1 訪問客の来た日
5月、季節は夏に向かっていき暑いなと思うことが増えた。
そろそろエアコンの出番だろうか?
なんの変哲もないことを考えながら高校二年生になった俺はこの世界に対してなにかもの足りなさをいつも感じていた。
こんな時にいつも思う
王の城を守る屈強な門兵、王都を守る憲兵、王の領土防衛のためにいる騎士、王を常に横で守る強い側近・・・・
みんな王のために命を尽くして働き、最期は王のために尽くしたことを誇りに思う。
そんな光栄と誇り……が欲しいと。
なんてね、そのような職業なんてこの現代なんかにないよね。もちろん今の世界、特に中世から何百年と離れたこの時、そんな職業なんてないよ。特に今民主主義社会が根付いた日本にいるんだし。
でも、それでもそんな私が仕える者がいたらいいのになと思いながら、今日の高校の宿題を終え、俺は電気を消し、布団をかぶり、俺は眠りつい…
ピカピカ、あたりに急に光が出現した。
「ん、電気でも付いたか?」
俺は眠い目をこすって自室のベットから周りを確認した。
気のせいか
ピカ、ピカまた光が現れた。どんどんその光が強くなってくる。まぶしい、なんだこれ、俺はもう目もあけられない。まばゆい光が俺の部屋を包み込んだ
ドスン。ど、ど、ど……
何かが自分部屋に落ちてきたのか?強い振動が自室に駆け巡る、床を破ってしまうのではないかと不安になる。俺以外この家にいないから、大丈夫かと少し不安が薄まる。
で、何が起きたんだ。
恐る恐る、俺は目を開けた。
そこには気を失った日本人離れした姿の一人の女性が倒れていた。
一本に金髪は後ろでまとめられ、肌は透き通るように白く、凛々しい顔つきだ、俺と同い年くらいだろうか、少し幼さがみてとれる。
なぜか傷を多く受けた鎧を身にまとっていて、手には剣を持っていた。
え!?
誰だろうか
「大丈夫ですか?」
声をかけてみる。反応はない。
ゆさゆさと体を揺さぶってみる。反応はない。
一応呼吸はしているようだ。生きている。
このありえないような現象が起こっても俺は意外にも冷静でいられた。
まず自身の2階建ての家を探索した。窓は全部締まっており、玄関の鍵も完全にしまっている。
泥棒とかではないようだ。誰かに相談したかったけど、誰も相談する人はいなかった。俺の父と母はともに外交官で俺が高校生になったのを期に二人して海外で働いていた。姉もいたが、去年東京の大学に進学し家を出たばかりであった。
この状況にどうしようもなくなってしまった俺は床に倒れる女性を自身のベッドに運び横にしておいた。俺はベッドの横でその女性が目を覚ますのを座って待つことにした。
もう夜の1時をまわっていた。
どうやら俺は横に座りながら寝てしまったらしい。突然の大きな声で目が覚めた。
「おい、貴様!、私の父をどうした!エスニア王オーウェルをどうした!」
昨夜の女性がけたたましい声を上げながら、俺の首に剣を突き付けていた。
俺は自分の生命の危機を感じた。体は金縛りにあったかのように動かない。このように追いつめられると 人間は体が動かなくなるらしい。彼女がなんの話をしてるのか全く理解できなかった。
「おい!お前話を聞いているのか?ここはどこだ?」
彼女が叫ぶ。
俺は夢でも見てるのだろうか?寝不足で頭がおかしくなってしまったのだろうか?
彼女は剣先を俺の肩に乗せる。
重い鉄の感触。
「これ以上なにも言わないなら、お前の首を跳ね飛ばす、さあ答えよ」
どうやら夢ではないらしい。
「あの、あなたのおっしゃっていることは僕にはよくわかりません、ちなみにここは僕の家です」
俺は震える声でそう答えた。
「はあ・・・わたしはゼーエン王国の軍と戦っていた。それで首を相手に切られた。あれ?治ってる。どういうことだ?」
彼女はひどく混乱しているらしい。自身の首をなにか不思議なものにでも触っているかのように触っている.
「とりあえず、私を助けてくれたのだな。感謝する、私の無礼を許しておくれ」
彼女は俺に手を伸ばす。俺も自然と手が伸びて軽く握手をした。
「助けてもらった命、最期まで使い果たすとする。ゼーエンから我が王国エスニアを守るために」
彼女はドアに向かって歩き出した。
「ゼーエン?エスニア王国? あなたはなにを言ってるのか僕にはさっぱりわかりません。突然僕の部屋に現れるし、そもそも誰ですか?」
彼女がそっとほほえむ。俺は一瞬心を奪われかけた。
「全く、あなたは世の中に疎いようですね。まあ仕方ありませんね。これだけの治療を私にこの短時間で成し遂げるのですから、相当の研究でもなさっていたのでしょう。世に疎いのは仕方ありません。時間がないので簡単に説明しますよ。今我が豊かな王国エスニアは隣国の一つで領土拡大を狙っているゼーエン国に攻撃を受けているのです。そして今エスニアは窮地に立たされているのです。それを体を張って守るのは次期王の務めです。戦いが終わったらまた」
と言ってまた彼女はドアに向かい始めた。
「ちょっと待った。あの、なにをおっしゃっているのかわかりません。ゼーエンもエスニアも存在しません!戦争なんて起こってないし、ここは日本ですよ。そもそも僕はあなたの治療なんてしていません」
彼女はきょとんとした顔をしている。
「あなた大丈夫ですか?ここは日本です。戦争なんてあ・り・ま・せ・ん」
「なにバカなことを言っている」
彼女は窓に近づきカーテンを開けた。
「なんだここは!!」
彼女はしりもちをついてしまった。相当驚いてるのだろうか。
「私をどこに連れて来た!」
彼女は俺につかみかかってくる。
「連れてきてないです。あなたが急にここに現れたんじゃないですか」
「な……」
つかんでいた俺を落とす。
彼女は声も出せなくなっているようだ。
彼女はその後少し考えるような素振りをして俺に言った。
「私は死んでしまったらしい。私の国では古くから言い伝えがあって王族の血をひく者は異世界に行くという話があってね。たぶんそれだろう。エスニアはもう終わってしまったのだろうか」
彼女はひどく落ち込んだかのような様子で俺に言った。
自分の住んでる世界が異世界と言われるのなんだか不思議な感じがするが、彼女にとってはこの世界は異世界なんだろう。
「私の国は滅んでしまっただろうか?、私は最後までエスニアを守り続けた。でも、こんなことになってしまうなんて」
彼女は涙を流し始めた。
俺はなんて声をかければよいのかわからなかった。女の子が俺の前で泣くなんてことに今まで経験したことなんて当然なかった。
今日俺は生まれて初めて学校を無断欠席した。