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独占インタビュー

<ヤミコ>

 独占インタビューといっても、いつも通りに言葉少なめに淡々と答えていくので、そんなに面白いことは起きるはずがない。ファミレスの外で興味深そうに様子を覗き見ている人たちは解散して、他のテレビ番組でも見てたほうがきっと有意義に過ごせるだろう。

 カメラから見えない位置のスタッフが両手をあげ、数字を書かれたプラカードを掲げ、3,2、1と順番にめくっていく。


「皆さんこんばんは。アナウンサーの大葉チズルです。

 本日は夜間に起こったカテゴリー2の事件を、犠牲者なしで見事解決に導いた、あの正体不明の魔法少女である黒猫の魔女ちゃんに、独占インタビューをする機会をいただきました」


 ファミレスの大きな机を挟んで、私と大葉さんは互いに向かい合う。固定されたマイクがしっかり音を拾ってくれるので、わざわざ構える必要はない。普段通りに話せばいいのだ。


「黒猫の魔女ちゃんのプライベートは匿名希望なので、今回は魔法少女関係についての質問をしていきたいと思います」


 どうやら大葉さんはユリナちゃんの父親が認めたプロだけあり、その辺りのことはしっかり配慮してくれているようだ。少しだけ気持ちが楽になる。


「これから色々と質問しますが、答えにくい場合は無理に答えなくても構いません。

 では最初の質問ですが、黒猫の魔女ちゃんはいつ頃から魔法少女に目覚めたのでしょうか?」


 大葉アナの質問に私は過去を振り返る。私が魔法少女に目覚めたのは、妹よりも遅かった。


「目覚めたのは小学生の頃」

「なるほど、時期的には他の魔法少女とあまり変わらないようですね。何かきっかけはありますか?」

「知り合いに崖から突き落とされた。その時に魔法少女の力に目覚めなければ確実に死んでた」


 魔法少女が目覚めだしてから三十年になるが、そのきっかけは今でも解明されていない。ある日突然何の前触れもなく目覚める者もいれば、外的要因で魔法が使えるようになる者もある。千人いれば千通りの覚醒の仕方があるが、他人の覚醒経験を参考にした成功例は、未だに0人のままだ。


 ちなみに私の場合は、突き落とされた時はかなり高い崖で、そのまま地面に落下しても命の危機なのに、下の大岩への直撃で即死コースだった。

 間近に迫る死の危険を感じた私は、その瞬間に魔法少女に覚醒し、崖の途中に黒い鎖を引っ掛けて軌道をずらさなければ、即死は避けられなかっただろう。


 初めての変身だったからか、すぐ元の安藤ヤミコに戻ったが、面白半分に突き落とした元凶とはいえ、幸い近くには光の聖女がいたため、妹に崖下まで助けに来てもらい事なきを得た。

 そして周囲に家族以外の人はおらず、事件ではなく私の不注意として処理されたので、その日は両親に物凄く怒られた。お前は妹と違って本当に鈍くさい。妹のミツコがいなければどうなっていたか。主にそんな内容だと思う。

 妹に面白半分に崖から突き落とされたと訴えても、最初から信じる気がないのか、嘘をつくな。ヤミコの言い訳でミツコに責任をなすりつけるなと、余計に酷く怒られてしまった。

 その返答により、目の前の三人に、私も魔法少女になったと打ち明けても、絶対に厄介なことにしかならないと悟り、家族もそうだが他人にも絶対に秘密にし、今後は妹や魔法少女とは一切関わらずに、目立たずひっそりと生きていくことを固く誓ったのだ。


 そんな辛い過去を振り返りながら次の質問を待っていた私だが、目の前の大葉アナだけでなくスタッフや周囲の人たちも、皆硬直したまま動かなくなっていることに気づく。

 自分は言われたことを素直に答えただけなのに、何か間違えたのだろうか。後ろのスタッフが慌てて次の質問! と書かれたプラカードを掲げて、大葉アナはそれを見て一気に正気に戻る。


