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斎藤さんと一週間彼女  作者: 美木 大清
7/19

今日も僕は僕に嘘をつき続ける③

朝、彼女に言われたことを反芻する。

今日行かなければ終わり。

段々と楽しいと思い始めていた時間も自身の選択によって終了となる。


いつも通り授業を最後尾の列で授業を受けていた。


教室前方のスクリーンに映し出されたスライドは登り始めた太陽の光で反射している。

焦点が合わなくなった霞んだ目をこすり、そのまま上着のポケットに手を入れた。

底の深い上着のに入っているはずのメモ用紙を探すが、なかなか見つからない。

反対側のポケットにも手を入れるが、その手に紙の感触を感じることはなかった。


思考を辿り僕は思い出す。

行くべき教室が書かれたメモ用紙はもらったその日のうちにゴミ箱に捨ててしまっていたのだ。


体の内側から冷たい炎が広がっていくのを感じる。額には汗を感じ、血の気が引いていくのが分かった。


僕はあの日の僕を恨んだ。捨てたメモ用紙が後になって必要になるとは思わなかった。


目を瞑り、広げたメモ用紙に書いてあった文字を思い出す。

記憶の鱗片を紡ぎ、あらゆる方向からアプローチをかけるがそれが正解にたどり着くことはない。

教室を1つ1つ探すといっても、大学内のすべての教室を探すのも骨が折れる。


手掛かりがあるとすれば、放課後に使える教室があるのが本部棟と各学部棟というだけだ。法、経済、経営、教育、理工の学部棟をすべて周るとすると一時間以上かかるであろう。


それに加えて本部棟は教室数はそれほどではないが、連絡通路で結ばれた西棟・東棟2つの建物からなるこの構造のせいで探しやすいとは言えない。


僕はすべて周るよりも、渡辺さんを探して場所を聞いた方が早いのではないかと結論づけた。


ただ見つけて何といえばいいのだろうか。

『紙を捨ててしまったから』

『家に忘れてしまったから』


様々な言い訳を思いつくが、どれも今日まで教室に足を運ばなかったことを踏まえると不自然なようにも思えた。


放課後まであと4時間弱。

それまでに彼女を見つけなければ…


授業終わりのチャイムを耳にすると僕は意を決して席を立つ。彼女のいそうなところはバスでの会話から推察できる。


僕はまず初めに学内のコンビニに向かう。

あの時出会ったのであれば、昼休みにこの付近にいる可能性も高い。


コンビニには入らず、前のベンチに座った。

携帯を見るふりをして入れ乱れる学生の顔をまるで顔判別システムのように確認する。


皆、似たような恰好や化粧、髪型に戸惑う。

三十分ほど経って諦めそうになった時、人ごみ奥で歩く彼女の姿を見つけた。


心が跳ねるのを感じ、席を立とうとしたその時


「あれれ、陰キャ君じゃんww」

「ほんとだww何してんの??」


あぁ、神は本当に厳しい。僕はこの前の不良二人組に出会ってしまった。


「いや、座っているだけだけど………」


そういうと彼らは僕の鞄を掴んでそのまま体に押し付け


「この席使っていいよね」


口元に笑みを浮かべながら、さぞ当然であるかのように言い放った。

周りの学生も、この前同様に視界には入っているはずだが何も起きていないかのように通り過ぎていく。


そして僕は席を立つと、最後に渡辺さんを見た方へかけていった。


しかし彼女は既に近くにはいなかった。

千載一遇の機会を失った僕はなるべくしてそうなったと、


僕は自分に言い聞かせた。








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