幼馴染
今日は大学受験当日。
ありえないくらい緊張する、こんなに緊張したことない。
私は、カバンからキットカットを取り出した。アヤカからもらったものだ。「ナオなら大丈夫!」と、メッセージが書いてある。アヤカは幼馴染で、中学、高校もずっと一緒だった。
どこに行ってもずっと一緒で、何でも相談に乗ってくれて、家が近いもんだから、お互いの家を行き来したりもした。つい昨日も、夕飯を共にしたばかりだ。
しかし、この応援メッセージを見て、私は不安な気持ちになった。「何考えてんの?意味わかんない。」私は呟いて、駅のホームのゴミ箱に捨てた。
私たちは、大学入試だけは、お互いの受験校を教えあわなかった。合格して、進路が定まったところだけを共有することにした。片方だけが受かった時に気まずいでしょ、とのことだった。まぁまぁ、お互いがお互いのことを、分かりすぎているからだろう。何年間も、朝から晩まで一緒にいたのだ。何度もけんかもしている。今回の受験にどれだけの熱意を持っているのかも、知っているのだ。私は同意し、ずっと黙っていた。しかし、受験前夜である昨晩の夕食のことだった。突然アヤカが言った。「私、明日受験なんだ。A 大学。」
驚きのあまり、食べていたハンバーグの一切れを落としてしまった。
「・・・あ、そうなんだ。」
「ナオも、一緒でしょ。明日。」
私は返答に困ってしまった。A 大学は、地元ではかなり有名な大学である。まさか、一緒だと思わなかった。それに、なぜアヤカがそれを知っているのか、受験校は言わないという約束じゃなかったのか、そもそも、アヤカが A 大学を受験できるレベルだったのか。頭の中がぐちゃぐちゃになり、声が出てこない。精一杯の、裏返った声で、返答をしようとした。
「えっと「あのね、A 大学に合格したらユウスケ君に告白しようと思うの。」
・・・は?
いや、理解できない。これだけは全然理解できない。ユウスケは私の彼氏だ。それに、このことは、ナオにも話したはずだし、デートの話だって、最近全然会てくれないんだよねって相談だって、親身になって聞いてくれて、、、、、え?
「ナオのことで相談されてたの。別れたいって。」
・・・・・・頭の中が真っ白になる。驚きが隠せない。不安の渦が、胃のあたりにあることだけは分かる。
「去年のバレンタイン、二回目の告白をしたの。諦めきれなくて。そしたら、実は彼女がいて、その人と別れられないから、付き合えないって。」「そこでね、彼が言ったの。その彼女から別れてくれれば、彼女を傷つけずに別れられるんだけどって」
「ナオ、一生のお願い。
私が A 大学に受かって、ナオが落ちたら、ユウスケ君と別れて。」
__________昨日のことを思い出しては嫌な気持ちになる。嫌なんて簡単な言葉で片付けてしまっていいのか?いやいやそんなことより入試、速単のいつものページを開く。パラパラパラ・・。落ち着かないけど、落ち着くしかないのだ。アヤカは後で説得して、と考えたその時、鮮明に甲高い声が耳に入った。『え!うそ!(笑)』
・・・・・・・・あれは、隣のクラスの、・・
「いやいや、超マジ!(笑)だから今日頑張ってよ。すげー応援してる。二人で旅行するためにめっちゃバイトしたんだから(笑)」
「やばーい!嬉しー・・。頑張るね。はやく旅行したい!」
「ね!!、あ、、ナオとアヤカのことはいいから。適当に連絡しとくし。あいつら俺のために喧嘩とか、やばくね?マジで冗談きつすぎっしょ!(笑)」
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アヤカ、私たち、こんなバカに騙されるなんて
そこまで一緒とか、仲良しかよ。おもしろすぎでしょ。
私は、おもしろすぎて、小さく笑ってしまった。
あーーーー、アヤカ、ダメだよ、アヤカ、
私達、この後も一生一緒だよ。超仲良しだよ。
ユウスケのこと、応援してあげようよ。
私は、ユウスケの背中を押した。
全部夢だったらいいのに。