「そっ…それでは次の質問ですが、黒猫の魔女ちゃんにとって、魔法少女とはどのような存在なのでしょうか?」

「免疫細胞」

「ええと、そっ…それはどのような? もう少し詳しく教えてもらえませんか?」


 大葉アナの質問に対して直球で答えたものの、やはり一言ではわかりにくかったようなので、私は噛み砕いて説明する。


「異世界からの侵入者である魔物が病原菌。それを退治して、世界を正常に戻すために生み出されたのが魔法少女。つまり免疫細胞」

「なるほど、確かに言われてみればその通りのような気がしますね。ちなみに、そのような考え方に至ったのは何か理由があるのですか?」


 別に理由はない。何となくそんな気がしただけなのだ。しかし、大葉アナからの質問なので、今回は真面目に答えることにする。


「ない。証明する手段はなく、全て私の直感」

「黒猫の魔女ちゃんの勘ですか」

「もっと詳しく言うと、絶対に頭がおかしいと思われる。でも、質問には真面目に返答する」


 私は絶対に信じないだろうなと思いながらも、一言ずつ噛み砕いて目の前の美人アナウンサーに伝えていく。


「私が魔法少女になるたびに、神のような謎の存在が近くで見守っているような。そういった不思議な感覚を覚える」


 大葉アナは予想通り怪訝な表情を浮かべてこちらを見ている。しかし、返答を止めようとはしないので、私は続きを話す。


「それが本物の神か、上位の生命体か、プログラムか、世界の管理者なのかは全くの不明。

 しかし、魔法少女が魔物の命を躊躇なく奪えるのは、力を送っている存在が排除を望み、精神や肉体を魔物特化に作り変えているのは確か」


 おかげで初めてオーガを倒したときも躊躇なく魔法を放ち、死への嫌悪感から嘔吐することもなく平然としていたのだ。それに魔物を目の前にすると精神的に高揚し、恐怖心が薄まっているとはっきりと感じ取れた。


「黒猫の魔女ちゃんは、その存在がいることを証明出来るのですか?」

「最初に言った通り現時点では証明の手段はない。

 謎の存在の気配は強力な魔法を使ったときに、おぼろげに感じる程度。ちなみに弱い魔法を使っても感じ取ることは不可能」


 つまり私以上の魔法少女がいれば証明出来る。全世界には自分以上に優秀な魔法少女がゴロゴロいるので、謎の存在に気づいても頭がおかしいと思われるから、表に出さないだけなのだ。


「もし本当にそんな神のような存在が居るのなら、なかなかに夢のある話ですね」

「私が全力で召喚魔法を使えば、短時間なら現界させて使役出来るかもしれない。

 でも呼び出す理由はないし、維持するだけでも魔力を消費するから、疲れる」


 今まで全力で魔法を使ったことはないので、召喚した後にどのような結果が引き起こされるかわからない。もっとも召喚した魔法少女には、黒猫バスのように絶対服従だし、魔力が尽きれば強制的に送還されるので、一応の安全装置にはなってはいる。


「ええぇ…神様とお話したいですよ」

「私以上に優秀な他の魔法少女に頼んで」

「それは…その、多分無理でしょうね」


 世界中には私以上に強力な魔法少女ぐらいたくさんいるはずだ。なので数日後には神様召喚しましたー等で、世間を騒がせることになるかもしれないが、確かに彼女が独自にアポイントを取るのは難しいだろう。

 取りあえずは大葉アナの質問には答えたので私が沈黙していると、次の質問と書かれたプラカードをあげるスタッフの姿が横目に映った。


「ええと、それでは次の質問です。黒猫の魔女さんの二つ名にも出てくる黒猫バスですが、それはどのような魔法なのでしょうか?」

「わからない」


 大葉アナの質問に答えられないわけではない。しかし、実際に使った私も詳しいことは何もわからないのだ。これが単純な属性魔法なら、水は冷やして、火は燃やす、等でわかりやすいかもしれないが、複数人の移動のための乗り物を呼び出す魔法だ。そして黒猫バスはオーガを轢き殺すことも、レーダー探知機やテレビも見れる。


