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大型量販店

<ホノカ>

 兄さんとユリナちゃん、そしてヤミコちゃんとの買い物はとても楽しかった。どれも初めて見て手で触れるためか、そのたびに可愛くコロコロと表情を変えるヤミコちゃんを見ているだけで、私たち三人はとてもほんわかとした気持ちになり、心の底から癒やされていく。


 実際には近くで真剣に観察しているからこそ、些細な表情の変化に気づけるため、私たち以外で彼女に注目している人は誰もおらず、その分私たち三人の方が量販店内のお客さんの視線を丸ごと引き受けることとなってしまう。


 何しろ美男子が一人と、美少女が二人なのだ。さらに私も二つ名持ちの魔法少女であるため、店内に入る前から道を歩くだけで人々の視線が釘付けだ。

 流石に声をかけてくる剛の者はいないが、小学校では憧れの対象で、毎日のように呼び出しを受けて告白されたりしている。それも男女関係なくだ。何でも私の竹を割ったような性格が男性に近く、さらに火属性も相まって女性人気が異常に高いらしい。何にせよ世間体に振り回される身としては迷惑な話である。


 そのために年が近く、なおかつ昔から知っており、お互い気を使わなくても済む相手として、兄さんとユリナちゃんは気楽に話せるかけがえのない存在なのだ。

 最近になりそこにもう一人ヤミコちゃんが加わった。彼女は私たち三人に気を使ってはいるもの、自分が迷惑をかけるのではと気を使うのであって、こちらを必要以上に意識したりはしない。また、魔法少女にも全く興味がないため、二つ名持ちでも全く気にしないし、美男美女の容姿にもこだわらない。何よりもこちらを何の打算もなく、ただ申し訳ない気持ちで純粋に気遣ってくれている。もしかして天使かな?


 常に色々な思惑ですり寄ってくる迷惑な他人を、うんざりしながらあしらい続けてきた私たちからすれば、ここまで付き合いやすい相手は本当に珍しくて貴重だ。

 彼女と会話して大体の人となりを知った後、たとえ兄さんが振られたとしても、私はヤミコちゃんと一生友達付き合いを続けて行こうと、そう心に決めたのだ。しかし、出来れば告白を成功させて欲しいのが妹としての立場であるが。

 今強引に突撃しても、十中八九ヤミコちゃんから身を引いてしまうのは想像に難しくない。

 一見押し倒せばいけると思いがちなヤミコちゃんでも、その心は固く閉ざされており、こちらが強引に好意を向けて押せば押すほどに、ただただ戸惑い混乱して距離を取ろうとする。物理的な距離と心の距離の両方だ。

 それらのことを兄さんから耳にタコが出来るまで聞かされた私は、もはやヤミコちゃんのプロと言ってもいいだろう。ユリナちゃんとどちらが詳しいかは知らないが。


 やがて一通りの勉強道具を揃えてレジで会計を済ませ、店員さんに自宅のマンションに届けてもらうように手続きを終えたとき、予想外のトラブルが起こってしまう。


「あそこに居るのは、癒やしの聖女と獄炎の蛇、それと石川タツヤか? しかしあの地味な女は誰だ?」

「アレは地味子だな。俺は小学校から一緒だったからよく知ってるぜ。地味で根暗でボサ髪、その他にも成績が底辺だったりダサい要素がてんこ盛りだから、皆に地味子って呼ばれてるんだぜ」

「何だよそれ! マジ受ける!」


 四人で大型量販店の出口に向かって歩いているとき、中学の制服を着て髪を染めたチャラい男子生徒三人組がこちらに視線を向けて、おかしそうに笑っている。しかもやたらと大声で、周囲の人からも悪目立ちしてしまう。

 向こうも私たちが見ていることに気づいたのか、ヘラヘラと笑いながら妙に親しげに近づいて来る。


「やあやあタツヤ君、綺麗な女の子を二人も連れていい身分だね」

「そうだぜ。少しぐらい俺たちにも恵んでくれてもいいだろう?」

「お前はそっちの地味子をやるから、魔法少女の二人は、俺たちともっと楽しいことしようぜ?」


 隣の兄さんを見ると、図らずともヤミコちゃんと二人っきりになれると妄想し、一瞬だけだらしなく惚けた顔になったけど、皆にバレないようにすぐに表情を引き締める。

 しかし私の中の兄の威厳ポイントが、かなり減ったのは間違いない。蔑みの視線を送るユリナちゃんも気づいたようで、心の中で幼馴染ポイントを厳しく減点しているようだ。


「残念だが、他を当たってくれないか? これから皆で家に帰るところなんでな」

「何だよ。地味子じゃ不満かよ。

 イケメンと美少女二人よりも、イケメンとブサイクのほうが上手くバランス取れるんじゃねえか?」

「あはははっ! それは言えてるぜ!」


 言われている当人のヤミコちゃんは全く堪えておらずに、涼しい顔である。彼女にとってはいくら言われ慣れているとはいえ、自分の大切な友人が馬鹿にされているのだ。

 そしてあいにく私は兄さんたちとは違って、ちっとも我慢強くはなかった。さっぱりとした性格なので感情表現がストレートなのだ。なので私は怒り心頭でチャラい三人組の向かって一歩踏み出す。


