『嘘でしょ!』とか『意味不明!』とか『何でこんなことできんの!?』みたいな……要するに『信じられないこと』を実行したものを天才と感じるのだと思う。


 わかりやすい例として挙げるならば『黒子のバスケ』だろうか。


 バスケットボールというスポーツにおいて、彼らは確かに身体能力はエグイレベルだが、それでも現実に収まっている……ような気がする。


 彼らはバスケをしているのだ。バヌケはしていない。


 YouTubeで検索すれば、作中世界の高校生たちのプレイをNBAの選手がやった。みたいな動画がいくつか見つかる。


 しかし、その範囲の中で、『才能』というものを限界まで磨き上げた『圧倒的な個性』が、人に天才という言葉の説得力を与えていると思う。





 これがね。ファンタジーだと難しいのなんのって。


 何故か。それは、現実世界の私たち人間が、『魔法を使う所を妄想すること』はできても、『実際に魔法を使えない』からだ。


 例を挙げれば、『火属性魔法で山を消し飛ばした!』というシチュエーションは、確かに作中世界でもとんでもない技量が求められるだろう。


 しかし、それは『凄いこと』でしかない。


 技術的に自分たちには全くできないことをやってのける生物を傍から見て、『凄い』と思うだけ。


 チーターが何匹かいて、『あのチーターは他のチーターよりも1.5倍の速度で走れるんだよ!』と言われても、『凄いな』としか思わない。


 だが、とある『人間』が、『あいつ、ウサイン・ボルトの1.5倍の速度で走れてたよ。記録もある』となったら、『凄い』と思う前に『ガセじゃね?』と思うだろう。だが、実際にその証拠を見て、『あり得ないことが現実に起こった』ということを『理解』するはずだ。




 ここに重要な点がある。


 人間は、『ありえない』という『理解』に、『天才』という言葉をつけるのだ。




 だからこそ、ファンタジーはものすごく『天才』の演出が困難なのである。


 山を消し飛ばす。海を割る。空を切り裂く、地震を起こす。時空を超える、世界を創造する。


 いずれも『凄い』ことであって、『ありえない』ことじゃない。だってフィクションだから。


 そのため、軒並み『戦闘シーン』で『天才』を描写するのは困難と筆者は考える。



【天才の描写は、頭脳で勝負させるしかない】



 では、どのようにして『天才』を描写するのか。


 それはもう、『頭脳』だろう。


 策略、発想力、何かを利用する。


 なんでもいいが、『頭脳』に限定し、『ありえない』を描写するしかない。


 しかも、それを『わかりやすく』だ。


 大きく分けて2通りだろう。


①:人間の基礎的な能力に収まらない能力を単発で描写する。


②;物語の全てを動かしているかのような『世界の操作能力』を最後に示す。



 ①の説明だが、例文を出した方が速いだろう。

 以下の通りだ。



A(天才)「えーと。桁が大きい掛け算しないとなぁ」


B(凡人)「あ、待て、スマホの電卓を……はい。言って」


A「256かける315かける814で……」


B「出たぞ。71,892,480だ。7千万ちょいだな」


A「いや、それは315が345になってるだろ」




 こんなシーンである。


 尋常ではない『計算力』を描写している。


 四則計算のルールなど誰だって知っている。だが、特殊な勉強法をやってない人間にとって、2桁×2桁の掛け算だって暗算はすぐにできない。


 それを『一般的なこと』として、上記の例文を書いた。


 ある種の『気味の悪さ』ともいうだろうか。それを感じていただければ幸いである。


 このような『ありえない』を描写することで、『天才』という『レベル』を示すことができる。


 言い換えれば、【誰にでもできることを誰よりもできる】という方法だ。それが天才の単発ネタにつながる。


 ②のほうだが、大きな作戦や物語の最後の最後になって、『天才キャラがすべてをひっくり返す』ような展開だろう。


 『実はそのキャラの手のひらの上でずっと踊ってました』とか、まさにそれだ。


 ……で。


 多くの作品の天才キャラは②の『土壇場で、計画通りとばかりにひっくり返す』ほうだろう。単発ネタは枯渇しやすいし、最後の最後にひっくり返すというのはプロットをしっかり作ればできることだ。


 よく、『作者より賢いキャラは作れない』と聞くが、これは単に、見切り発車で何の計画性もなく書くから、作者の浅い知識を露呈するだけに終わるというだけのことである。



【ランキングテンプレでどう活用するか】



 この段階で、『天才キャラ』の描写に対して、どう書くかはともかく、『何が求められるのか』はイメージが付いただろうか。


 『わかりやすく、頭脳で、『ありえない』を読者に伝える』


 ある種の気持ち悪さ、君の悪さ。思わず鳥肌が立つようなゾクゾクッとする感じ、なんでもいいが、そのような点である。



 後はこれを『今のランキングでどう活かしていくか』が、ある意味、作者の腕の見せ所であり、また悩む部分でもあるだろう。


 追放ざまぁのテンプレに沿って考えるならば、『天才』の設定が与えられるのはまず『主人公』だ。少なくとも作中世界の常識人からは、『凄い』を超えて『天才』に見える。読者からは『凄い技能を持った常識知らず』にも見えるが。それはここでは無視しよう。


