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斎藤さんと一週間彼女  作者: 美木 大清
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その出来事は世界を再び回す①

一番後ろの席に座り頬杖を突きながら授業を聞いている。


 出入り口に近いこの席は僕の定位置であり、周りに存在を悟られることもなく授業に参加できる唯一のベストプレイスだ。

 ここにいるだけで僕は、周りの人間が見る風景のオブジェクトとして映り込むことができる。

 教室の後方にある窓からは温かい日差しが背中に当たり、程よく体が暖められる。


 時よりカーテンが揺れたかと思うと窓の外からゆらゆらと、春の陽気に温められた風が流れ込んできた。

 

 僕、斎藤弘樹さいとうひろきが昨年から通っているこの”明文大学”は、東京都とはいっても西の端っこである八王子に位置している。

 駅からも離れたところに敷地を構えていることから、自然が豊かで周りには緑が生い茂っている。


 第一志望校に合格できず、しかたなく進学した第二志望校のこの大学で過ごす日々は何事もなくただ過ぎていく。

 当たり前の日常を決められたように過ごしていたら、いつの間にか僕は二年生になっていた。


 ペラペラと教科書をめくり、授業終わりのチャイムをぼんやりと待つ。

 一番後ろの席というものは、小中高どの学校でもサボりにとっては楽園のようだ。

 ただ大学というのはその姿勢だけでは成績には反映されない、逆に言えばテストさえできればよいといった風潮もある。


 憂鬱な月曜日は学生たちの顔には眠気さえ感じられ、授業をきちんと受けている生徒は普段よりも少ない。


( まぁ僕はサボってはないけど………… )


 心の中でそう呟きながら最後列の顔ぶれを横目で伺う。


 堂々といちゃつくカップルに、携帯ゲームをする男子学生に、寝ている者・・・


 自分に近い席から順番にいつも通りの面子を確認していくと、ちょうど反対側の席に見慣れぬ女の子が座っていることに気づいた。


 亜麻色のショートカットに春らしい落ち着いた格好。決して派手ではないが地味でと感じるほど暗い印象もない。


 教授の話に耳を傾け、時より顔を頷かせながら手元のペンを走らせるその様子は僕の心拍数を何故か上昇させた。


 彼女がこちらに顔を向け不意に目があってしまった。


 その瞬間少し開いていた窓から風が吹き込み、古くなり少し黄ばんだカーテンが音を立てて揺れる。


「すまないが、後ろの席の君。窓を閉めておいてくれないか?」


 存在感を消していたはずの授業で、僕は教授から声をかけられた。

 参加者数十名ではあるが、僕からすれば多く感じる。


 視線が一斉にこちらに向き、僕も頭を軽く下げて席を立ち窓を閉めた。


 一度止まった教授の話も再び再開され、こちらに集まった視線も元に戻ったが顔に熱が帯びていくような感覚に襲われる。


―――――僕は人間が苦手だ。








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