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出会い

所々にイジメ表現があるものの、そこまで暗い感じではない…と思いますが、苦手な人はブラウザバックをお願いします。

<ヤミコ>

 地元でも特別な私立中学校に入学して三ヶ月が過ぎた。安藤夜美子は小学校の生活と同じように、目立たずひっそりと過ごすことに気をつけていた。

 ちなみに私の特徴は、黒の少し長めのボサ髪を三つ編みで束ね、胸とお尻が少しだけ大きく育っており、度が入っていない伊達メガネをかけて、後はひたすらじっとして置物に徹している。流石に一学期の終わり近くにもなれば、一年一組の雰囲気にもかなり慣れてきた。

 そんな私が放課後の教室掃除を行っていると、クラスの女子生徒の一人が乱暴に声をかけてくる。


「ちょっとヤミコ、そろそろゴミ捨てて来てよ」

「あっゴミ捨ててくるの? じゃあこっちもよろしくー」

「んっ…わかった」


 掃除の時間で教室等の集めたゴミを捨ててくるのは、いつも私の役目だ。汚いし重いし面倒だし、おまけに授業後なので他の皆は部活に行くなりさっさと帰ってしまうのだ。

 私は部活に入っておらずに帰宅部なので、ゴミ置き場に持っていくぐらい問題ない。今日は何人かが、残って途中まで手伝ってくれただけでも良いほうだ。

 そもそも両親と妹は、たとえ私が夜中にこっそり帰ってきたところで、気にも止めないだろう。そんなことを考えながらあかね色に染まる空をぼんやりと眺めながら、指定のゴミ袋を持ちながら、靴に履き替えて校舎の裏のゴミ置き場にトコトコと歩いて向かう。


 特に問題なく到着して、抱えていたゴミ袋をゆっくりと集積所へとおろす。これで自分の役目は終了だ。あとは家に帰るだけだと考えてパンパンと手を払い、そのまま教室に戻ろうと一歩踏み出すと、物陰から他の女子生徒のヒソヒソ話が聞こえてきた。


「ちょっとーあの子、またゴミ捨てやらされてるわよ?」

「あの子? 確か地味で出来の悪い姉の方でしょう? 名前も地味子だしね!」

「まさに光と闇よね。妹のミツコちゃんにいい所を全部取られたって噂よ!」

「きゃははっ! 本当にね! 姉に存在価値なんてないんじゃないの?」


 少しだけ耳障りだが直接手を出してこない噂話程度なら、もはや慣れたものだ。そのまま波風を立てずにやり過ごす。どうせあと三年の辛抱で、高校に上がれば妹とも両親とも離れて念願の一人暮らしが出来る…はずなのだ。それまでは面倒事を起こすのはごめんだ。

 私は何も聞こえなかったかのように、物陰で大声で喋っている女子生徒たちの隣を何食わぬ顔で静かに素通りして、カバンを取りに教室に戻る。

 一瞬こちらを蔑むような視線で見られたけど、そんなことは気にせずに、既に誰一人いなくなった教室から自分の通学鞄を回収して肩に下げて、そのまま徒歩で自宅へと向かう。







 中学から自宅にかけては住宅街が続き、三十分も歩けば何事もなく到着する。共働きの両親はまだ帰っていないので、自分が家事や食事の支度をする。私が帰宅部なのもこれが理由である。また、妹も帰宅部ではあるがこちらは別の理由がある。

 今日の夕飯はチキン南蛮だ。既に中学の制服にヒヨコのエプロン装備で料理をあらかた終えて、家族四人分のサラダとお味噌汁、炊飯器にご飯もセットしたので、あとは下味をつけた鶏肉を油で揚げるだけで完成である。洗濯物は取り込んで丁寧に折りたたんだし、掃除も簡単に済ませた。残った時間は予習復習でもして時間を潰そうかなと考えていると、ポケットに入れておいた携帯が、着信を知らせる振動で少し揺れた。


「んっ…誰?」


 と言っても九割以上の確率で相手の想像はつく。私に友達は一人もおらず、身内以外は誰も登録していない。さらに両親からの連絡は稀だ。


「今朝はカフェオレが飲みたいって言ってた」


 案の定妹からのラインであった。今朝カフェオレが飲みたいので買っておくようにと命令された。そのために帰り際にわざわざスーパーに寄って購入して来たのだ。それが今度は限定販売のオレンジジュースをご所望らしい。

 こうなった妹は誰にも止められない。と言っても、私以外止めようとする人など誰もいない。何しろ両親もクラスメイトも、国中の人たちまでが妹の味方なのだ。

 私も別に好き好んで逆らうつもりはない。どうせ中学卒業後には、地方の高校に離れる予定なのだ。それまで身内とトラブルを起こすのはごめんである。


「今回は…少し遠くのコンビニ限定?」


 あの妹のことなので、わざわざ遠くのコンビニの限定販売だと知った上で命令にしているのだろう。ミツコは私を困らせることでストレス解消を行っているのだ。両親はわかったうえで、姉なので我慢しなさいと返すし、他の皆も気づいていながら彼女の味方になっている。

 しかし今はそんな後ろ向きなことを考えている暇はないので、下ごしらえの済んでいる食材に全てラップをかけて、片っ端から冷蔵庫に入れる。書き置きとしてメモ帳に要求された飲み物を買いにコンビニに行ってくること、食材は冷蔵庫の中にありいつでも仕上げられることを書いて、机の上に置いておく。

 これで両親が帰ってくれば、私抜きで食事を取れるだろう。







 遠くのコンビニで目当てのものを無事に購入し、帰宅しようとする頃には、既に空は太陽が完全に隠れてしまい、町中には暗がりが広がっていた。

 街路灯や住宅や店の明かりが自分の歩いている道を照らしている。人も車も殆ど通っていない。


「三件目でようやく入手。かなり暗くなった。早く帰る」


 誰に聞かせることもなく、コンビニの前から自宅に向かって早足に歩き出す。今頃は妹がお腹を空かせているか、両親が帰ってきて私に抜きで和気あいあいと食卓を囲んでいることだろう。物心がついてからずっとこの状況なので、いい加減慣れたので何とも思わない。

 唯一望むのは、早く自由になって厄介事に関わることなく、日々を平穏に暮らしたいということだけだ。


 自宅に帰ろうと何気なく早足で歩いていると、ふと目の前に同じ中学の制服を着た男子生徒が横断歩道を横切っているのを見つけた。歩道の信号は青なので別におかしな所はないが、何だか彼めがけて猛スピードで乗用車が突っ込んで来ている。速度を緩める気がないようだ。


「…危ない」


 男の子は突っ込んでくる車のほうに向きを変えたまま驚いて硬直し、車に乗っている人も直前になって不味いと気づいたのか急ブレーキをかけるが、タイヤとアスファルトの擦れる不快な音が響くばかりで、到底間に合いそうにない。

 私は流石に目の前で人身事故が起こるのは寝覚めが悪いと考え、条件反射的に隠していた力を使うことに決める。


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