雪の綿毛
しんしんと降り続く綿飴のような雪。霜焼けの肌に触れるとジュワって一瞬で溶けてしまう。
黒髪メガネのミッコは、パーカーのフードをかぶり直しながら、眉間にシワを寄せて耳に髪をかけ直す。
「うーん、なんかちょっと違うんだよなぁ」
今日は大雪で吹雪になるから、写真部は総出で山に行き、シャッターチャンスを伺っていた。ミッコが一人で奥の方へと入ろうとしたから、ボディーガードとして彼氏の俺が一緒に同行することになったのだ。
しかし目で見る雪と写真に残る雪には差があって、どうしてもふわふわ感が出ないんだと、ミッコは不満げな様子。
「じゃあ、鼻の脂をちょっとだけ指ですくってレンズに塗ってみ? そうすると、ちょうどよくぼやけて幻想的な写真が取れるよ」
「へぇ。でも私、乾燥肌だから……」
どうしよう、今ちょっと自分の弱点を言ってきて親近感を覚えた。ダメだ愛おしい。
「じゃあ、ちょっとだけ体温上げてみよっか」
「えっ?」
そう言って俺は後ろからいきなりミッコに抱きついた。ミッコの体温は確かに熱くなったが、ただ単に厚着になったからではない。寒さで鼻の頭を赤らめていたミッコは、今度は恥ずかしさによって頬を赤らめた。乾燥肌だったミッコの体の内側から、ブワッと何かが溢れ出す。俺はそれを見てパッと離れた。
自分の鼻を指さして、こう言った。
「ね? 俺もちょっと出てきた。やってみ?」
ミッコが自分の鼻を試しに触ってみる。さっきまで乾燥していたはずの鼻先に潤いを感じた。すかさずレンズの先に塗り拡げ、ファインダーにメガネをくっつけてみると……。
優しく降り注ぐ雪がまるでタンポポの綿毛のようにふわふわして見えた。思わずシャッターを切って確認すると、銀世界の中で降り注ぐ無数のタンポポの綿毛のような雪が写っていた。
「ありがとう。でも、やっぱり乾燥肌なんだね、すぐに乾いちゃって……」
ミッコがそう言い終わる前に、俺はもうミッコを抱きしめていた。甘えてきやがったな、この。
しばらくそうして体温を感じていると、ほっぺに落ちてきた雪の綿毛は一瞬にして溶けていった。