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決闘

<ヤミコ>

 この突然の提案はナツキちゃんと、司会進行役の報道関係者さんたちはどう思うのかと、恐る恐る横目で見てみると、誰もが皆何かを期待しているように、私をキラキラとした瞳で真っ直ぐに見つめている。


「わかった。もし期待にそえなくてもガッカリしないで」

「ありがとうございます! もちろん全力で挑ませてもらいます!」


 全力宣言などいらないのだが、二つ名持ちのモユちゃんに本気で来られたら、影の私なんて枯れ木のようにへし折られることは確実だろう。


「勝負方法は?」

「元々は魔法少女の姿で戦い、今立っている舞台の外に出るか、バリアジャケットが破れるか、それか降参を宣言するかで負けというルールにする予定でした」


 聞いた感じでは普通のルールであり、何処もおかしなところはない。舞台も二十メートルの正方形の形なので、ある程度気をつけて戦えば外の人も安全だろう。そのルールで勝負を受けてもいいかもしれない。


「それでいい。いつ勝負を始める?」

「もちろん今すぐにでも! では、お互い配置について…!」


 いつの間にか報道関係者とナツキちゃん、偽物の黒猫の魔女ちゃんも舞台から退いており、私とモユちゃんの二人だけとなっていた。目の前の彼女が少し下がったので、私もそれに習う。


「では黒猫の魔女ちゃん! 行きます!」


 お互い一定の距離で向かい合ったところで、モユちゃんが深呼吸をして大きな声で試合開始の宣言を行う。そこで私はふと気づいてしまった。影のバリアジャケットも本体と同じように破れるのではないか。

 行きがかり上勝負することになったが、元々は魔法少女の恥ずかしい衣装を着て、戦いたくなんてなかったのだ。

 その辺りはナツキちゃんから借りた恩を返すためと割り切れるが、もし影の服が破れたりしたら。しかも防御力も本体の十分の一なので、少しでもダメージを受ければ絶対領域どころか、オーバーキルで全裸にされてしまう。


「少しまっ…」

「先手必勝!」


 少し待ってと手をかざして静止を呼びかけようとしたが、それはモユちゃんの掛け声にかき消されてしまう。彼女が両手を目の前に合わせると、大きく青白い水晶のような物が現われ、やがて姿を変えて巨大なハンマーを形作る。


 ここまで来ればモユちゃんの次の行動もわかるというものだ。当然のように巨大なハンマーを持って全力でこちらに突っ込んでくる。そのまま間髪入れずに、私めがけて力いっぱい振り下ろす。粉砕の土竜とはよく言ったもので、水晶のハンマーのせいで地面に大穴が空いて、周囲には突風と土煙が舞う。


「あっ…あれっ? いない!?」

「流石二つ名持ちは格が違った」


 緊急回避として飛行魔法を地上で使い、一時的に加速して彼女の背後に回る。身体強化では着地時の足の踏ん張りがきかずに、場外に転がり出てしまう可能性があった。

 しかし飛行魔法を使ったからといっても、空中から一方的に遠距離魔法で攻撃する展開では、モユちゃんは勝っても負けても不満が残るだろう。ならば地上戦で決着をつけるしかない。


「一瞬で後ろに? そっか…獄炎の蛇ちゃんも使っていた技」

「技というほど大したものじゃない」


 翼に流す魔力を一時的に激増させるだけなのだ。もっとも、真っ直ぐにしか動けないうえに、緊急停止の制御には少しだけコツがいる。普通に飛行魔法を使っていれば、このぐらいの技術は自然に身につくだろう。

 だがあの水晶のハンマーは厄介な気がする。直感だが魔法障壁や固い防御を持つ魔物への特攻を持っている気がするのだ。

 つまり普通に防御するのは駄目なので回避に徹するしかない。数日前まで普通の女の子をしていた私では、戦闘経験でもモユちゃんのほうが圧倒的に上なので、どうにも不利な状況がついて回る。


「今度はよく狙って…!」


 縦方向ではなく横方向に振り回してきた。当たれば一撃でバリアジャケットがビリビリに破れるのは避けられない。逃げ回っていても場外負けで消化不良になってしまう。

 理想は真正面からの撃破でいい汗かかせる展開なのだが、巨大なハンマーに対抗できる魔法が想像できない。となるといつものように適当に願うしかない。まるで子供から大人まで大流行している、ガチャという謎の行為に挑む気持ちだ。

