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ゲート反応

<タツヤ>

 目を閉じた安藤が黒い光に包み込まれた後、すぐに昨夜の黒い三角帽子と黒く艷やかなストレートロングの髪と澄んだ瞳、そしてみずみずしい肌にピッタリと吸い付くように太股と胸を強調するような刺激的な服装に変わっていた。

 さらに年齢も十四、五となり、それにしては衣装の隙間から零れ落ちそうなぐらい大きな胸とお尻に育った、底知れぬ色香と妖艶さと少女特有の可憐さを兼ね備えた、まさに究極とも言える魔法少女が現われた。


 俺だけではなく周りの大人たちも男女問わず一人の例外もなく、うっとりと見惚れているのがはっきりとわかる。彼女と比べれば現在全世界を騒がせているアイドル魔法少女たちはホタルと月で比較されてしまう。ちなみにどちらがホタルなのかは言うまでもない。


「んっ…これでいい?」

「あっ…あぁ、変身してくれてありがとう。たっ確かに、これは恥ずかしいね」


 ユリナの父親が奥さんや娘や部下の前だというのに、思わず生唾を飲んでしまい、返事をすることさえ忘れて魅入っていたというのに、誰も責めはしなかった。

 安藤ヤミコの魔法少女を目の前にすれば、彼だけではなく皆がそうなることを確信したからだろう。


「もし正体がバレたら、羞恥心で死ぬ」


 刺激的な衣装の羞恥心だけではなく、安藤は面倒事を避けてひっそりと暮らしたがっている。魔法少女として大活躍することで現実でもちやほやされたいなどとは、これっぽっちも望んでいないのだ。


 もし安藤が魔法少女として活動すれば、たとえ結果が思わしくなくても、その立ち姿だけで全世界を震撼させる。そして魔法少女のアイドル活動は国の宣伝にもなるので、そちらで大ブームになるのは間違いないだろう。

 何より今の彼女も恥ずかしそうに頬を朱に染めてモジモジと身じろぎしているので、このままでは安藤が羞恥心で死ぬよりも先に、周囲の俺たちが萌え死ぬほうが早いだろう。


「とっ…ともかく、これでヤミコちゃんが魔法少女だということは確定したわけだし、魔法省に登録しておこう」

「魔物退治をする?」


 ユリナの父親の言葉により、不安そうに戸惑う安藤だが、周囲の俺たちと大人の職員全員からの、ヤミコちゃんを不安にさせてるんじゃねえよ! という理不尽な視線が彼に突き刺さる。


「大丈夫だよ。登録しても魔物退治は任意で強制じゃないから。元々討伐もアイドル活動を行わない魔法少女は、想定していたんだ。

 でもそういった登録は、ヤミコちゃんが初めてだよ。ようは魔法少女は誰かという情報を魔法省が掴んでればいいんだよ。もちろん、協力してくれればもっと助かるけどね」


 その説明を聞いて安藤は納得したようにフムフムと軽く頷く。いつの間にか不安そうな表情も消えており、彼女もこれで一安心というところだろう。


「それにヤミコちゃんが一緒に活動すれば、娘のいい友達になってくれるだろう。

 ちなみに魔法少女の友達なら妹のミツコちゃんが…と、思っているようなら駄目だよ。

 いくら容姿や実力が優れていても、こっそり他の魔法少女を蹴落とそうとするようではね」


 そちらの情報は魔法省がとっくに掴んでいるらしい。しかし、今の所は魔法少女を制御するには本人の善性に期待するしかない以上、大人の荒療治により関係をこじらせ、直接の協力を得られなくなるわけにはいかないらしい。

 過去に彼女たちを何らかの手段により強引に操ろうとして、そのたびに団体や組織が原型を留めなくなるまで、破壊し尽くされたという事件もある。

 そのために政府は彼女たちを特権階級として優遇し、最低限のフォローを入れるのが、現状では精一杯とのことだ。


「代わりにヤミコちゃんの正体の秘匿性は保証しよう。それは絶対に守るよ」

「んっ…国民の義務は果たす。最低限の協力はする」


 ユリナの父親はありがとうと答えを返し、ウンウンと真面目に頷く安藤に微かに笑いかけたとき、彼のポケットの携帯電話がブルブルと震えた。


「…失礼。ああ、私だ。何だと……場所は? ああ、大丈夫だ。全てこちらで対処する」


 電話は一分程度で切れたようで、通話が終わるとユリナの父親は再び安藤に向き直った。今度は前と比べてより真剣な表情だ。


「国内でゲート反応が感知された。規模はカテゴリー2」

「ゲート? 規模?」


 聞き慣れてないのか、安藤がユリナの父親に向かって首を傾げてキョトンとした顔で質問を行い、彼は嬉々としてそれに答えようとするが、すぐ隣の母親が解答権を奪い取る。

 しかしこの程度は一般的な知識かと思ったが、本当に我儘な妹の影響により、魔法少女に関わるあらゆるものに興味を失っていたようだ。


「ヤミコちゃん、ゲートというのはこの世界にやって来る時に魔物が通る門のことよ。

 そして規模はカテゴリー1から4まであって、それぞれが出現する魔物の脅威度を示しているの」


 ユリナの父親は自分が説明したかったのか、悔しそうな顔をしながら、母親の答えを興味深そうに聞いている安藤を黙って眺めている。

 気持ちはわからなくもない。今の安藤は世界屈指の美少女であり、そんな彼女が誰もが知っている話を真剣に聞いてくれるのだ。誰だって物知り顔で話して聞かせたくなるだろう。