「つまり黒猫の魔女さんもわからない、未知の魔法なのですか?」

「違う。複数人の移動のための魔法。それは間違いない」

「では、何がわからないのでしょうか?」


 用途がわかっているなら、最初からそう答えればいいと大葉アナは考えているだろう。

 しかし、そんな単純な魔法ではない。黒猫バスはゲームを遊びたいからと、高性能パソコンを召喚したようなものなのだ。


「魔法の詳しい効果がわからない。黒猫バスは地上を走り、空を飛び、海に潜り、宇宙にも行ける。

 さらに大きさも速度も自由自在で、オーガを轢き殺しても魔法障壁と人工重力で、こちらは全くの無傷」


 さらには宇宙も平気なのでマグマの中も泳げそうだ。ついでに高性能レーダーやテレビや浮遊エレベーターの拡張機能もあるが、それは私が状況に合わせてカスタマイズしたものだ。

 取りあえずは黒猫バスの基本機能で判明しているだけでも、多種にわたる。それらの上限と下限も不明だが、もう二度と使う機会はないので気にするだけ無駄である。

 大葉アナはまたも驚愕して固まっていたが、二度目ともなると回復も早く慌てて次の質問に移る。


「色んな意味で、すっ…すごい魔法ですね。では次に、オーガ九体を同時に相手にしたとありますが、これは事実でしょうか?」

「少し違う」

「そうですか。ではやはり単独撃破で合計九体が正しいのでしょうか?」

「それも違う」


 目の前のアナウンサーが、また少し混乱しているような困った表情を浮かべているので、私はどうやってオーガを倒したのか説明を行う。


「九体同時に相手にしたのは事実。でも空中から戦況を確認して、民間人を襲って隙だらけのオーガの不意を突いて、魔法を使っただけ」

「つまり奇襲がたまたま成功したと」


 私は大葉アナの答えを肯定だとばかりに深く頷く。今度こそインタビューは上手くいっているはずだ。彼女は少し驚いてはいるものの、会話がストップする程ではない。


「それで、どのような攻撃魔法を使ったのですか?」

「攻撃魔法ではなく、拘束魔法を使った」


 またも目の前の大葉アナの思考が止まったようなので、会話が不自然に途切れる前に私は詳しく話す。


「まず、闇の鎖でオーガの全身の自由を奪った」

「なるほど、そこにすかさず攻撃魔法を叩き込んだのですね」

「違う。拘束魔法を全身の骨が砕けるまで重ねがけした。確かに攻撃魔法のほうが安全で楽。でも、周りの建物や襲われている人たちに被害が出る可能性があった。

 私の負担や危険が増えても、あの時は人命を優先すべきだと判断した」


 何度重ねがけしたのかは忘れたが、最初の一回だけで既に指一本自由に動かせなくなっていたので、多分ニ、三回程度で問題なく倒せただろう。

 ここで大葉アナの三度目のフリーズである。微妙に目に涙が滲み出ている気がする。さり気なくハンカチで目元を拭いて、質問の続きを行う。


「最初に我が身を顧みずオーガを轢き殺したのも、民間人の被害を気にしてのことでしょうか?」

「違う。助けられるのに目の前で見殺しは、何となく嫌だっただけ」

「そうですか。黒猫の魔女ちゃん、ありがとうございます」

「んっ…? どういたしまして?」


 実際にあの時はオーガを倒すという明確な目的こそあったものの、民間人の被害はあまり気にしてはいなかった。余裕があれば助けたいのは事実だが、何と言うか無我夢中で行動した結果、たまたま上手くいっただけだ。