 もっとも、この場合は百回回しても魔法的な関係で全て当たりを引けるのだが。私は両手に魔力を集めて、水晶のハンマーに対抗できる何かを強く願う。


「うっ…嘘! 杖で受け止めたの!?」

「私も受けられるとは思わなかった」


 てっきり魔女らしく箒が出ると思ったのだが、黒い光と共に現われたのは、先端には黒く輝く六角柱の宝石がはめ込まれ、棒の部分を重さを感じない謎の金属で作られたロッドだった。

 モユちゃんの水晶のハンマーと同じ、魔法で作られた自分専用の武器といったところだろうか。今は先端の宝石から発せられる謎の光に阻まれ、ロッドに届く直前でハンマーの動きが完全に停止している。

 私はモユちゃんが驚愕して固まっている隙を突いて、よいしょっと受け止めた武器を押し返す。


「きゃんっ! ううっ…! 武器だけじゃない! なんて力なの!」


 油断していたせいかハンマーを少し弾いただけで、場外寸前まで転がっていくモユちゃんに追撃を加えるか迷ったが、そこは一旦保留とし、手持ちのロッドを色んな角度から観察する。

 魔力を通して感覚を確かめると、棒の長さを変えられ。先端の六角柱の宝石から発せられる光で攻撃を弾くだけではなく、波動の形を自由自在に変化させられることがわかった。


「物は試し」

「今度こそ…きゃあっ!」


 私は試行錯誤も兼ね、光を束ねて鞭状に変化させ、立ち上がったばかりのモユちゃんに向かって勢いよく叩きつける。

 彼女はとっさにハンマーを構えて防御するが、場外ギリギリで踏ん張っていたために、私の鞭攻撃が後押しになったのか、その場から数歩後退してしまう。

 結果、後ろの足場が突然消えてバランスを崩して倒れ、場外にポフンと尻餅をついてしまった。


「ごめん」

「ううん、黒猫の魔女ちゃんのせいじゃない。全部アタシが弱かったからだよ。でも、勝負を受けてくれてありがとう! とても楽しかった!」


 少し押したら場外判定で勝ってしまったという、何ともしまらない決着だったが、眩しい笑顔を浮かべるモユちゃんが満足してくれてよかった。

 しかし彼女は生粋のバトルジャンキーのようで、その後機会さえあればまた戦わせて欲しいと言ってきた。私としては恥ずかしいバリアジャケットを着て、大勢の人に見られながら戦うなんて二度とごめんだ。


「これでアタシに勝った黒猫の魔女ちゃんのほうが本物だって、はっきりしたね」

「そういうことになる?」


 確かに二つ名持ちのモユちゃんにマグレでも勝ったということは、十分な実力があると証明されたことになる。

 私は場外で尻餅をついている彼女に飛行魔法で近づき、手を差し伸べて舞台の上に引っ張り上げると、いつの間にかニュースのレポーターと偽物の黒猫の魔女ちゃんが、拍手を送りながらこちらに歩み寄ってきていた。


「流石に本物は違うわね。私の完敗よ」

「黒猫の魔女ちゃんの活躍! バッチリ撮らせてもらいましたよ! これから勝利者インタビューをさせてもらっても、よろしいですか?」


 やけに気安い態度で話しかけてくる二人に、少しモヤモヤしながらもはっきりと言葉を返す。そんな私とは違い、モユちゃんは全力で戦えて満足したのか、こちらに深々と頭を下げると爽やかな笑顔のまま、会場の外へと歩いて行く。


「何でこんなことを?」

「こんなこと? ああ、私が黒猫の魔女ちゃんを騙ったことかしら?

 それは当然、目の前の貴女への憧れからよ」


 憧れている対象になりきるのは、とてもわかりやすい理由だった。しかし私のように並以下の魔法少女に憧れるなんて、随分と志が低いようだ。


「もっともそれは、理由の一つに過ぎないわ」

「理由の一つ?」

「もっとも大きな理由は、全世界の人々が黒猫の魔女ちゃんを求めたからよ。

 しかし彼女は魔法少女を引退してしまった身。

 だからこそ代わりに私が、その役割を果たさなければいけなかったのよ」


 有名アイドルグループが皆に惜しまれつつ解散とか、そんな感じだろうか。しかし私は復帰するつもりは毛頭ない。そのためにテレビ局と悪巧みして黒猫の魔女ちゃんは不滅です! …と、表向きの復帰宣言を推し進めようとしたと。


「把握した」

「我々の気持ちが伝わったようで何よりです! もちろん、インタビューは受けてくれますよね?」

「受けない。もう二度とこんなことしないで。じゃあ、さよなら」


 この人たちは私の都合などお構いなしにグイグイ迫ってくるようだ。少し前の私なら黙って言うことを聞いていただろうが、彼らは地味子とは関係のない他人で、大切な友達ではない。