「1は個人や集落、2は町や都市、3は各国、4は全世界よ。放置すればそれら規模で危険な事態に陥るということね。

 ちなみに国内はカテゴリー1~2が数日に一度の割合で起こってるわ」

「理解した。3以上は発生してない?」


 言葉を受けて俺は少しだけ考えた。カテゴリー3はいわば一国の危機だ。そんな事件が起こればいくら魔法少女に興味がない安藤でも、強制的に耳に入って来るはずである。


「カテゴリー3は国外だけど頻繁に起こってはいるわ。年に数回程ね。でも国内でゲートが開いたわけじゃないから、普通の家庭だとあまり話題にはならないのよね」

「話題にならない? 何故?」

「そうね。魔物はこの星では得られない生きた資源だから、各国は秘匿したいでしょうね。まだまだ未知な部分も多いしね」


 ユリナの母親の言葉を聞いてしばらく思案していたが、やがて納得したのか安藤は深く頷く。ゲートが開きはじめた頃は、国と国とが手を取り合って魔物を迎撃していたのだが、魔法少女が現われて以降は彼女たちの活躍により、魔物の討伐も容易になった。


 それに伴い魔法少女は各国の所有するアイドルになり、他の国よりも美しく強力な魔法の力を振るう美しい少女たち、そして魔物の討伐により未知の資源を確保した国の発言力は、否応なく高まる。

 そのような暗黙のルールにより形作られているのが現代社会となっている。安藤もそのことに気づいたようだ。


「自分の国ではこんなに強い魔物を倒せるぞと、魔法少女の活躍を前面に押し出して各国への発言力の強化は行うけど、カテゴリー3の詳しい情報は秘匿扱いで、表向きにしか開示してないのよ」


 もしかしたら安藤も近々そうなるのかもしれない。もし一度でも目撃されれば、実力はどうあれ話題にならないのが無理な話である。

 しかし彼女はそれで聞きたいことは全て聞けたし要件は終わりだとばかりに、華麗にスルーしてペコリと一礼するので、ユリナの父親が慌てて止めに入る。


「要件が終わったので私は帰る。今日はお世話になった」

「ちょっと! ちょっと待って! ヤミコちゃん! ここは一緒にゲートの発生場所に駆けつける場面じゃないの!?」


 俺や他の大人たちだけでなく、ユリナもそう思っていたようで、ものすごく驚いたような顔をしている。それとは違い安藤はあからさまに嫌そうな表情が張り付いて取れない。


「確かに国民の義務として協力するとは言った。でも他にもっとやる気に満ち溢れて、魔物を倒して人気者になりたい魔法少女は大勢いる」

「たっ…確かにそうだけど! ほらっ! 現場も割と近いし、ゲートが開くのはまだ時間に少し余裕があるけど、もし魔物が複数出た場合は民間人に被害が出るかもしれないし、出来れば今回はヤミコちゃんにも手伝って欲しいなって…駄目かな?」


 元々この国の魔法少女の活動は任意なのだ。これで断られたら、もう打つ手が無いだろう。そもそも年端もいかない安藤を、命の危険がある戦場に引きずり込もうとしているのだ。

 痛い思いや苦しい思いをたくさんすることになるだろう。地位や名声やお金を得るために、自分から望んで飛び込むのとは訳が違うのだ。


「んー…わかった。今回お世話になった恩を返す。魔法少女の正体が私だということを、秘密にしてくれるなら協力する」

「本当かい! ありがとう! 助かるよ! それじゃユリナと二人で協力して、現われた魔物を討伐してくれないかな?

 もちろん魔法省も出来る限りのサポートをするから、初の実戦でも安心して戦って欲しい」


 何やら考え込んでいた安藤が深く頷くのを確認して、ようやく周囲の職員たちや、俺とユリナは安堵の表情に変わった。

 大人の男も女も関係なく、目の前の魔法少女に振り回っされぱなしである。きっと妹のミツコならば職員たちも適当にあしらうのだろうが、どうやら姉の方は無自覚ながら相当手強いようだ。


「場所は?」

「ええと、この辺りだけどわかるかな? 今車を出すから…」

「必要ない。飛んでいけばすぐ着く。幸い今は夜」


 ユリナの父親は自分の携帯の地図を表示して、安藤に見せる。彼はそのまま車の手配を行うつもりだったようだが、彼女の発言はまたしても周囲を驚かせた。

 確かに貴重な飛行能力持ちならば、夜間に飛べば目立つことなく高速で移動が出来るだろう。


「そっ…その、ヤミコちゃんは空を飛べるのかい?」

「飛べる。その際にユリナちゃんも乗せれば同行条件達成」

「ええと、乗せるとは? ヤミコちゃんが飛ぶのではないのかな?」


 魔法少女の中には数は少ないが空を飛べる者がいる。全世界で三桁程度ならわりと多いのかもしれないが、それでも一国に十人いればいいほうである。

 飛行が可能な魔法少女は皆、自分一人の飛行がせいぜいなため、俺はてっきりユリナを抱えて飛ぶのかと思ったが、どうやら違うようだ。


「んー…単独でも飛べるけど説明が面倒。見せたほうが早い。何処か外で広い場所…」

「なら一度屋敷の外に出ましょう。ヤミコちゃん、こっちよ」


 ユリナの母親が背を向けて部屋から出ていくので、安藤は躊躇うことなくその後を追う。そして俺たちもこの後、目の前の魔法少女が何を行うのかと、期待で胸を一杯にしながらゾロゾロと後をついて行く。


「これはユリナちゃんとその両親への説明。それ以外の人は来なくていい」

「おっ…俺はいいよな? 安藤とは、とっ…友達だし!」

「友達? 誰? 石川君が? んー…わからない」


 安藤がそう言うなら、きっと本気でわかっていないのだろう。何より否定も肯定もしなかったのは、少なくとも赤の他人ではないということだ。そのことで少しだけ望みがあるかもと、俺は心の中でガッツポーズを取る。

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