 もし私に命の危険が迫れば躊躇なく見捨てたかもしれないので、感謝される程ではない。そう疑問に思いながらも小首を傾げて返答を行う。


「しかし、黒猫の魔女ちゃんは本当に可愛らしいですね」

「それは質問? ならはっきりと否定する。私は可愛くない」

「質問でも場を和ませるジョークでもなく、事実です」


 現実では地味、根暗、メガネ、ボサ髪の身体的特徴と、無口で口下手でコミュ障の私だ。

 言葉では否定したものの、この程度の社交辞令で喜んだりしないので、大葉アナにありがとう…と、少しだけ頬を染めて三角帽子を指先で弄りながらも、何とか小声で返す。


「だからこれは犯罪級の可愛らしさですよ! きっ…気を取り直して、今後の魔法少女の活動は、どのように行っていくつもりですか?」

「魔法少女の活動はしない」


 元々は法律違反になるため届け出だけで済ませる予定だったのだ。その時に手続きしてくれた石川君や卯月家の皆に恩を返すために、今回のカテゴリー2を倒すことに協力した。

 しかしその後は魔法少女を続けるつもりはなく。安藤ヤミコとしてひっそりと暮らしていくのだ。


「魔法少女の活動はしない? つまりアイドル活動をメインにするのですね。それもいいですね。

 この大葉チズルが黒猫の魔女ちゃんのファン、第一号として立候補していいですか?」


 魔法少女には魔物を倒す、そして国の広告塔になるという二つの役目がある。どちらをメインにするかは本人のやる気と素質次第だが、常に平均で十四、五の若々しい年齢をキープ出来る彼女たちは、どちらを選んでも問題ない。

 それにしても大葉アナが何やら興奮状態になっているようで、少し怖く感じる。


「それも違う。私が黒猫の魔女に変身することは、もう二度とない」


 大葉アナの四度目のフリーズである。今度は復帰に時間がかかっているようだ。


「何より、私以外にも優秀な魔法少女は大勢いる」

「たっ…確かに、魔法少女は黒猫の魔女ちゃん以外にもいますけど!

 今回のカテゴリー2を被害者なしで食い止められたのも全て、貴女の活躍があってこそですよ!」


 大葉アナが自分の感情を隠そうともせずに、必死に私の説得を行う。これは単独インタビューではなかったのだろうか。質問になっていない気がするんだが。


「私が駆けつけなくても、きっと他の魔法少女が間に合っていた」

「黒猫ちゃんでも危機一髪でしたよね? 絶対間に合いませんよ! 被害者出ちゃいますよ! 黒猫ちゃんはそれでいいんですか!」


 いつの間にか黒猫ちゃん呼びになっている。どうやら大葉アナの中では、その呼称で決定したようだ。まあ黒猫の魔女は語呂がちょっと悪いというか、人の名前としては使い辛いし仕方ない。

 彼女の言う通り、ギリギリ間に合わずに民間人がオーガに惨殺されていく場面を想像すると、何となく心がモヤモヤして気分が悪くなってくる。


「ちょっとだけ嫌…かも」

「そうですよね! そんなの私も嫌です! だから続けましょうよ! 魔法少女! 私も出来る限りお手伝いしますから!」


 もはや質問とは完全に関係なくなっている気がする。そして大葉アナやテレビのスタッフも妙にテンションが上っている。その興奮はファミレスの中の魔法省の関係者や店員だけでなく、外の大勢の人たちにまで、瞬く間に広がっていくのがわかる。


「でも無理」

「どうしてですか!」

「痴女スタイルのバリアジャケットが恥ずかしいから」


 柔肌に張り付くような際どいウィッチの衣服は、実際に激しく動かなくても、少し体を動かすだけで見えちゃいけないところが色々と見えてしまいそうなのだ。

 しかし魔法的な効果なのか、魔法少女の衣装は頑丈に出来ており、ちょっとやそっとでは傷ついたりはしないし回復も早い。それに受けたダメージを肩代わりしてくれる。


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