 モヤモヤとした嫌な気持ちが心の奥底に広がり、彼らの命令をはっきりと拒否したくなってくる。


「ナツキちゃんも用が済んだら、今すぐ帰ったほうがいい」

「ちょっと黒猫の魔女ちゃん! 待ってくださいよ! まだこちらの要件が…!」


 最後にナツキちゃんのほうを向いて一言告げてから、影の魔法を解除すると、テレビ局の舞台にいる私の全身が黒い霧に変わり、そのまま数秒足らずで溶けて消えてしまう。

 次に目を開けたときには、見覚えのあるマンションの一室に戻っていた。


「ただいま」

「おかえり。安藤」

「おかえりー!」

「おかえりなさい」


 何となく戻ってきたことを感じて挨拶を行うと、三人も挨拶を返してくれた。一応テレビを見ているほうも意識はあったのだ。と言うかソファーでくつろいでいるこちらが本体であり、テレビ局のほうは思念を送って影を操っていたのだから当たり前だ。


「テレビのほうは?」

「向こうの安藤が消えてから全く時間が立ってないから、変化は…」


 意識を完全にマンションの私に戻し、テレビに集中しようとした所で、ナツキちゃんから念話が入った。


(今日はありがとうございました。とっても格好よかったです。私、ますます好きになってしまいました!)

(私は格好よくない。でも、気をつけて帰って)

(はい、行きで飛行に慣れましたけど、帰りも気をつけます。それでは、またっ!)


 テレビの向こうは私が忽然と消えたために混乱に包まれる中、次に事情を知っていそうなナツキちゃんに自然に矛先が変わる。

 しかしこちらの念話が切れた途端、銀髪の魔法少女の背中から純白の翼が生え、何度が羽ばたいた後、地面を軽く足で蹴って一気に高度をあげ、会場の人々の視界からあっと言う間に逃れてしまう。


「これは、…終わりましたね」


 ユリナちゃんの静かな宣告に軽く頷く私を含めた三人。その証拠にテレビ画面の向こうでは、会場の多くの人々に取り囲まれる今回の事件を仕組んだレポーターと、黒猫の魔女ちゃんの姿が映っている。

 ちなみにモユちゃんはとっくの昔に会場から離脱している。彼女は何となく面白そうだから企画に協力したのかもしれない。台本にない戦闘の参加にも積極的だったし、やはりバトルジャンキーなのだろうか。


「向こうの黒猫の魔女ちゃん、ひん剥かれてますね」


 淡々と実況を行うユリナちゃんの言う通り、会場の混乱から何とか逃げ出そうとした黒猫の魔女ちゃんが、そうはさせまいと魔女の衣装を掴んだ人たちから身をよじって抜け出そうと頑張っており、必死の努力の結果何とか脱出は出来た。

 ただし魔女っ子の衣装を犠牲にしてだ。やはりバリアジャケットではないようで、割と簡単に破れてしまっていた。その下には年頃の少女らしい控え目な体型と、薄い水色の下着がアップで映し出され、恥ずかしそうに両手で胸とアソコを隠し、うずくまったまま動きを止めてしまっている。


 さらには番組のレポーターだけでなく、スタッフの人たちも胸ぐらを掴まれて問い質されているし、カメラマンも大勢の人に囲まれて全く身動きが取れないようだ。

 その後カメラに体当たりでもされたのか、画面が不自然に大きく揺れた後、突然しばらくお待ち下さいと言う大きな文字の他に、会場と全く関係のない美しい自然の風景が映し出された。


「テレビ消しますね」


 ユリナちゃんがリモコンを手に取り電源ボタンを押すのを、私たち三人は誰も反対しなかった。今回の番組関係者とテレビ局の運命が、進退窮まったことだけは私でもわかる。

 平凡以下の地味な魔法少女なんて特集しようとするからこんな結果になったのだ。もっと有名な二つ名持ちなら、喜んで番組に協力してくれそうである。

 現場にいたナツキちゃんは、私が押せば頷いてくれそうだし、モユちゃんもノリノリでインタビューを受けるだろう。


 その後しばらくクッキーを齧ったり紅茶を飲んだりしながら、誰も何も喋らなかった。しかし別に空気が重いわけではなく、その状態は自然であり緩やかに時間が過ぎていく感じだ。


「そう言えば、安藤は夏休みどうするんだ? 何か予定はあるのか?」

「家か図書館で勉強」

「そっ…それだけか? せっかくの夏休みだし、何処かに遊びに行ったりとか」


 他に何も予定はない。私には遠くに遊びに行くお金もないし、友達も最近出来た数人以外いないので当たり前だ。何より毎日の家事から開放されたとはいえ、諸事情により平均点すら届かない私が、勉強を疎かにするわけにはいかない。最終目標である高校受験に備えるためにもだ。


「予定がないなら、おっ…俺の実家に遊びに来ないか?

