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斎藤さんと一週間彼女  作者: 美木 大清
9/19

その言葉は夜を告げる②

今日はいつもより遅い電車に乗っている。

 昨日、気分晴らしのために海まで歩いたがもやもやとした気分が消えることはなかった。

 そのまま腐りかけの感情は家に帰った後も毒を吐き、僕はなかなか眠ることが出来なかった。


 いつもよりも混雑した車内に時間の違いを体が感じる。


 八王子に到着し改札をでる。

 遠くに見えたバスターミナルにはすでにバスが停まっていた。

 遅刻ギリギリということもあり、息を切らし体を無理やり前に押しやる。


 長いバス待ちの列が幸いし、走れば間に合うことを確信した。

 僕が乗り場に着くころには列は既に解消され、満員となったすし詰め状態のバスに乗り込む。

 運転手のアナウンスでドアが閉まり体がぐっと車内に押される。

 その衝撃で僕の体は、前にいる女の子に強く当たった。


「すみません」

 と小さな声で言った言葉に目の前のその子は反応する。

「いえ・・・」

 そう言いながら振り返ったそのその人は

 ――――渡辺さんであった。


「あ………………」

「どうして今ここにいるの?」

「いろいろあって」

「そうなんだ……………」


 驚く彼女に僕は意を決してこの前のことを話した。

「実は、貰ったメモを捨ててしまって…………行こうと思っていたけど行けなかったんだ」

「そう、なんだ…」


 すると彼女の顔は赤らみ、すこし嬉しそうに思えた。


「それで、君さえ。いや君たちさえ良ければもう一度場所を教えてほしい」


 自分でもその言葉に驚いていた。

 それまでは他人との関わりを拒絶し、1人でいることを選択していたはずなのに



 それでも僕は、新しく一歩を踏み出そうとしているのかもしれない。

 急な自己の変化によって自分のことなのに他人のように思える。


「もちろん、きっと彼女も喜ぶと思う」


 彼女は何かに記そうと、満員の車内で迷惑にならないよう体の前側に抱えられたカバンから器用に紙とペンを取り出し場所を書き記した。


 揺れるバスの中で懸命に書かれた文字はひどく歪んでいたが、僕は気にならない。


「ありがとう」

 そういうと彼女は口を僕の耳に近づけ


『今度は捨てないでね』

 そう言うと踵を返し反対側へ向き直った


 大学に着きバスから降りた彼女は前のように何も言わず手を振ってその場を去った。


 僕も歩き出す。

 その足取りはいつもよりも軽い気がした。






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