「取り消しなさい!」

「ああん? 何をだよ?」

「ヤミコちゃんをブサイク扱いしたことをよ!」


 私の並々ならぬ気迫に三人組は思わず一歩退く、ついでにヤミコちゃんがオタオタしながらも、強引にチャラ男たちとの間に入ってこちらに声をかける。


「ホノカちゃん、私のことはいいから」

「ヤミコちゃんは黙ってて!」

「はい」


 間に入ったヤミコちゃんは私の一喝により、スゴスゴと兄さんとユリナちゃんの元に戻っていく。これで止める者はいなくなった。


「ブサイクをブサイクと言って、何が悪いんだよ!」

「ヤミコちゃんは可愛いわよ! それこそ、私たちよりもね!」

「はぁ…? 地味子がか? 冗談だろ?」


 この男たちが現在全世界でもっとも有名な魔法少女が、実はヤミコちゃんだと知ったら、どんな顔をするだろうか。しかし、そのことを目の前のチャラ男たちには絶対に教えたくない。

 これだけ馬鹿にしていた男たちにより、妄想の中の彼女が汚されるのすら。今の私は許せそうにない。なので私は与えられた力を躊躇なく行使して、肉体を十四、五の状態に変身させる。

 髪型もショートカットからポニーテールに代わり、服も赤を主体とした軽鎧装備一式とショートスカート、そして白ニーソを装着する。


「獄炎の蛇! しっしかし、わかってるのか! 魔法を魔物以外に使うのは…!」

「そうね! よくわかってるわ! 重大な規約違反だってことはね!

 それでも、大切な友人が馬鹿にされて何もしないのは、私の誇りが耐えられないのよ!」


 こんな荒事をヤミコちゃんは望んでいないし、きっと嫌われてしまうだろう。しかし自分の性格に嘘はつけない。別に本気で殺すわけではない。だが少しぐらいは痛い目を見てもらう。

 私は二つ名の由来ともなった炎の蛇を呼び出すと、右腕にまとわせてそのまま流れるように炎のレイピアの形に固定する。魔物との戦いで一連の流れは手慣れているので、もはや集中する必要もない。


「お前たち。俺の妹はやると言ったら本気でやるぞ。どうする?」

「ぐっ…わかった。馬鹿にして悪かったよ」

「俺もだ。あっ謝るよ。すまなかった」

「ちっ…獄炎の蛇に焼かれたくはないからな。悪かった。この通りだ!」


 口々に謝ってはいるものの、その誰もが全く反省の色が見えない。まあ今までずっと馬鹿にしてた奴らを、一度謝罪した程度で仲直りしましょうなんて、そんな不平等な等価交換は私はごめんだ。

 しかしこの場では許してやることにする。全員の顔は覚えたし、次に遭ったときには魔法少女ではなく人間の状態でボコボコにして、二度と近寄らせないように警告すればいい。

 やがてチャラ男三人組は周囲の視線に気づいたのか、バツの悪そうな顔をして店の外に慌てて逃げていく。


「本当にごめんね! ヤミコちゃん!」

「ホノカちゃんが私のためにしたこと。謝る必要はない。だから、ありがとう」


 てっきり嫌われるか距離を置かれると思っていたが、ヤミコちゃんは先程までとまるで変わらずに温かい言葉をかけてくれる。私は何だか拍子抜けしてしまい、そのまま変身を解除する。

 自分一人が勝手に先走って、彼女に黙っててと怒鳴りつけたにも関わらず、それを責めることなくお礼まで言われるとは思わなかった。今のヤミコちゃんは少しずつ変わっている最中なのかも知れない。

 何だかとても嬉しくなり、私は思わずヤミコちゃんギュッと抱きついてしまう。


「ホノカちゃん、どうかした?」

「何でもない! それより姉さんって呼んでいい?」

「それは断る」


 残念ながら断られてしまった。今の私の中では兄さんの威厳ポイントをヤミコちゃんがぶっちぎりで追い抜いているのだ。目の前の彼女が本当の姉さんならよかったのに。


「はぁ…残念。それより早く帰ろう! そろそろ荷物が届いてるかも!」

「そうだな。荷物は管理人の二人が受け取るとはいえ、早いところ家に戻るか」


 今は気持ちを切り替えて家に帰ることにする。大型量販店の客の視線を集めていることだし、普段から慣れている私たち三人はともかく、ヤミコちゃんは同様しないように強がってはいるものの明らかにビクついている。

 その辺も小動物のようで可愛らしいと思いながら、四人揃って足取りも軽く、マンションに向かってゆっくり歩いて帰るのだった。

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