 かかる費用は全てこっちで出すから、安藤は気にしなくていい」

「実家?」


 石川君とホノカちゃんは、現在の中学への通学のためにマンションを貸し切っている。どんな事情で今の学校に通っているかは知らないが、実家は離れた地方にあるということだろう。しかも全てが無料とは、流石お金持ちは違う。


「俺とホノカの実家はとある田舎町にあるんだ。

 ええと、自然が豊かな環境のほうが勉強が捗るっていうだろう?」

「一理ある」


 森や林から発生するマイナスイオンには、集中力を高める効果があるとかないとか。そんな情報を何処かで知った覚えがある。眉唾かもしれないが、試してみる価値はありそうだ。しかし問題がある。


「でも無理。近くに一泊なら気にしなくても、旅行は反対される」

「安藤、どうしても駄目か?」


 友達の家に一泊なら家族からの反対もそれ程ではないが、遠くに何日も泊まることになると、現地で何か問題を起こすのではないかと大反対されるだろう。

 しかし私の本心は、親からもっと関心を持ったり、心配して欲しい。突き落とされて魔法少女になった後、家族の愛情は期待しないつもりだったのだが、自分の心を全く制御出来ないのはとてももどかしいと感じた。

 もし旅行に行きたいと我儘を言えば、両親は私を見てくれるだろうか?


「ラインで聞いてみる」

「おう、よろしく頼む」


 石川君の言葉を受けて、両親に夏休みに友達の実家に旅行に行ってもいいだろうかという内容を伝える。

 すると両親からは、好きにしろ。ただしこっちに面倒を持ち込むな。問題が起こったらお前が全て責任を取れ。安藤家とは何も関係はない。そんな内容が五分もかからず返信されてきた。


 それを読んだ瞬間、やっぱり私のことには興味ないんだなと少しだけ落胆し、心を全く込めずに、ありがとう…というメッセージを家族に送り返す。

 一応の許可がおりたので、詳しい内容は口下手の私が説明するよりも見せたほうが早いと判断して、ラインの記録を石川君に見せる。


「こっこれは色んな意味で…とにかく、夏休みに旅行に行ってもいいってことだよな?」

「うん、石川君たちに迷惑をかけたら自分が責任を取る。払える物は私のカラダぐらいしかないけど」


 家族の言いつけを守るのは当然として、迷惑料を請求されたら財布のお金から払うしかない。しかしこれは高校生活のために必要になる。何とか使わずに済ませたい。

 となると、旅行中に中学生の私が働くしかない。拙い家事手伝いのスキルがどれ程役に立つかはわからないが。


「あっ…安藤のカラダで払う…それって…!?」

「タツヤ君の考えとはまるで違います。ヤミコちゃんは働いて返すつもりです」

「やだー! 兄さんのスケベ! これだから健全な男子中学生は!」


 石川君が何を想像したのかはわからないが。彼はゆでダコのように顔を真っ赤にして鼻息荒く、私の貧相な体を舐め回すように見つめてくる。気のせいか女性のデリケートな部位に視線が分散しているような気がする。

 そんな舐め回すような視線に晒されて恥ずかしくなった私は、思わずブルルと身をよじってしまう。


「わっ悪い! とにかく安藤は、夏休みに俺たちの実家に来てくれるんだな?」

「急な予定が入らない限りは、大丈夫」


 安藤家に年中無休のベテラン家政婦さんが入った以上は、私に急な予定が入ることはまずないので、何日の旅行かは知らないが問題なく行けるはずだ。


「やったー! 夏休み中もヤミコちゃんと遊べるよ!」

「私も同行させてもらいますね。ちゃんと両家には許可を取りますので、心配はいりません」


 もうすぐ夏休みだが、今年の夏は賑やかになりそうだと思った。高校生活前に安藤家から離れる練習だと考えれば、それもまた得難い経験かもしれない。

 今までの人生で感じたことのない、心が弾むような楽しげな雰囲気に身を任せるが、その前に期末テストを平均以下で、なおかつ赤点をギリギリ回避しなければいけないので、まだまだ油断は出来ないのだが。

 

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