 個人的には、『登山』関係の本を読んでみることを勧める。


 なぜか。


 追放ざまぁの主人公の多くが何をしているかとなれば、その多くは【雑用】だ。


 これを例にして考えよう。


 よく、『雑用係が荷物を全部持たされる』というシチュエーションを目にするが、およそ、『日帰り登山のザックの重さは8キロくらい』である。


 パーティーメンバーが4人いるからと言って『32キロ』とはならないが、こういうシチュエーションを見るたびに、『お前らはその荷物の大きさが目に入らねえのか?』とツッコミを入れたくなってくる。

 まあ、これは1度知ってしまったが故の『萎える原因』なので、今ではスルーしているが。


 ただ、ここをあえて描写することで、『完全に雑用を舐め切ってる馬鹿』と、『その全員分の雑用を引き受けている主人公の異常性』に説得力を持たせることができるはずである。


 正直、『雑用を一手に引き受けている』という『設定』だけがテンプレになっていて、凄いことではあるが『天才を評されるレベルに達している』ことを『読者が理解できない』のだ。


 それを読者に納得させた上で、舐め切っていた分のツケを書けばいい。


 加えて、どれくらいすごいことをやっていたのかを『数字』にして出せば、読者の目にだってわかりやすいだろう。

 ……『数字』で思い出したが、ドラゴンボールのスカウターはマジで優秀なアイテムだった。



 一見ただのテンプレにみえる【雑用設定】だが、RPGに毒され過ぎである。フィクションなのでリアルは求められないが、リアリティは求められるのだ。そのナーロッパが、現代日本の物理法則を前提とするならの話ではあるが。



 今回は雑用設定を例として挙げたが、様々な図鑑や辞典、ガイドブックを利用することで、主人公の天才性を描写することが可能になる。



 時折、『テンプレ設定に対して冷静な視点に立ってみる』ことをテーマにしたような作品がランキングに上がってくるということもあるので、テーマとして完全に廃れているというものでもない。

 ……まあ、テーマそのものが単発であり、すぐにランキングから消えている印象が個人的にあるので、『名を売る程度』だと思って10万字だけ書くのが妥当だと思うが。



【天才キャラの運用において、個人的に最も重要なこと】



 天才キャラというものを作品で出す場合、かならず求められる設定が存在すると筆者は考えている。


 それは、『そのキャラの才能が作中で描写されない理由』である。


 どういうことか。


 それは、天才キャラはずっと天才キャラだが、作者はずっと凡人のままだからだ。


 正直、パワーインフレが発生してくると、『もうアイツ一人だけでいいじゃん』といえるほどのスペックを、天才キャラは持つようになる。


 しかし、そのキャラのスペックに見合うだけのストーリーを描き続けるのは、無理である。確実に、『作中の成長速度』が、『作者の制御速度』を上回る。


 ランキング作品には高い更新頻度が求められるため、プロット作成を途中で投げて作品を投稿すると、後でプロットを作る時間はない。これは問題だ。


 これを防ぐために、上記の『そのキャラの才能が作中で描写されない理由』を設定する必要がある。


 その人物がどんな固定観念にとらわれているのか、一体どこを主な活動場所にしているのか、どんな思想を持っているのか、どんな偏見を持っているのか。

 そして、どんな挫折を過去に味わったのか。


 その結果、『何に制御されているのか』


 主人公の現状と照らし合わせつつ設定することで、『ああ、これはこの天才キャラがどう動いてても、主人公には関係ないな』と読者を納得させることができる。


 主人公を天才キャラに据える場合も同様である。


 才能が発揮されない理由を設定しないと、世界観だけが広がって、作者の制御を超える。


 正直、現段階のライトノベルでその制御を成し遂げているのは、有名どころなら、『とある魔術の禁書目録』くらいだろう。

 最初は学園都市バトルだったのに、今では世界レベルに広がっている『緻密さ』に加えて、キャラを1人軸に据えただけで、アニメ化まで可能なスピンオフが書ける世界観。

 正直、原作者様そのものがラノベ界のチートである。


 だからこそ、凡人である我々は『天才キャラの才能が描写されない理由』が必要になると筆者は考えている。



【おわりに】


 復習だが。


 ・『天才』を演出するためには、『頭脳特化』で、『わかりやすく』伝える。

 ・『天才キャラ』がその才能を発揮しない理由を考える。


 きちんと『天才』というキャラを作品の中で組み込んでいくならば、まず求められることである。


 ……ただ、ここまで解説しておいてなんだが、まだ『天才キャラ』の市場は、『開拓途中』にあると考えている。


 実際に、ハイファンに限定して『天才』と入れて検索すると、筆者の検索時点では『1544件』である。これは『ざまぁ』の『2813件』のほぼ半分といえるものであり、まだまだ『天才キャラ』を軸に据えた作品は膨大と言えるものではない。


 もちろん、『天才』とタイトルにもあらすじにもタグにも載せていないだけで、作中に出てくる作品は多いだろう。


 しかし、それでもまだ『研究途中』と考えている。


 まあそもそも、


 このエッセイだけで、天才キャラの全てを解決できるなどとは微塵も思っていない。脱線も含まれるので。


 なので、第2、第3の『天才に関する考察』を深めるエッセイ執筆にでも役立てていただければと思います。

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