その言葉は夜を告げる①
家に帰りベットに横たわる。
今日は週のちょうど折り返し地点だということが時の流れの速さを感じさせた。
「今日はもう寝よう 」
僕は誰もいない家に一人、暗い部屋の中で呟くと目を閉じた。
♦♢♦♢
次の日、言った通り彼女がバスに現れることはなかった。
考えてみれば僕が誰かと関わりを持つことの方が普通ではなかった。
だからこれは、元に戻ったに過ぎない
元の日常。
僕にとって心地よかったはずの一人の時間。
それなのに、胸の奥が何かぽっかり空いてしまったような気分だ。
昔は知っていた、けど忘れていた。
思い出したいのか、そうでないのか。
答えは未だ出せずにいる。
自分自身に言い聞かせていたはずなのに・・
心のどこかで誰かを探している。そんな感情が頭の中で澱む
反芻した言葉は次第に大きくなって耳に響いていくような気がした。
雲が晴れ部屋には月光が差し込む。
いつからだろう。僕が僕であることを諦めたのは
不安な要素を常に排除し、自分にとって不都合なことはすべて理由をつけて、そうでなかったと自分に言い聞かせる。
その成り行きのまま、歩んできた僕の轍は僕の足をかたどっているかは定かではない。
後ろを振り返れば簡単に答えが出ることを知りつつも、僕は怯えながら前を向く。
――――ただ目を瞑りながら前を向く。
本当は僕も、何もなかったように振る舞う周りの人間と同じなのかもしれない。
そう思うと気がまぎれた。
自分自身の惨めさを知ることで、僕というものを形どることが出来ると思った。
ふいにあの日のことを思い出す。
憂鬱な月曜日の出来事が、僕の学生生活に新しい息吹を生んだ。
彼女によってまかれた種はやがて芽を出し始め花となる前に
―――――枯れた。
枯れてしまったのは僕のせい。
あの日、あの時、軽率にメモを捨ててしまったから。
自身の虚しさを晴らそうと、僕は薄いパーカーを羽織り家を出た。
いつもと変わらず家の前に広がる海には月の光がきらめいている。