その出来事は再び世界を回す③
それに気が付いた僕は、問題に巻き込まれないようにと彼らに見つからないようにそそくさと店から離れようとした。
ばれないように静かに、また最大速度で歩いた。
しかしながら運命の神様はどうやら僕には厳しいらしい。
通り過ぎようとしたその時、赤い髪の方の男が僕に気が付いてしまった。
「おい、あれさっきのやつじゃね?」
「ほんとだ、陰キャ野郎やんwwwwww」
僕はそのまま逃げようとしたが、彼らは僕の後ろから手を肩に回し絡んできた。
「シカトこいてんじゃねえよ」
「すみません…………」
僕は早く終わることを願いながら彼らに謝罪をする。流石に暴力は振るわれないと思うと少し安心した。
それにしてもこのような時、人間は本当に無力になるものだ。周りにいる人間はそこに何も起きていないような振りをして通り過ぎていく。
おそらく視界の中には入ってはいるが、自身が巻き込まれないようにと無視を決め込み、きっとその後で友人たちと昼食の際のネタにするのだ。
『 そういえば、さっきコンビニで陰キャが絡まれてたんだよ 』
『 何それ? かわいそー 』
などと言いながら、思ってもないことを口にする。
しかし、それもある意味正解かもしれない。
実際にその場面に遭遇しても僕はその場を離れるだろう。
みんな自分が可愛いのだ。
そう思っていると、僕を引き留めていた二人組は話し始める。
「そういえばお前、さっきの授業で杏香のこと見てただろ」
きょうか・・・?
一体誰のことだろうか。というかこの人たちもあの授業取ってたんだな。
「とぼけんなよ、一番後ろの席で杏香のこと見つめてたじゃねえか」
「うわ、それはきもいな」
金髪の方が話す内容に赤髪の方が茶々を入れる。
しかしながら僕はその子を全く知らない。いい迷惑だと僕は感じた。
「いや、ほんとに知らないですって」
「おいおい、言い訳してんじゃねえよ」
なかなか誤解が解けず、僕もだんだんと焦り始める。
僕が再度その人物を知らないことを伝えようとした時
「いやほんと「ちょっと! 何やってんの」
僕の声は一人の女の子の声に遮られた。
「うわ、でやがった! 」
二人組はその子の登場にあからさまに嫌そうな表情をする。
「こいつがずっと杏香のこと見つめてたから、俺が諦めさせようとしてたんだよ」
「そうだ、いやらしい目で授業中に見てたんだぜ」
いやそんな事は断じてないんだが、まあたしかに少しの間見つめてはいたが、いかがわしい感情は微塵も抱いてはない。
目の前に立つその女の子は彼らの話を聞くと僕の顔をジロリと見てきた。
僕は反射的に大きく首を横に振った。
彼女は僕のそんな様子を見ると表情を変え笑みを浮かべた。そして一気に顔をしかめると僕の方ではなく二人組の男たちの方へ向き直った。
「そもそも、あんたたち杏香の彼氏でも何でもないでしょ、ただ同じゼミってだけで彼氏面しないで。それに杏香が恋してるのはあなたたちのどちらでもないのよ」
彼女がそう言うと金髪の彼はバツの悪そうに
「お前が邪魔しなければ杏香は俺のものになるわ」
そう言い残すと二人組は俺を突き飛ばしどこかへ行ってしまった。
僕は突き飛ばされた衝撃でしりもちをついた。目の前の彼女が手を差し出してくる。
「あ、ありがとう」
恥ずかしさから顔を伏せる僕に
「いいのいいの、大丈夫?」
と彼女が優しく微笑んだ。
「それじゃあ、ありがとう」
僕は地面転がったおにぎりを拾い学部棟へ足を向けた。
後ろから小さく彼女の声が聞こえたような気がしたが僕が振り返ることはなかった。
コンビニ前の上り旗が音を立て揺れている。